第11話 レベルドレイン
「すげえ! こんなに大きなドラゴンを一撃で倒したぜ」
「でも、このドラゴンは『ベビードラゴン』なんだろう? 軽く全高十メートル以上あると思うんだが……」
「つまりこいつがベビーに見えるぐらい、さらに巨大なドラゴンが存在するわけだ」
「ダンジョンって怖いな」
「でも、勇者はそういうドラゴンが出るダンジョンをいくつもクリアーしているんだろう? 編集された動画は定期更新されているし、嘘はついてないと思うんだ」
「だろうな。それにしても、勇者が日本人って本当なのかな?」
「らしいぞ。動画配信サイトの運営会社は、報酬を日本に振り込んでるって噂だからな」
ダンジョン探索情報チャンネルの配信者は日本人という情報が漏れた……とは思わない。
動画配信サイトの運営会社の情報管理は完璧だからだ。
日本語で配信しつつ、世界各国の言語の字幕を入れているのだから、配信者が日本人なのは最初からわかっていたことであった。
コメント欄に書き込んだ人は、軽く嘘をついているのだろう。
「上野公園ダンジョンの四十六階層に出現するポイズンボアのお肉は非常に美味ですが、毒がある部分があるので、これを確実に除去しなければいけません。内臓も食べられるところと食べられないところがあるので、決して間違えないように。フグなんて目じゃないほどの猛毒です。一口でも食べると死にます。ですが、そのお肉はジューシーでとても美味しい。今日は、生姜焼き、トンカツ、角煮を作ろうと思います。次回更新の後半では、ベーコンとハムを作る様子と試食の様子も公開しますよ」
やはり、ポイズンボアのお肉は美味しいな。
日本のブランド豚のお肉よりもはるかに美味しい。
俺は簡単に狩れるけど、先日日本のトップランカーである留学生たちがようやく三十七階層にたどり着いたところなので、自由にポイズンボアの肉を食べられるのは俺ぐらいであろう。
「トンカツ、いいよねぇ」
「角煮はお酒にも合いそうです」
「職権乱用だなぁ」
冒険者高校の理事長室において、岩城理事長と、レベル26アサシン田中は、俺からせしめたポイズンボア料理を堪能していた。
俺を特別クラスに配属するというお話だったはずなんだが、賄賂……と呼ぶにはセコイ要求をしてくるとは……。
「ポイズンボアのベーコン楽しみですね」
「アメリカにいた頃、ベーコンをフライパンでカリカリになるまで焼いたものが好きでした。楽しみにしています」
レベル26アサシン田中は、色々と不祥事を起こした校長の後釜に座っていた。
岩城理事長の腹心ぽいので、二度と先日のようなことがないように、手綱を引き締めるためであろう。
なお、教頭も一緒にクビになっている。
最初、彼らを校長と教頭に送り込んだ文部科学省が文句をつけてきたそうだが、証拠と共に彼らの悪行を突きつけたら、二人はすぐに切られてしまったそうだ。
トカゲの尻尾とは哀れなものだ。
そして大きな弱みがあるため、文部科学省もまだ若い彼を冒険者高校の校長として認めざるを得なかった。
なんでも、今では成り手不足で校長と教頭への昇進試験がない県もあるそうで、一応教員免許を持っている、レベル26アサシン田中の校長就任に文句をつけられなかったようだ。
これぞ忖度の極みであろう。
そして俺は、Eクラスから特別クラスに編入となった。
「そういうことで、俺はクラスが変わります。では」
「俺は……古谷はやるやつだと思っていたんだ。俺の心の友よ!」
「さすがだな!」
「私たち、友達よね?」
「古谷君って、彼女いる?」
ポイズンボア料理を堪能する二人を置いて、俺は特別クラスに向かおうとしたのだけど、ここでEクラスの担任である佐藤先生が余計なことを言い出した。
最後にみんなに挨拶をして行けと、半ば命令したのだ。
どうやら彼女に悪気はないようだが、今では俺はこの人がかなり嫌いになっている。
前回会った時から一ヵ月も経っていないのだが、ますますEクラスの駄目な生徒たちに寄り添う……媚びるようになっていたのだ。
いくら彼らが落ちこぼれでも、ダンジョンに潜ってレベルは上がっている。
一方、教員としての仕事が忙しくてダンジョンに潜れない佐藤先生は弱いまま。
彼女は、Eクラスの生徒たちが怖くて仕方がないのかもしれない。
事情はわかるが、だからといって俺を巻き込んでいいという理由は存在しないんだけどなぁ……。
「(誰が友達だよ! 彼女? あり得んわ!)」
俺はいまだに彼女というものができたことがないが、少なくともEクラスの女子たちはゴメンだ。
先日助けた特別クラスの三人に比べたら……その前に、今まで散々馬鹿にしていたくせに、よくそんな男と付き合いたいなんて平気で言えるよな。
もしかして、脳味噌が鳥なのか?
