第5話 Eクラス

「冒険者特性が出る人の割合ですが、日本はおよそ1パーセントであり、これは世界で最も比率が高いことが判明しました。ですが、十五歳以下の子供はダンジョンに入れませんし、お年寄りはほとんどダンジョンに潜りません。たとえ適性年齢で冒険者特性が持っていたとしても、ダンジョンに潜る、潜らないは個人の自由です。日本という国は憲法で職業選択の自由が認められているため、まさかダンジョンに潜ることを強制するわけにいかないからです。冒険者特性を持ち、この高校に志願して合格した皆さんを歓迎いたします」




 ようやく中学校を卒業し、冒険者高校の入学式を迎えた。

 やはり俺はジョブが表示されない状態での受験となったか、なんとか合格できた。

 別に冒険者高校に通わなくてもダンジョンに潜れるので、入学試験に落ちても問題なかったのだけど、高校のある場所が上野公園ダンジョンに近かったので、この高校に通えた方が俺としては都合がよかったのだ。

 ただ……。


「良二、私はBクラスだから」


「ああ」


「大丈夫だよ、きっと良二ならクラスも上がるはずだから」


「それもそうだな」


「頑張って、良二!」


 ジョブが表示されないせいで、冒険者として成り上りたい願望が強い佳代子とは距離ができたような気がする。

 お互いに恋愛感情はない……少なくとも俺にはなかった……が、やはりつき合いの長い幼馴染から距離を置かれると寂しいものだ。

 だが、向こうは優秀な冒険者が集まるBクラスで、俺は合格ギリギリのEクラス。

 筆記試験、運動能力試験はトップクラスのはずなんだか、やはりジョブの表示がないせいで評価が低かったようだ。

 まあ、合格はできたのでよしとしよう。

 この冒険者高校は、授業はすべて単位制だと聞いている。

 ダンジョンに潜っていれば公休扱いで、あまり学校に通わなくていいというのが気に入っていたのだ。

 それに、入れてしまえば成績なんてどうでもいい。

 ここは冒険者の学校なんだから、校内の成績よりも、いかに冒険者として稼ぐかなのだから。


「(Eクラス……落ち込んでるのが多いなあ。あとでいくらでも挽回できそうなのに……)」


 まだ出来たばかりの学校なので、二年生と三年生は他の普通高校などからの編入生だ。

 俺たち新一年生とは違って、すでにダンジョンに潜ってレベルが上がった者もいると聞いているが、そこまで大きなレベル差はないはずだ。

 なにしろ、この世界にダンジョンが出現してまだ一年ほどであり、世界中が色々と試行錯誤を重ねている状態なのだから。

 俺は少なくとも、上野公園ダンジョンについては詳しいけどな。

 ましてや一年生なんて、誰もダンジョンに潜っていない状態で入試を受けたのだ。

 というか、よくクラス分けなんてできたな。

 どういう基準でクラス分けしたのであろうか?


「みなさんはEクラスではありますが、冒険者特性を持つ選ばれた人間であり、レベルが上がって強くなれば、クラス替えも随時発生しますので、これからはなるべくダンジョンに潜って早くダンジョンに慣れていただけたらと思います」


 担任の先生は……間違いなく教員資格を持った教師なんだろうけど、冒険者特性も持つ人みたいだ。

 年齢的には新卒って感じかな?

 いや、人によっては高校生に見えてしまうほどの童顔であった。

 美人というよりは可愛らしい女性で、ダークブラウンのショートカットがよく似合う人であった。

 ただ、冒険者としての実力は微妙かもしれない。

 もし優れた冒険者なら、ダンジョンに潜って荒稼ぎしているだろうからだ。

 教師という仕事は安定しているから、この選択も悪くはないのか?

 この学校は急ぎ文部科学省が開校許可を出したそうだが、私学なので、実は教師は公務員じゃないけど。


「この高校に入学した以上、みなさんはダンジョンに潜ることになります。単独で潜る人もいるでしょうし、パーティを組む人もいるでしょう。私はできる限りパーティを組むことをお勧めします。最初は誰でも心細いものですからね」


