第43話 デスシャークのフカヒレ

「本当にダンジョンの中に海があるぜ。これが、いわゆる特殊階層ってやつか」


「拳さん! 大きなサメが!」


「任せろ! 鷹司!」


「こんな大きなサメに齧られたら、ひとたまりもありませんわね」


「……」


「ホンファ、どうかしたの?」


「あの背びれの大きさ……いいフカヒレが獲れるかなって」


「ヒレなんて美味しいの?」


「美味しいよ。姿煮にしたら最高! その前に干さないと駄目だけど」


「リョウジなら、フカヒレも作れそうね」


 


 今日は、週に一度のパーティによるダンジョン探索の日。

 上野公園ダンジョンと、他いくつかのダンジョンにある海の階層で、俺たちは『デスシャーク』という大きなサメと戦っていた。

 俺が見本として一匹倒すと、すぐに剛たちもデスシャークを倒せるようになった。


「リョウジ、まだこの辺の階層は動画で配信していないよね?」


「まだ早いだろう」


 ダンジョン探索チャンネルの更新は毎日続いていたが、俺とイザベラたちしか到達できない階層を先に説明しても意味がない。

 ちゃんと、世界ランカーたちの攻略スピードに合わせて動画を公開していたのだ。

 なのでデスシャークについては、この世界では俺とイザベラたちしか倒していないはず。

 海での戦いになるし、弱い冒険者は一撃でデスシャークに食い千切られてしまう。

 危険だし、無理をさせないよう、あまり先の階層まで動画を更新していなかったのだ。

 決して、PV稼ぎのために毎日分割投稿しているってわけじゃないぞ。

 俺が楽々クリアーしているからか、自分も余裕だろうと思い込み、無茶をする冒険者が少なからずいるからだ。


「ちなみに、デスシャークは肝油、皮、歯、牙などの素材が高く売れる。そして一番欲しかったのは背びれ!」


「やっぱり、フカヒレの材料なんだな」


「そう! フカヒレの材料だ」

 

 剛、だから俺はここでデスシャークなんて倒しているんだよ。

 海に住むデスシャークは、レベル上げではもっとも効率が悪いモンスターなのだから。


「なんかそう言われると、食べたくなってしまいますよね」


「リョウジ、上野公園近くにある高級中華店に寄って帰りましょう」


「ボクも、リンダの意見に賛成!」


「私もです。フカヒレの姿煮。美味しいですよね」


「俺もそう言われると食べたくなってきた」


「剛もか。俺も」


 デスシャークの背ヒレはまだフカヒレに加工していないから無理だけど、俺たちの稼ぎなら、フカヒレのフルコースくらいは普通に食べられるのだから。

 そんな話をしたからか、今日も多くの成果と共に上野公園ダンジョンを出た俺たちは、その足で近くの高級中華料理店へと向かった。

 目標は、当然フカヒレである。

 

「楽しみですね。香港旅行で食べたのを思い出します」


「フカヒレ、 いいですよね。私も赤坂の中華料理店で」


「イザベラも、アヤノも食べたことあるのね。私は食べたことないわ」


「言うまでもなく俺もな」


「俺もだけど……」


 きっと、俺と剛と、リンダがフカヒレを食べたことがない理由は全然違うと思うな。

 そんな話をしている間に、俺たちは高級中華料理店に到着した。

 ここは、最近できた老舗の支店であり、上野公園近くには大金を惜しまず払ってくれる冒険者が多いので、それ目当てに支店をオープンしたようだ。

 そんな高級飲食店は、最近多かったけど。


「フカヒレは高級品だからねぇ。でも、リョウジ君が自分で加工すれば、食べ放題?」


「加工はできるけど、フカヒレは時間がかかるから、材料を業者に売った方がいいと思うな」


 デスシャークの背びれからは、高品質で大きなフカヒレが獲れるけど、フカヒレの加工には時間がかかる。

 長期間干さないといけないからな。

 そのせいもあって、今夜のフカヒレは普通のサメのフカヒレになったのだから。


「もしフカヒレがあったとしても、調理にも時間がかかるから、お店に持ち込めばすぐに調理してくれるっていうものでもないけどね。乾燥したフカヒレを戻すのに、何日もかかるんだよ」


「詳しいのね、ホンファは」


 リンダは、フカヒレについて語るホンファに感心していた。


「香港のお金持ちはフカヒレが大好きだからね。もしデスシャークのフカヒレが市場に出回るようになったら、大枚叩いて買い集めると思うよ」


「それは今後のお楽しみということで、今日は普通のフカヒレを楽しみましょう」


 イザベラがそう言ったのと同時に、注文した豪華なフカヒレの姿煮が届く。

 今日はデスシャークを山ほど倒せたので、その日の夜はみんなでフカヒレパーティーとなった。

 そしてしばらくたってから、サブチャンネルの撮影で……。


「デスシャークから採取したヒレを、六十度前後のお湯で五分ほど茹でると、 ヒレの外側の皮が簡単に取れます。次に水気を切ってから、二ヵ月以上干します。これは普通のフカヒレの作り方と同じです。デスシャークのヒレは大きいので、しっかりと干さなければいけませんが、 見てくださいこの太いフカヒレの繊維を。通常のフカヒレば太いほど高級品とされていますので、これは楽しみですね。完成したら実際に調理してみますよ」


