第14話 一人慣れ
「おう! 良二じゃないか!」
「拳君じゃないか」
「やめてくれ。君なんてガラじゃねえよ。剛でいいぜ」
「じゃあ剛で。今日はもう終わりか?」
「ああ。今日は二十五階層まで行ってきたぜ」
「それは凄いね」
「良二は、パーティを組まないのか?」
「Eクラスにいた時には、パーティを組むなんて考えられなかったから」
「それもそうか。あいつらどういうわけか、冒険者特性をなくして、他の高校に転校してしまったからな」
夜。
上野公園ダンジョンの入り口付近で剛と出会った。
彼は、Aクラスの同級生三人とパーティを組んでいるそうだ。
メンバーは戦士、魔法使い、盗賊だから、戦力的にはバランスがいいと思う。
問題は、治癒魔法を使える僧侶や大神官がいないことだな。
剛は武闘家だから……。
「おい、待てよ。良二、俺は『大神官』だぞ」
「えっ?」
なんと、剛のジョブは大神官だった。
向こうの世界にはジョブがなかったので解析が遅れたが、僧侶よりも高度な治癒魔法や補助魔法、聖魔法が使える。
ダンジョンの階層によってはアンデッドが出るので、僧侶系のジョブを持つ者をパーティに入れないと探索が難しい。
治癒魔法が使える冒険者は少ないので、結構取り合いになることが多かったのだ。
ちなみに、鷹司綾乃さんは賢者なので、攻撃魔法も治療法も補助魔法も使える。
大神官も上級職なんだけど、やはり賢者よりは評価が低い。
大神官は、攻撃魔法が一切使えなかったからだ。
「剛なら、前衛の戦闘でも活躍しそうだけど」
「俺もそう思うんだが、メンバーたちに止められていてな」
「当たり前だろう。お前になにかあったら、治癒魔法をどうするんだよ」
「至極当たり前の意見だな」
「せっかく特注のバトルハンマーを手に入れたんだけどなぁ」
「それを使わずに済むのが一番なんだけど」
「それもそうか。じゃあな!」
パーティメンバーかぁ。
考えてみたら俺って、向こうの世界でもずっと一人で戦ってたからなぁ。
なんでも自分でやらないといけないから、この世界でいうところのすべてのジョブを習得したし、最下層付近で鍛錬がてらモンスターを狩っているから、この世界の人間を仲間にしてしまうとすぐに死んでしまう可能性が高かった。
もしかしたら、俺ほど一人が似合う冒険者も珍しいのでは?
なんて思いながら自宅に『テレポーテーション』で戻ると、すぐに近所のスーパーで半額弁当を購入して夕食をとる。
「寂しい? うーーーん、俺は高校生だから彼女くらいはいた方がいいのかな?」
見た目は高校生だが、向こうの世界で十年も一人で戦ってきたせいで、ボッチ癖がついてしまったかもしれない。
Eクラスから特別クラスに編入になったのはいいんだけど、クラスメイトのみんなはもうとっくにパーティを組んでおり、俺と組んでくれそうな冒険者が一人もいなかった。
それは下のクラスを探せばいくらでも希望者はいるだろうが……寄生されてしまう危険がある。
そういう人と組んでいると、かえって精神衛生面で問題が出てくるからな。
「人生なんて、なるようになるものさ。明日は日曜日だけど動画の撮影でもするかな」
俺は、明日に備えて早めに寝てしまうことにした。
そして翌日。
「見てください! これが上野公園ダンジョンの百六階層にある、海の階層に生息する『大ウニ』ですよ」
今日は、サブチャンネルでやるダンジョン探索情報『後』チャンネルの撮影をした。
上野公園ダンジョンの百六階層……世界レコードはまだ三十九階層だけど……に生息するモンスター『大ウニ』。
直径が人間の身長ほどもあり、こいつは地球のウニとは違って、その巨体に比例して長いトゲを飛ばしてくる。
その威力は強力で、鉄のシールドぐらいなら容易に貫通してしまうほどだ。
伊達に、百六階層にいるモンスターではないのだ。
地球のウニとは違って、大ウニのトゲは主に黒鉛でできており、その体内に高品質の魔石を蓄えている。
そして……。
「大ウニは巨大なので、生殖巣が大きいのです。つまり、一体から大量のウニが取れます」
俺は大ウニの殻を割り、その中から大量のウニを採取していく。
「ウニ丼、ウニの軍艦巻、ウニパスタも。生だけでなく蒸しウニも作りましょう。ウニを惜しげもなく使った料理の試食は後半で!」
結局日曜日も仕事をしてしまったが、お昼と夕食に豪華なウニ尽くし料理を堪能し、俺は一人の休日を満喫したのであった。
なお、このウニの動画は日本で驚異的な再生回数を記録した。
「すでに本編動画を見た方はご存じだと思いますか、百七階層にはなんと大ナマコが生息しています。次回はこれを料理して食べたいと思います。またね!」
後日のことであるが、どうやらナマコ料理は外国人にウケなかったようで、通常よりも少し再生回数が減ってしまった。
本編の大ナマコの倒し方は好評だったんだけどなぁ。
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