「……どうする?」


「俺たち、Eクラスだからなぁ。パーティは組んだ方が安全だろう」


「そうよね、ジョブのバランスを考えて」


「俺は戦士だ」


「私は、僧侶よ」


「僕は魔法使いだ」


「盗賊だから、この四人で組めばいいのかな?」


 クラスメイトたちはそれぞれジョブを教え合ってから、バランスよくパーティを組み始めた。

 俺、こういうのどこかで見たことあるわ。


「なあ、お前のジョブは?」


「ノージョブだ」


「えっ? 今、なんて?」


「だから、ノージョブだ」


 俺は、クラスメイトに自分がノージョブであることを告げた。

 その直後、担任は勿論、クラスメイトたちの視線が一斉に俺に集まる。


「ぷっ!  ノージョブだってよ」


「お前、よくこの学校に入れたな」


「そういえば、噂で聞いたよ。レベルしか表示されない落ちこぼれがいるって。お前だったのか」


「だせえ!」


「お前、よく恥ずかしくないな。入学を辞退すればよかったのに」


「本当、空気読めない奴っているんだな。アナタ、ホントウニニホンジンデスカ?」


「「「「「「「「「「ぎぎゃははっ!」」」」」」」」」」


 どうやら、どうやらEクラスの連中とは今後二度と関わらない方がいいようだ。

 実際にダンジョンに潜ってみたわけでもないのにEクラスにされ、落ち込んでいたのには同情したけど、俺という見下せる存在ができたら一斉に罵詈雑言のリンチを始める。

 人間の質が低いのだ。

 もしかすると、この冒険者高校の入試試験って結構正しいのかもしれないな。


「みなさん、これから三年間一緒にやっていく仲間なのに、どうしてバカにするんですか?」


 担任の先生がクラスメイトたちを叱り然り始めたが、あまり効果はなかったようだ。


「だって佐藤先生、ノージョブなんてあり得ませんよ」


「三年間一緒にやっていくのは難しいんじゃないですか? どうせ途中で退学しまって」


「言えてる、落ちこぼれるのは確実だからな」


「古谷君に関しては、特別な例なんです。本当は筆記試験も運動能力試験もトップだったのですが、校長先生と教頭先生が……」


 ノージョブという理由だけで、筆記試験と運動能力試験がトップでもビリにされてしまうのか。

 決して間違っているわけではないが、とにかくこの学校の入学試験に落ちなくてよかった。

 クラスメイトたちはクソみたいだが、この学校にはそれなりに利用価値があるからだ。


「古谷君もレベルが上がれば、きっとジョブを覚えるはずです。彼とパーティを組む人はいませんか?」


「いませんよ」


 ムカツク奴だが、それはそうだろうなと俺は思った。


「ダンジョン探索は命がけなんですから、俺たちはジョブを確認し合ってバランスのいいパーティを組んでいるんです。ノージョブの奴なんて入れませんよ」


「そうそう。俺たちに頼らないでさ。自己責任でやってくれないかな?」


「賀須官房長官もテレビでそう言ってたじゃん」


「自助っすよ、古谷君」


「「「「「「「「「「ぎゃははっ!」」」」」」」」」」


 なるほど。

 自分のことは自分でやって、他人の助けは借りるなということか。


「そうだよな、自分のことは自分でやらないとな」


「あれ? ノージョブの古谷君、ビビってる?」


「一人でダンジョンに潜るからな。内心、心臓バクバクなんじゃねぇの?」


「怖いよぉ、僕も仲間に入れてよぉ」


「それ最高! ウケル!」


 不思議なものだ。

 学力は関係ない冒険者を集めた高校なのに、下のクラスには、普通高校なら偏差値が低いところにしか行けなさそうな連中ばかり集まっているなんて。

 頭が悪くても、冒険者として優れている。

 という風にはいかないのかな?

 実際にダンジョンに潜ってみないと、断定はできないのだけど。

 向こうの世界にも、強いクズなんて沢山いたからな。


「じゃあ、俺は一人でやらせてもらうよ」


「古谷君、もうちょっと冷静に考えて」


「佐藤先生、もしここでこのクラスの誰かが手を差し伸べたとして、そんなパーティに参加したらもっと悲惨な結末になると思いますよ。違いますか?」


「……」


 まさか自分が担任をしているクラスの生徒たちを悪し様に言うわけにいかず、彼女は黙り込んでしまった。


「みんなは俺をパーティに入れたくない。俺も、少なくともここのクラスの人たちとパーティを組むつもりはない。お互いの希望どおりになって万々歳じゃないですか。俺は早速、ダンジョンに潜りたいと思います。公休願います!」


「わかりました」


 一つだけわかったことがある。

 このクラスに顔を出す意味はない。

 俺は知力が上がっているせいで留年する可能性はほぼなく、実はこの高校では、能力さえあればダンジョンに潜っていると、出席日数などゼロでも卒業できてしまうことが入学後にわかった。

 Eクラスの連中と関わると俺までバカになりそうなので、早々にダンジョンへと向かうため教室を出て行くことにした。


「落ちこぼれの負け犬が、無理して格好つけてるぜ」


「古谷くーーーん、死なないでね」


「「「「「「「「「「ぎゃはは!」」」」」」」」」」


 どうして佐藤先生がEクラスの担任になったのかは知らないけど、あんな動物のような連中を相手にしないといけないのだから大変だな。

 俺は教師にはなりたくないし、こういう風に考えてしまうので向かないと思う。

 さあて、ダンジョンに潜るとするかな。

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