 そして二か月後。

 続きの動画が撮影された。


「さすがにフカヒレの調理には自信がないので、老舗の中華料理店に調理を依頼しました。試食してくださるゲストも呼んでますよ」


 ホンファが紹介してくれた都内の高級中華料理店で、実際にデスシャークのフカヒレを調理するところを撮影させてもらった。

 お湯と水で戻した乾燥フカヒレに、金華ハムなどで作ったスープをじっくりと染み込ませていく。

 姿煮、スープ、 丼、麺などが次々と作られ、それをイザベラたちと試食し始めた。

 俺は素顔のままだけど、どうせ俺の正体と顔は割れていたし、外に出る時は魔法で顔を変えているから、フルフェイスの兜はやめて素顔で活動するようになっていたのだ。


「これは美味しい!」


「普通のフカヒレの最高級品よりも、繊維が太くて食べ応えがあっていいねぇ」


 香港の高級中華料理店でフカヒレを食べたことがあるホンファが気に入ったのだから、いい商売になりそうだな。


「フカヒレって、こんなに美味しいのか。高いだけはあるんだな」


 剛、実は俺もフカヒレなんて食べたことがなかったから同じことを思っている。


「これほど繊維が太いフカヒレは、ダンジョンにいる巨大サメモンスターだからこそですね。とても美味しいです」


「幸せのひと時ですわね」


「調理も素晴らしいよね」


「どうして高いのか理解できたわ。初めてだけど美味しいわ]


 綾乃、イザベラ、ホンファ、リンダ。

 その辺の芸能人でも歯が立たない美少女たちがフカヒレを美味しそうに食べる動画がウケたようで、コラボ企画は大成功であった。

 別視点の動画も彼女たちの動画チャンネルに更新され、多くのPVを稼いでいく。

 やはり、イザベラたちに動画投稿を勧めて正解だったな。

 実は、撮影や動画の編集は俺に委託しており……というか、ドローンやゴーレム、プロト1がやってくれるので、彼女たちは大した手間もなく動画配信で稼ぐようになっていた。

 うちのフルヤ企画は、イザベラたちのインセンティブ収入から二割を貰って大儲けという。

 別に、これ以上儲ける必要はないんだけどつい?


「いやあ、デスシャークのフカヒレ料理のフルコース。美味しかったですね」


 最後に、俺が締めくくって動画の撮影が終わる。

 これをプロト1が編集してサブチャンネルに更新されると、イザベラたち美少女とのコラボ効果もあり、これまでの最高PVを更新することができた。

 そして動画自体の評判もさることながら、別の問い合わせも殺到するようになった。


「社長、デスシャークのヒレの問い合わせが凄いですよ。他にも、カマボコを作っている企業や、店舗。肝油ドロップのメーカーや、健康食品メーカーもですね」


「デスシャークの素材は、ために売るくらいならいいけど……」


 デスシャークの素材を売ってほしいという国内外の企業が殺到したので、結局定期的に採取して売却することとなった。

 かなり強気な値段を言ってみたのだが飛ぶように売れていき、加工された『ダンジョンフカヒレ』は超高級料理の代名詞となり、世界中のセレブの間で人気となるのであった。


「一皿百万円……誰が頼むの?」


「すげえよな。百万って、軽自動車の中古なら余裕で買えるぜ」


「そうだな」


 実は剛とは違い、俺は密かにカップラーメンいくつ分かと計算してしまったけど。

 根が貧乏性なんで仕方がない。


「デスシャークが生息する階層には、リョウジさんしか到達できませんからね」


「ボクたちだって、リョウジ君に連れて来てもらってようやくだものね。リョウジ君がいないパーティなら死んじゃうかも」


「私たちは海での戦闘に慣れていませんし、雷撃魔法は有効ですけど、やりすぎるとデスシャークの背びれや身が焼けて、商品価値がなくなってしまいますから」


「他のモンスターも同じだけど、商品価値のある背びれに弾を当てないようにしないとね」


「次は、森の特殊階層でポイズンボアの群生地があるんだけど、ここに高級なトリュフが獲れるんだよ。どうやって調理するか知らないけど」


 これは薬草などと同じでアイテム扱いなんだけど、実はあまり使い道がないという。

 食べると……美味しいのかな?

 俺はトリュフも食べたことないし、向こうの世界では誰も採取しないほど価値が低かったからなぁ……。

 でも、この世界ならお金になるという不思議。

 動画も撮影しないと。 


「トリュフも美味しそうなので、来週はそこに出かけましょうか?」


「俺も……なあ、グローブナー。トリュフって美味しいのか?」


「私は美味しいと思いますけど」


「タケシ、日本で言うならマツタケようなものだから」


「じゃあ、香り優先なのか」


「剛さん、実際に採取して食べてみればわかりますよ」


「それもそうだな。来週が楽しみだぜ」


「その前に、ポイズンボアとの死闘があるけど、全部私の弾丸の餌食にしてあげるわ」


 こんな感じで、俺が動画で紹介したモンスターの素材を加工した超高級食品が次々と登場しては、今度はテレビなどで紹介されて大人気となり、これを効率的に集められる冒険者は稼げるようになっていく。

 個人的には、非常に高価なダンジョン産食材を使った高級料理にお金を出せる金持ちって、世界中に沢山いるんだなって思ったけど。

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