第8話 魔銃の扱い

「古谷企画は、設立されてからまだ半年も経っていませんが、とにかく売上がえげつないので、弁護士と公認会計士を入れようと思います。古谷さんは、どう思われますか?」


「必要なら、高橋先生にお任せます」


「知り合いにちゃんとわかっている弁護士事務所と公認会計事務所があるので、業務委託しましょう」


「そうですね」


「普通の人は報酬が高いなぁと思いますけど、古谷企画の売り上げはえげつないので、トラブルがあった際には必死に対応してくれますよ。だって大切なお客様だから。彼らに支払う報酬も経費としてあげられますので、多少は節税にも……まあ、やはり焼石に水ですけどね」


「なるほど。じゃあ、ダンジョン探索と撮影に行ってきます」




 税理士の高橋先生から、用心棒代わりの弁護士と会計士を雇った方がいいと言われたので、お任せして契約を結んでおいた。

 それは些末なことで、今日も夜までダンジョンに潜ったあと、初めて『買取所』に顔を出した。

 買取所は国が運営しており、冒険者から魔石、鉱石、素材、ドロップアイテムを買い取っている。

 安く買い叩かれるという噂がネット上で流れていたが、俺から言わせるとそこまでボッタクリではないと思う。

 社会経験のない冒険者が、買取所以外で成果を売って利益率を上げるというのは、言葉で書く以上に難しい。

 買い取る側だって、自分が一円でも多く利益を得たいのだから当然だ。

 海千山千の社会経験豊富な、場合によっては詐欺師モドキの人間に騙され、かえって損をする冒険者が多かった。

 冒険者は社会経験が少ない若者が多いので、どうしても騙されやすいのだ。

 大半の冒険者は一度痛い目を見てから、買取所に戻るという定番コースを歩んでいる。

 なにかの漫画で見たな。

 『痛い目に遭わないと覚えない』って。

 ただ、買取所を運営している社団法人は、各省庁からの天下りが多数集まっているのも事実で、この前野党が天下りを撲滅すべく、対策会議を立ち上げるとニュースでやっていた。

 彼らは本当に、対策会議を立ち上げるのが好きだよな。

 いわゆる十八番ってやつか。

 で、俺も買取所デビューをしようと思ったわけだ。

 向こうの世界で色々と経験したおかげで、その気になればダンジョンからの成果を一番高く売って利益を増すことも可能なのだが、手間を考えたら、買取所に売り飛ばしてしまった方が楽だからだ。

