第36話 新メンバー
「ダンジョン攻略チャンネルは、毎日世界中のダンジョンの映像と、その攻略情報の解説、様々なモンスターの出現階層、手に入る魔石の品質、素材と鉱石の詳細、効率のいい倒し方、解体し方、などを順番に更新しています。是非ダンジョン探索時の参考にしてくださいね。今日はサブチャンネルの方だけど、二百七十五階層に出現するモンスター『マツザカ』の肉を焼いて食べます。マツザカって変わった名前ですけど、これは巨大な黒い牛のモンスターです。普通の人間が突進を食らうと木っ端微塵になりますが、倒せばこのように、見事なサシが入ったお肉が大量に手に入るんです。ステーキ、すき焼き、牛丼、スジ煮込み、味噌ホルモン焼き、そして肉汁タップリのハンバーグ! 実際に作ってみましょう!」
サブチャンネルで、マツザカという牛型のモンスターから手に入れた霜降り肉を使って、大量に料理を作り、試食した動画を公開したら、もの凄く視聴回数が稼げた。
そういえば、他の冒険者たちもサブチャンネルで俺と同じようなことをしているのだけど、ダンジョンの様子を撮影せずにサブチャンネルのネタ的な動画の撮影に夢中になり、ダンジョンに潜るのをやめた結果、 動画の視聴回数が落ちてしまう人が定期的に出ていると聞く。
サブチャンネルの人気が出てくると次第に、『無理にダンジョンで危険な思いをして本チャンネルの撮影をしなくても、サブチャンネルの撮影で生きていけねえ?』などと勘違いし、他の人気動画配信者のような動画を更新した結果、視聴回数が落ちてしまうのだ。
やはり手抜きはよくないよな。
俺は、本チェンネルもサブチャンネルもちゃんと撮影しているぞ。
なにより俺の動画が人気があるのは、本チャンネルでガチのダンジョン攻略の様子を撮影して公開しているからだ。
冒険者がサブチャンネルだけ更新していたら、他のジャンルの人気動画配信者に負けて当然であろう。
佳代子も同じ道を辿り、さらに俺の婚約者だと名乗ったことが嘘だとバレてしまい、今は学校に来ていない。
ダンジョンに潜っていないと聞くので、今は一体なにをしているのか?
俺が心配しても仕方がないというか、下手に同情すれば元の木阿弥である。
冷たいと思われるかもしれないが、放置するしかないのだ。
「マツザカって名前が不思議ですが、確かに高級和牛をもっと美味しくしたような味ですわね」
「極一部の冒険者たちが到達している階層なので、買取所に依頼を出す飲食店が多いかもしれないね」
「すき焼きが美味しいです。甘辛い割り下は、日本人の心の故郷ですから」
「肉うめえ」
「アメリカのステーキとは全然違うけど、とても美味しいわ。コウベギューのステーキに似ているけど、もっと美味しいわね」
動画撮影後。
編集と更新はプロト1に任せて、俺のマンションの部屋で肉パーティーを開いた。
同じマンションの最上階に住むリンダも参加し……最初は三人との仲が険悪そうなので心配だったが、すぐに仲良くなってくれたようだ。
よくも悪くもリンダは正直な性格なので、すぐに三人と仲良くなってくれて助かった。
女性たちの喧嘩を止めるってのは、なかなかに難義だからな。
金持ち喧嘩せず、を実践してほしいと思うよ。
「リンダは、誰とパーティを組むんだ?」
「そうね。ちょっと特別クラスの同級生たちと組むのは難しいかもしれない」
「そうだな」
特別クラスにおいて、俺が圧倒的に一番で……レベルは表示されないけど。
次に、イザベラ、ホンファ、綾乃、剛が続く。
四人のレベルはほとんど差がない。
金色のドラゴンと一緒に戦ったおかげで、レベルは1500を超え、俺を除く世界のトップ4と呼ばれていた。
で、リンダなんだけど、本当にとても努力したようだ。
レベル623は、アメリカで二位以下をかなり引き離したトップであった。
俺たちを除く、特別クラスの生徒たちの平均レベルは200ちょっと。
全員が日本冒険者ランキングの上位に入っているが、五十億円の強化費用を惜しむ者が多くて、海外のトップランカーたちには負けている。
国ごとの冒険者の平均レベルでは、日本は二位のアメリカと三位の中国を大きく引き離して世界のトップであった。
冒険者が平均的に強いのが日本の特徴で、少数のトップランカーたちが国別の平均レベルを上げているのが他国、といった感じだ。
