第34話 黄金イモ

「ゴーレムたちに農作業を任せ、『成長促進剤』と『魔肥料』を使うと、農作物の収穫が早いな。『黄金イモ』がよく実っている」


「黄金イモ? 黄金色のサツマイモですか?」


「安納芋のように黄色ではなく、本当に黄金色に輝いてますね」


「リョウジ君、これはダンジョンで手に入るの?」


「入る! 上野公園ダンジョンだと、八百五十六階層で定期的に出現するダンジョン内の宝箱の中に入っているのさ」


「よく覚えているね」


「ホンファももう覚えたでしょう? レベルアップで知力が爆発的に上がっているんだから、優れた冒険者は一度覚えたことを絶対に忘れない」


「試験には最適な能力だよね。で、黄金イモは美味しいの?」


「黄金イモは、品種改良の結果誕生した農作物ではない。ダンジョンから人間に与えられたものなので、農作物としては完成品に近いんだよ。石で焼くと、濃密な蜜が溢れてとても美味しい」


「食べたい! リョウジ君、プリーズ」


「私も食べたいですわ!」


「いいですね。石焼イモを嫌いな女子はいませんから」


「俺も食べたいな」


「私も食べる」




 いくら会社の住所のためとはいえ、上野公園近くの古いワンルームマンションの一室では駄目だと岩城校長に言われてしまい、そこからそう遠く離れていないが、超高級マンションの一室を会社名義で購入した。

 そこに最低限の生活スペースを整備したが、やはり生活の拠点は『裏島』にある屋敷であり、イザベラたちも入れるようにしたのは、俺が彼女たちを信用しているからか?

 岩城理事長は同類の同士で、剛は俺の数少ない友達だからであろう。

 幼馴染の佳代子はあの様だし、他の中学時代の同級生たちとも生活がまったく変わってしまったので会わなくなった。

 生活が変わってしまうと、つき合う人間が大きく変わるというのは本当なんだな。

 とある層に言わせると、俺は冷たい人間なのかもしれないけど。


「黄金イモの焼き芋が焼けたぞ」


 魔力で石を加熱する石焼き機から取り出した黄金イモの焼き芋からは、溢れんばかりの蜜が垂れていた。

 ダンジョン内で手に入れたレアアイテムを栽培したものなので、黄金イモはねっとり甘くて、まるでスイーツのような美味しさだ。

 じきに手に入れる冒険者もいると思うが、もう少し時間がかかるかもしれないな。

 なお、これを栽培するとなると手間がかかる。

 特に、成長促進剤と魔肥料がないとただのサツマイモと化してしまうので、それなら手に入れたらすぐに食べてしまう方がいいと思う。

 ダンジョンで手に入るアイテムは、下層に行けば行くほど品質が上がるけど、これを同じ品質で再生産するには、やはりダンジョンで見つかるアイテムを用いた魔法薬や魔法道具が必要なので、希少性にそう変化はなかった。 


「そういえば、岩城理事長は農業はやらないの?」


 イワキ工業には資金力も技術力もあるから、儲かる農業もできると思うんだよね。


「やってるけど、今は薬草と薬草コケの栽培で手一杯だよ。採算が取れていない野菜工場を買い取ってね。改良して栽培しているの。二階層よりも下に向かう冒険者が増えて、ポーションの需要が大幅に上がっているからね」