 それに俺の場合、動画配信で莫大な利益を稼いでいるというのもある。

 ただ、たとえば国内外の大企業などがまとめて高く買い取りますよと言えば、状況に応じては独占契約を結ぶかもしれない。

 その辺は臨機応変にというやつだな。


「買い取りですね。スライムの魔石、鉱石、スライムの粘液。量がとても多いですね。もしかしてあなたは、アイテムボックス持ちなのですか?」


「はい、もうそろそろいっぱいになったので」


「そうでしたか。査定が終了するまでお待ちください」


 試しに、スライム百匹分を売却してみることにする。

 受付のお姉さんが俺をアイテムボックス持ちだと見破ったが、スライムを百匹分を収納できるぐらいだとそこまで珍しくないので、特に気にされなかった。

 本当はほぼ無限に仕舞い込めるのだけど、他人が持つアイテムボックスの容量を探る方法なんて存在しないから、買取所の人も冒険者からの自己申告を信じるしかなかったのだ。


「お待たせしました。 二百万円(税抜き)になります。報酬の渡し方はいかがなさいますか?」


「法人を作ったので、そこの口座に振込みでお願いします」


「畏まりました。こちらの書類に必要事項を記し、法人の印鑑を押してください」


 現在、優秀な冒険者たちによる法人設立がブームとなっていた。

 冒険者特性があれば、週五日八時間、スライムだけ倒していれば、平均で年に一千万円以上稼げてしまうからだ。

 二階層のゴブリンの魔石と鉱石をメインにすれば、年収二千万円も難しくない。

 ただ、冒険者特性がない人がゴブリンを相手にすると高確率で殺されてしまうので、それがない人は複数でパーティを組んで、効率よくスライムを倒すようになっていたけど。

 俺のスライムゼリーの動画がバズったせいで、今世界中でスライムゼリーが流行していた。

 世界中の製菓メーカーがスライムゼリーの製造に手を出し、そのおかげでスライムの粘液の買い取り価格が大幅に上昇していたのだ。

 後日の動画で、俺がスライムの粘液の性質についての説明や、他の使用方法の実演したことなども響いていると思う。

 食品、医薬品、その他工業製品などに添加する安定剤としても非常に優秀で、その方面の需要も徐々に増えている。

 スライムならば冒険者特性がなくても、ちゃんと装備を整えれば倒せる。

 高収入を目指す若者や、ダンジョン不況のせいで会社をリストラされた中高年が多数、ダンジョンの一階層でスライムを狩る光景が目撃されるようになった。

 冒険者高校の生徒たちは、ほぼ全員が二階層から下で。

 特別クラスは、十階層付近を主に活動の拠点としているらしいけど。


「(確かに悪くないな)」


 買取場はダンジョンのすぐ横にあるから、アイテムボックスがない冒険者からすれば運び込むのが楽だ。

 査定も早いし、報酬の貰い方も自由に選択できる。

 俺は口座への振り込みをお願いしたが、現金で受け取ることも、電子マネーで受け取ることも可能だった。

 なにより、確実に支払ってくれる。

 まさかこの現代社会で……などと思う人もいるかもしれないが、冒険者から高額で素材を買い取ると言って、支払わずにそのまま逃走する詐欺師があとを絶たなかった。

 そうでなくても冒険者は若い人たちばかりなので、熟練の詐欺師からすれば騙しやすい相手だったからだ。

 自分で交渉して素材を売りに行く時間があれば、その分ダンジョンに潜っていた方が儲かるという考え方もあって、買い取り所は非常に混んでいる。


「すみません、このようなドロップアイテムが出たのですが、銃なのでどうすればいいのでしょうか?」


 俺の後に買取所に行ってきた冒険者が、受付のカウンターに銃を置いた。

 パッと見た感じ、自衛隊の64式小銃に似ているので、ダンジョンで殉職した自衛隊員の装備がダンジョンに飲み込まれ、アイテム化したのであろう。

 ダンジョンに飲み込まれた時の影響で、銃弾は火薬による発射でなく、魔力によって発射されるように改良されているはずだ。

 どうして俺がそんなことを知っているのかといえば、とっくに『64式魔銃』をいくつかドロップアイテムとしてゲットしていたからだ。


「これはちょっと特別な品のようですね。査定にお時間がかかりますので、一週間ほどお待ちいただけますでしょうか?」


「わかりました。あとは、スライムの素材とドロップ品だけです」


「こちらはすぐに査定をします。お席でお待ちください」


 向こうの世界でも魔銃を取り扱う人たちがいたので、64式小銃が魔銃化しても特に驚きはなかった。

 それに、魔銃ってそこまで強くないからなぁ。

 どんな人が撃っても同じ威力を出せるのが利点となっており、あまり戦闘力がない人向けの武器だったからだ。

 主に軍に需要があったものだが、作るのがとても難しくて、大量配備できないという欠点を抱えてもおり、必要な人になかなか支給できないという矛盾に満ちた武器だった。

 向こうの世界では、魔銃を使う人は弱いと思われることが多かったので、使わない人も多かったのも思い出す。

 なにより強いモンスターは、魔銃の弾丸なんて簡単に回避するか、その防御力で弾き返すか、魔法のバリアーで防いでしまうのだから。


「これは……ダンジョンで行方不明になった自衛隊員たちの装備が、ダンジョンで使用できる武器に変化したということなのか?」


「謎だ……」


 買取所の職員たちは、64式小銃を囲んで長々と話をしていた。

 珍しいものだからであろう。


「(まあ、実は俺はとっくにいくつも確保しているんだけど……)」


 ダンジョンで死んだ人の装備は、放置されると数時間でダンジョンに飲み込まれてしまう。

 そしてそれを材料に、モンスターを倒した時のレアドロップアイテムが作成される。

 向こうの世界では常識とされている情報であった。


「(戻るかな)」


 スライムの素材は売却できたので、俺は自宅へと戻った。

 気になったので、以前手に入れた64式小銃、9mm拳銃、H&KUSP、9mm機関拳銃、89式5.56mm小銃、M4カービン、5.56mm機関銃MINIMI、M24SWS、64式7.62mm狙撃中、銃剣、手榴弾、狙撃銃、対戦車砲、等々。

 魔銃化したのはいいけど、弾薬に制限があるからあまり使えないだろう。

 火薬式の銃弾や砲弾は規格が合うのに、一切発射できないからだ。

 残っていた銃弾や砲弾も魔銃に適したものに変化しているが、この世界の人間には作れないから補給ができない。

 残った弾を撃てば、あとは鉄の塊になってしまう。


「俺は弾も作れるけど、面倒だから嫌だな」


 弾を作って魔銃でモンスター狩りに使うよりも、自分で剣を振るって倒した方が圧倒的に早いし楽だからだ。


「研究用として売れるのかな? そうだ!」


 念のため自分の研究用として残す分を除き、俺は元自衛隊の装備を売ってしまうことにした。




「えっ? こんなにレアドロップアイテムが手に入ったのですか?」


「はい、運がよかったんでしょうね」


「査定に一週間かかりますが、よろしいでしょうか?」


「ええ、どうせ銃刀法との兼ね合いで、持っていてもいいことありませんからね」


「魔力で発射できる銃が存在するのであれば、これを冒険者が用いられるようにして、さらに成果をあげたいという思惑が政府にありまして、今国会で法改正の審議をしているのですが……」


 受付のお姉さんの歯切れが悪い。

 あとでニュースで確認したら、銃刀法の緩和は治安悪化を招くと、野党が猛反発している事実を知った。

 そして、また対策会議が立ち上がったのはお約束だ。

 俺からしたらどうでもいいので、とっとと売り払って、明日からもダンジョン探索と動画撮影を頑張っていこうと思う。

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