どちらがいいかのと問われると難しい質問だが、個人でなら圧倒的に五十億円支払って俺の強化訓練を受けた冒険者の方が優れているに決まっている。
実際彼らは、人によっては一~二年で五十億円を取り戻せそうなペースで稼いでいるそうだから。
「三分の一のレベルの人たちと組むと、活動に制限が出てしまうからな」
「では、私たちのパーティへどうぞ」
「いいのか? イザベラ」
「構いませんわ。ねえ、ホンファさん」
「そうだね。リンダはガンナーだから、遠距離から攻撃できるのが強みだ。弓を使うアーチャーはどういうわけかなかなか出ないジョブだし、それならガンナーでも同じだよね」
「私の魔法の他に、もう一人遠距離攻撃できる人がいるとありがたいですから」
「俺は回復役だからな」
「あの……拳さんは、前衛でもお強いではありませんか」
「お前、前衛で戦ってるの?」
「たまにだよ。バックアタックの時とか」
「そうか、バックアタックなら仕方がないよな」
時おり、いくら注意していてもモンスターからバックアタックを食らうことがある。
これでレベルの高い後衛職の冒険者が死んでしまうので、俺も動画で何度も注意していた。
見張りを置くか、盗賊系の冒険者が『警戒』するのが一番だけど、ずっと続けるのも大変だ。
それに、バックアタックを食らいそうな場所は限定されている。
なら、そこだけ気をつければいいと思うだろう?
だが、ダンジョンはRPGに似ている。
たまに、どんなに凄腕の冒険者パーティが警戒していても、定期的にバックアタックを受けてしまうのだ。
これは俺の想像だけど、ダンジョンがわざとそうしているように感じていた。
バックアタックをゼロにできないので、本当は後衛職の防具を徹底的に強化するという策も有効だが、たまに食らうバックアタックのために、後衛職をガチガチに固めるのもコスト的に大変だ。
絶対に有効な方策がないので、どうしてもバックアタックの犠牲者をゼロにはできなかった。
「俺は防具をしっかり揃えているぞ」
「剛は、重たい防具でも余裕で装備できるからな」
よくRPGだと、ジョブによって装備できない防具があったりする。
だが現実のダンジョンの場合、ジョブよりも本人の能力によって、武器や防具の装備できる、できないが決まっていた。
剛は力があり、基本的にどんな防具でも装備可能であった。
サイズが合えばだけど……。
むしろ現実の冒険者の場合、武器や防具のサイズの問題の方が深刻かもしれない。
装備品は性能がよくて優れた素材や金属を用いているものほど、修理や、改良、サイズ調整が非常に難しいからだ。
下手な職人に任せた結果、大切な装備品は使えなくなり、素材に戻すしかないパターンも非常に多かった。
この世界では、冒険者用の装備品を弄れる職人が育ちきっていなかったからだ。
「リンダの加入は悪くないな。バックアタック対策では、俺が盾になればいいから。それよりも後衛の火力増強は多いなメリットだ」
バックアタックは自分が盾になって防ぐのか。
剛はいい奴だな。
「(それとは他に、一つ問題がないか?)」
最初の最悪な状態からは脱したが、イザベラたちとリンダが最初喧嘩していたのは事実。
パーティを組むに際し、多少のリスクがあるような気がするが、本人たちがそれでいいと言っているのだから問題ないのかな?
「(問題はないみたいだから、安心しろって。俺もいるから)」
「(そうか……)」
せっかく俺がレベリングに協力し、世界トップパーティにまでなったので、しょうもない理由で潰れてほしくなかったのだ。
それにしても、剛はいい奴だな。
イザベラたちの誰かが、彼に惚れても不思議ではないくらいなのに……。
「いつか、リョウジと同じパーティでダンジョンに潜りたいわね」
「それは私も同じです」
「ボクも! だから頑張ってレベルを上げないとね」
「魔法系の職業はレベルが上がりにくいので頑張ります」
「五人でやれば効率も上がるだろうからな」
「サンキュー、イザベラ、ホンファ、アヤノ、タケシ」
イザベラたちも、戦力強化ができてちょうどよかったのかな?
喧嘩しないで、上手くやってくれるといいんだけど。
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