第29話 決着

「やれやれ……。これで一対一で全力で戦えるな。嬉しいだろう?」


「ギュワァーーー!」


「珍しく意見が一致したようだな、畜生」





 俺と金色のドラゴンによる死闘は長時間続いた。

 なぜなら、金色のドラゴンは時間が経つ毎に一定のダメージを回復してしまうからだ。

 ならば、回復量以上のダメージを連続して与え続ければ、いつか回復が追いつかなくなって死ぬはず。

 そういう計算の元、俺はゴッドスレイヤーを振るい、連続で金色のドラゴンを斬りつけていく。

 大剣を短い間隔で振るい続けることで、自動回復による回復量以上のダメージを与え続けていく作戦……作戦とまでは言えないか……。

 攻撃の間隔を広げると回復量に負けてしまうので、これは完全に持久力の勝負だな。

 RPGのようにHPは減らない……実際に確認したわけではないが、普通の人間では持てないほど重たい大剣を振るい続けるので、腕に疲労が蓄積してしまう。

 そのままなにも対策しないと腕が動かなくなるので、時おり回復魔法をかけて攻撃を続けていった。


「ギュワァーーー!」


「痛いか? 畜生。だが死ね!」


 それにしても頑丈な奴だ。

 さすがはドラゴン。

 全身のあちこちが傷だらけなのだが、思ったよりも出血量が少ないので傷が浅いのかもしれない。

 なかなかダメージが深く入っていかないな。


「クソッ! そうきたか! 『鉄塊』!」


 一方的に攻撃されていた金色のドラゴンは、その巨大な尻尾を振り回して俺の体を薙ぎ払おうとした。

 普通の人間なら一瞬で粉々に消し飛ぶが、俺は体を硬化させてダメージを減らす『鉄塊』をかけて致命傷を避ける。


「……っ! ノーダメージって訳にはいかないか……」


 体の骨の数箇所にヒビが入っり、頭から血が流れてきた。

 だが、この程度の怪我や痛みは向こうの世界で慣れている。

 すぐにアイテムボックスから取り出した、『エクストラポーション』を体に振りかけてダメージを回復させる。

 今は攻撃の手を緩めるわけにはいかない。

 俺は、大剣による攻撃を続けた。


「ギギュワァーーー!」


「残念だったな、畜生。こんなに小さい人間を潰せず、プライドが傷ついたか?」


 ドラゴンは喋れないが、総じてプライドが高い。

 尻尾による渾身の一撃で俺が死ななかったので、かなり激昂しているようだ。


「シュシュル……」


「甘い!」


 ブレスを吐こうとしていることなどお見通しだ。

 口を開けて空気を吸い込む時に聞こえる、鳴き声ではない、笛のような音が聞こえたので、すぐにわかってしまうのだ。


「そして、ブレスは開けた口を向けた方向にしか吐けない!」


 ブレスは吐く直前で、簡単に射線軸から外れることができる。

 逆転の手段として俺に吐こうとしたブレスは、射線上にある青木ヶ原樹海の木々を消滅させただけで終わってしまった。


「だが、壮大な環境破壊だ。こんなもの何発も吐かせるわけにいかないか……」


 もし人間が住む場所でこんなものを吐かれたら、多くの犠牲者が出てしまう。

 これは、早々に決着をつける必要があるな。


「ならば……。ここだぞデカブツ」


 今度は、金色のドラゴンが俺をブレスで狙いやすいよう、わざと正面で停止した。

 見え見えの罠だと思うが、金色のドラゴンには絶好のチャンスだと思ったようだ。

 大口を開けて、ブレスを吐く準備を開始する。

 俺にブレス当てさえすれば、自分の勝利だと思っているのであろう。


「(だが、そこまでバカってわけでもないようだな……)」


 これまで、俺が金色のドラゴンの全身に与えた傷がすべて消えている。

 自動回復の量から計算するとあり得ないので、無理をして自動回復の速度を大幅に早めたのであろう。

 これで傷はすべて回復したと思うが、無茶をしているので魔力量は大分心許ないはず。

 それでも俺を倒すことができれば、安全に休憩して回復させることができる。

 多分丸一日寝ていても、この世界の冒険者たちではダメージを与えることができないはずだからだ。


「(俺もこれでケリをつけよう)」


 時間をかけて倒す方が確実なのだが、なにしろ金色のドラゴンが巨大すぎるので、周囲に被害が出ないうちに倒した方がいいと判断した。

 俺は大剣を片手で持ち、膨大な魔力を集めて投擲の準備を開始した。

 下手な特級魔法を使うよりも、ゴッドスレイヤーを膨大な魔力を使って勢いよく投げた方が、 はるかにダメージを与えられるからだ。


「口の後ろもにも穴を開けてやるよ!」


 金色のドラゴンが再びブレスを吐く直前、俺はゴッドスレイヤーを槍投げの要領で全力で投げつけた。

 使用した膨大な魔力のおかげで一気に速度を増した大剣は、金色のドラゴンの口の中に飛び込み、そのまま喉の奥を突き破って貫通。

 それでも勢いが止まらず……とはいかなかったようで、富士山の山腹に突き刺さった。

 幸いにして、すでに登山客たちは避難しており、ゴッドスレイヤーで負傷した人はいなかった。

 富士山五合目にクレーターができてしまったが、そのくらいは許容してほしいものだ。


「死んだな」


 さすがのドラゴンも、脳幹の部分を破壊されて生きてはいけない。

 俺による渾身の一撃で即死した金色のドラゴンは、そのまま地面へと落下していった。

 すぐにその死体をアイテムボックスに回収し、さらに富士山の山腹まで飛んで行って突き刺さっていたゴッドスレイヤーも回収しておく。


「ふう。これで終わりだ」


 俺以外の人間を全員避難させていたので、まだ金色のドラゴンが倒されたことを知らないはずだと、俺は先ほどの着信履歴を利用して電話をかけた。

 富士の樹海に金色のドラゴンは出現したことを知らせてくれた電話番号なので、多分日本政府関係者が出るはずだ。


「もしもし」


『はい、古谷さんですか?』


「はい」


『あのぅ……どうなりました?』


 やはり、まだ金色のドラゴンが倒されたことを知らないようだな。


「無事に倒したので、現場の後処理をお願いします」


『よかったぁ………』


 通話をしている人の後ろから、大喜びする人たちの声が聞こえたので、また政治家お得意の対策会議の人たちかもしれないが、もう仕事が終わったので俺にはどうでもいいことだ。


「……疲れたから帰ろう」


 ゴッドスレイヤーを全力で振り回すと疲れるし、魔力はもうほとんど使ってしまった。

 これ以上はもう……。


「あっそうだ! フランスの仕事!」


 まだ中途半端だからな。

 性格上、中途半端は許せないので、俺は治癒魔法をダルさが抜けない利き腕に複数回かけ、魔力ポーションをガブ飲みしてから『テレポーテーション』でフランスへと飛び、攻略途中だったダンジョンに再び潜るのだった。

 そういえば、もうすぐクリアーしてダンジョンコアが手に入れられるとこだったのに……。

 途中で邪魔されると、腹が立つんだよなぁ。

 金色か銀色だか知らないが、腹が立つドラゴンだったな。

 素材は高く売れそうだから、その点はよかったのかな?

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