 今、日本では冒険者の数が大幅に増えていた。

 どうしてかというと、日本はダンジョンが多く、階層も深いので成果が大いに期待できるからだ。

 もう一つは、ダンジョンに潜る冒険者特性を持つ人の数が増えた。

 冒険者特性はないが、毎日スライムを懸命に刈っている人たちの前に謎の占い師が出現し、十万円で冒険者特性が授けられる。

 俺が冒険者特性を持ちながらもダンジョンに潜らない人たちから『レベルドレイン』を使ってそれを取り上げ、真面目にダンジョンに潜っている人たちに十万円で分け与える。

 その作業が順調に進んでおり、今の日本では、冒険者特性を持っているだけの年寄りや、ダンジョンに潜らない人たちが次々に冒険者特性を失っていた。

 元から使っていないことは確認済みで、なにより冒険者特性はレベル1のままだと普通の人とまったく変わらない。

 失って困るものでもないし、なにより効率が悪いのだ。

 下手をすると、ダンジョンに潜らずレベル1のままなのに、一般人に威張り散らすバカまで出現した。

 冒険者のイメージが落ちると俺にも不利益になるので、そういう輩からは急ぎ冒険者特性を取り上げている。

 取り上げた冒険者特性を、冒険者特性を持っていないが真面目にダンジョンに潜っている人たちに譲ったほうが、生産効率も上がるというものだ。

 俺は決して正義のためにやっているのではなく、一日でも早く多くの冒険者たちがダンジョンの深い階層に潜り、魔石や資源、モンスターの素材、ドロップアイテムを大量に供給してもらいたいと思っているだけだ。

 一日でも早くそうしないと、なかなか世の中がよくならないからな。

 俺の仕事が減るという、メリットにも期待できる。


「ハイポーションの需要も増えてるし、古谷君がReスライムの体液を手に入れることができて助かったよ。Reスライムの体液は海外からの引き合いも多いけど、よそに売る余裕はないなぁ」


「イワキ理事長は、自分でダンジョンに潜らないの?」


「私は戦闘力が低い冒険者なんだよ。その代わり、RPGでいうところの支援職のスペシャリストだから」


 ホンファの質問に岩城理事長がそう答えていたが、彼はその辺の冒険者よりも圧倒的に強いだろう。

 彼が前線に出ると色々と非効率だから、それで構わないのだけど。


「私の場合、イワキ工業と冒険者高校を経営していた方が世の中のためだからね」


「日本中の冒険者たちのサポート役ということですね。今では、日本国内で最も注目を浴びている企業体ですけど」


 いまだ世界のどの国や企業も成功していない、ミスリルの精練とミスリルメッキ技術を有しているからだ。

 特にミスリルメッキは、魔石を用いた動力や発電の効率を大幅に上昇させられる。

 化石燃料を用いる内燃機関や発電機をそのまま流用できるというのも、大きな強みとなっていた。

 粉末にした魔石と純水を混ぜた魔液を燃やしても二酸化炭素が出ないので、世界中でクリーンエネルギーとして注目を集めている。

 現在世界中で火力発電所を魔液対応に改良している最中だが、ミスリルメッキを用いたタンクや装置部品を使うと燃費が桁違いによくなるので、フルヤ工業は大忙しであった。


「そのうち、うちの理事長はフォーブスの世界の顔とかに載りそうだな」


 確かに剛の言うとおり、そういうのに選ばれそうだ。


「多分選ばれると思うけど、古谷君もじゃないかな? なにしろ、富士の樹海の上空に出現した金色のドラゴンを一人で倒してしまったんだから。ダンジョン探索チャンネルも、チャンネル登録者数が十億人超えだものね」


 撮影以外の業務をプロト 1に任せている動画配信業だけど、今では冒険者以外の人たちも楽しむようになっており、インセンティブ収入が凄いことになっていた。

 ただ、 俺の本業は冒険者なので、有名な動画配信者のもう一つの収入の柱である企業案件などは一切引き受けていない。

 動画でも、冒険者の仕事が最優先になのでお断りしていますと言ってある。

 あとは、コラボ希望者がもの凄く多かった。

 フルヤ工業が高額ながらダンジョン内でも撮影できるデジタルビデオカメラの発売を開始し、これを購入してダンジョンに潜る冒険者や動画配信者が増えていたのだけど、正直彼らの相手にしている時間がなかった。

