第6話 活動開始

「学校とダンジョンが近いのはいいな」




 冒険者高校から上野公園ダンジョンまで、徒歩でわずか五分ほどだった。

 実は日本には、確認されているだけで百二ヵ所のダンジョンが発生しており、日本政府はなるべくその近くに冒険者高校を設置した。

 つまり、日本には冒険者予備校が百二校も誕生した……わけがなく、中には人がなかなか辿り着けないような場所もあり、全都道府県に一校ずつの設置となっている。

 その代わり、百校以上の既存の高校が同時に廃校となったそうだけど。

 日本は少子高齢化なので、冒険者予備校に編入、入学した生徒が増えた分、多くの高校で生徒数が減ってしまったので、急ぎ高校の統廃合が行われたわけだ。

 日本は、世界有数の冒険者特性比率が高い国だとニュースで見た。

 それでも全人口の1パーセントだが、アメリカと中国は0.6パーセントだから、それよりはマシだと思う。

 他の国も、アメリカや中国と似たり寄ったりの割合であった。

 ただ日本の場合、高齢化の影響で年寄りが多く、それほど冒険者の数が多いわけではない。

 冒険者特性を持っていても、冒険者高校を受験しない生徒だって少なくないのだから。

 だからこそ冒険者高校は泥縄式で始まり、しかも私学なので経営者は存在する。

 私学なので学費は高い方だが、他の有名私立高校よりは安かった。

 それに放課後にダンジョンに潜れば、すぐに学費を支払うことが可能であった。

 優秀な冒険者向けに、返済不要の奨学金や無料の寮まで用意していると入学式時の説明で聞いたので、経営者は儲けるためにやっているのではないと思う。

 どちらにせよ。

 俺はただダンジョンに潜ってモンスターを倒し、魔石と鉱石、素材、貴重なアイテムなどを手に入れるだけだ。

 この一年間、やっていたことと変わりはない。


「ええと……ちゃんと撮れているかな?」


 自作したドローン型のゴーレムに、魔力で動くように改造したデジタルビデオカメラを取り付け、俺の戦闘シーンを撮影してみた。

 そのため、今の俺の頭部装備はフルフェイスのミスリルヘルムであった。

 どうして顔を隠して撮影しているのかといえば、極秘裏に俺は会社を作って動画の投稿を始めたからだ。

 こういうのは、最初は正体がバレない方がいい。


「その名も、『ダンジョン探索情報チャンネル』」


 ダンジョンの中に、科学技術を用いて製造した品を持ち込んでも作動しない。

 そのため、ダンジョンとモンスターの撮影をして金を稼ごうと思っていた世界中の配信者たちを絶望の淵に叩き落とした。

 一方俺は、向こうの世界で勇者修行の一環として錬金術、魔導工学も学んでいたので、ちょっと苦労したが、デジタルビデオカメラを魔力で動かせるように改良することに成功した。

 中学三年生からの一年間で、地下百階までの上野公園ダンジョンの全貌と、そこに生息するモンスターの解説と討伐の仕方を撮影し、すでに編集も終えている。

 最初は自分で編集していたけど、今では編集作業を覚えさせた特級ゴーレムの『プロト1』に任せていた。

 俺が向こうの世界で時間をかけて製造、改良した特級ゴーレムは、SF小説も真っ青な性能を発揮する。

 プロト1に動画配信用の会社のことを任せ、俺はダンジョン探索、モンスター討伐、動画撮影に集中できるわけだ。


「戻るか……」


 入学式の日から、夜八時までダンジョンに潜ることになったが、あの不愉快なクラスメイトたちの顔を見ないで済むのはラッキーであろう。

 『テレポーテーション』で自宅へと戻り、コンビニでお弁当を買って夕食をとったあと、お風呂に入ってパソコンのメールボックスを開けた。


「なになに、古谷企画様の動画が収益化の基準に達しました。これからの活躍をお祈り申し上げます。か……」


 俺が世界的な動画投稿サイトに投稿したダンジョン探索動画は、恐ろしい勢いで視聴数を増やしていた。

 これまでまったく撮影できなかったダンジョンの様子が、俺の解説付きで詳細に映っていたからだ。

 モンスターについても、最弱のスライムから、懇切丁寧に倒し方と手に入る魔石の品質、鉱石に含有している金属の種類や量、素材の剥ぎ取り方などを図解つきで解説している。

 最初は時間をかけて動画を編集していたけど、今は動画のフォーマットが定まっており、プロト1が全部編集作業をしてくれるのでとても楽だった。

 俺は撮影だけすればいいのだ。


「世界中で大騒ぎになっているな」


 それもそうか。

 これまで誰も、ダンジョン内の様子や、モンスターの撮影ができなかったのだから。

 ネット上では『偽物だ!』という意見と、『いや、ここは上野公園ダンジョンじゃないか!』という冒険者からの書き込みも散見された。


「この動画を撮影しているのは誰だって? そのうちバレるだろうけど、今は内緒で」


 早速今日から、これまでアイテムボックスに貯め込んでいた魔石、鉱石、素材、アイテムの売却も始めており、一年経って会社の決算が出れば、少なくとも税務署には気がつかれてしまうだろうな。

 彼らが俺の情報を外部に漏らすかどうかは不明……普段は守秘義務がとか言っているが、政治家に脅されるとバラすかもしれないな。

 だが俺は、自分のやりたいようにやるだけだ。

 気に入らない奴の言うことなんて無視するし、他人からの善意は善意で返し、悪意はその時の判断で何倍にもして返してやる。

 どうせ両親も亡くなってしまったので親戚に迷惑を……あいつらならかけても問題ないけど。

 ようやく冒険者高校に入ったので、俺は自由に活動を始めたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る