それと、常に先頭に立って俺をバカにしていたヤンキー。
なにをどうすると、俺と友達だなんて言えるんだ?
というかその言い方。
お前は、〇ャイアンか!
「古谷君、たとえ特別クラスに移ったとしても、古い友達は大切にしたほうがいいわよ」
「いや、古くもないし、そもそも友達じゃないですから」
どうせ最後だからと、適当に愛想笑いで誤魔化そうとしたのだけど、頭にきてつい言い返してしまった。
佐藤先生は、これまで俺が散々クラスメイトたちからバカにされているのを見てきたくせに、よくそんなことが言えるものだ。
自己保身のためとはいえ……いや、結局自分が一番可愛いからこそ、俺を犠牲にしようとしているわけで、彼女は善人でもなんでもないのか。
「あのね……若い頃には誰でも失敗があると思うの。古谷君は特別クラスに行けるほどの能力があるのだから、寛容な心で、みんなに手を差し伸べた方がいいと思うわ」
「……」
「そうだよ! 俺は反省しているから!」
「私たちは友達だよね?」
「私、以前から古谷君って格好いいって思ってたの」
せっかく冒険者高校に入ったのに冒険者としてまったく成長ができず、Eクラスで燻っているだけでなく、レベル1のノージョブであった俺を見下してストレスを発散していた。
それが一転、俺が特別クラスに移るという話を聞いてきた途端、媚を売ってきた。
貧すれば鈍するというか……。
彼らの目的は、レベリング目的で俺に寄生することだろう。
俺を格好いいなんて言っている女子は、まさしく寄生目的だと思う
「(俺は心に決めている。恩には恩で、仇には仇で。前の校長と教頭に優遇されて上のクラスにいた連中もいるな。こいつらが冒険者特性を持っているとろくなことにならない。『レベルドレイン』)お話にならないな。二度と俺に関わるな」
「てめえ! 今の校長に気に入られているからっていい気になりやがって!」
「夜道は気をつけて歩けよ!」
「人権侵害とセクハラで訴えてやるわ!」
「私の彼氏、年少に入っていたんだけど。後悔しても遅いわよ」
彼らに捨て台詞を吐いてから教室を出ようとしたら、その背中にありとあらゆる暴言を叩きつけられた。
だが、俺の心には響かない。
そして気がついていないのか?
俺が上野公園ダンジョンの最下層部で鍛錬した結果、本来モンスターのレベルを下げるスキル『レベルドレイン』が進化し、佐藤先生と元クラスメイトたちの冒険者特性を取り上げることに成功していることを。
まあ、どうせ早く気がつこうが遅く気がつこうが、どうせお前らの実力では奪われた冒険者特性を取り戻すこともできまい。
そもそも、ちゃんと強くなった冒険者に『レベルドレイン』は通用しない。
そんなに使い勝手のいいスキルではないのだ。
一人も『レベルドレイン』に抵抗できなかったということは……Eクラスの連中は、かえって冒険者特性なんてない方が幸せかもしれないな。
同じく冒険者特性がなくなった佐藤先生も、この学校の教師をクビになるな。
あとで、存分に絶望に浸ればいいさ。
そして、一日も早く第二の人生を見つけることだ。
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