 マスコミ関係の取材もすべて断っている。

 俺はタレントじゃないからだ。

 なにより面倒くさい。


「そういうのに興味はないですね」


 魔王により滅びゆく世界を救うため、勇者様として戦っていただきたい。

 召喚されたばかりの俺にそう頼んだ王様は真に国や世界のことを憂いていたが、そんな状況でも自分のことしか考えない愚か者は多かった 。

 本当にバカな奴というのは実在する。

 すでに人間が一致団結して魔王に対抗していかなければ滅ぶ状況なのに、魔王と組んで人間の足を引っ張ったりするのだ。

 自分は魔王を利用している有能で、王様を打倒して自分が人間を指導するようになれば、すぐに魔王を滅ぼせる能力があると本気で思っていた。

 だから説得なんかしても意味はないし、むしろその時間でさらに状況が悪化してしまう。

 王様は俺に手を汚させなかったが、その分人間の戦力が減って、魔王とその配下相手に苦戦する羽目になったが。

 そんな俺は両親を亡くしてしまったこともあり、その直後親戚たちの裏切りもあって、年齢の割にひねくれてしまったと思う。

 岩城理事長、剛、イザベラ、ホンファ、綾乃くらいとしかまともにつき合っていない。

 向こうの世界で得た力でいくらでも稼げるので、嫌な奴に気を使ったり、ペコペコしながら生きたくないのだ。

 そのために、死にそうになって手に入れた力と考えている。


「ですが最近、良二様への不当な批判が多いと思います」


「綾乃、それは有名税だな」


 最近特に多いのが、コラボを断られた配信者たちだ。

 太陽銀行の腐れ支店長のニート息子と同類の連中が、自分たちとコラボしない俺はとても冷たい人間だと批判し始めたのだ。

 動画配信者には『物申す系』というジャンルがあり、俺を批判すると視聴回数が上がるそうで、好んで俺を批判していた。


「ところが不思議なことに、彼らが俺を批判すると、ダンジョン探索チャンネルの視聴回数が上がるという不思議」


 俺は学校に行っている時と、ダンジョンに潜っている時以外は、別空間の『裏島』の屋敷にいるか、 街中に出るときも『屈折』で別人の容姿に見えるように変装しているから、批判されても特に困るということはなかった。


「もう十分に稼いだから、このまま引退しても問題ないし」


「それは、日本政府が許さないんじゃないかな?」


「それは向こうの都合ですし、俺は俺がやりたいように生きて行くので」


 すでに俺のやりたいこととは、世間一般の人たちのものとは大分違ってしまっている。

 向こうが俺に合わせようとするのは勝手だが、俺が向こうに合わせようとすることはもうないんじゃないかな?


「私も日本政府の上の方へのコネがあるから、それとなく伝えておくよ。政治家ってのは俗物が多くて、世間のためと言いながら、自分が大きく得しようと思ってろくなことをしない奴も多い。注意するに越したことはないね」


「俺は、やられたらやり返す主義なので」


「君の仕返しは倍返しどころじゃないし、アシがつかないから怖いよね」


 そうしないと、向こうの世界の貴族にもしょうがない奴が沢山いたからだけど、この世界の政治家やそれ以外の人たちも、余計なことをしないことをただ祈るのみであった。





「見てください、この溢れんばかりの蜜の多さ。ダンジョンで手に入る黄金イモはとっても甘くて美味しいですよ。スイーツの材料としても最適です! サツマイモチップス、イモケンピ、プリンにケーキ、でも、スイートポテトが一番かな? 大学イモも作ってみたけど、これもいい!」 




 『裏島』でのゴーレムたちによる黄金イモの栽培は大成功を収めたので、これを調理してダンジョン探索『後』チャンネルであげたら、視聴回数をかなり稼ぐことができた。

 残念なことに、俺以外に黄金イモを手に入れた冒険者が一人もいなかったので、誰も実際にその味を試せなかったため、代わりにサツマイモがとてもよく売れたそうだ。

 あとで、お礼のサツマイモがJAから届いてそれに気がついたのだけど。

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