第4話 冒険者特性

「このダンジョンの一階層目はスライムばかりか……。この各フロアーの広さ。見覚えのある内部……『魔王のダンジョン』じゃないか」




 久々に装備を着けた俺はスライムたちを蹴散らし、魔石、鉱石、『スライムの粘液』を『アイテムボックス』に回収しながら上野公園ダンジョンの一階層を探索する。

 細かなところまで調べたが、やはりここは見覚えのあるダンジョンだった。

 魔王が最深部に逃げ込んだ、最後に俺が一年かけて攻略したダンジョンそのものだったのだ。

 向こうの世界のダンジョンは特殊で、一つの階層に一種類のモンスターしか生息していない。

 たまに、一階層に複数のモンスターが生息するダンジョンもあったけど、かなり特殊な部類に入った。

 魔王が逃げ込むだけあって、たとえこのダンジョンには一階層につき一種類のモンスターしか生息していなくても、下の階層に進めば進むほど、段々と攻略が難しくなるのは同じだ。


「どうして魔王のダンジョンが日本に移転してきたのか……世界中の他のダンジョンも、同じなのかな?」


 向こうの世界、もしかしたら滅んだかもな。

 俺が魔王を退治中、一部からおかしな意見が上がっていたのを思い出した。

 ダンジョンなんて不要というものだ。

 なぜなら、ダンジョンは定期的にモンスターを間引かないと、地上にモンスターが溢れ出てくるケースがあったからだ。

 とはいえ、数年くらいなら放置しても大丈夫なのだけど、向こうの世界は地球ほど人口が多くなく、僻地に向かう移動手段にも乏しい。

 ダンジョンから地上に溢れた出たモンスターたちが俺の魔王退治を邪魔するケースも多く、余計にダンジョン不要論が噴出していた。

 向こうの世界も、ダンジョンから産出されるものがなければ文明を維持できないのだが、どこの世界にも声が大きい残念な人というのは存在するわけで……。

 俺が地球に戻る直前、ダンジョンを他の世界に転送する特殊な装置の試作品が完成したという噂は聞いていた。

 俺は、『実験すらしない方がいい』と王様に忠告したのだけど……。

 もしかすると、大勢の意見に流されて装置の実験を強行してしまったのかもしれないな。

 向こうの世界、資源と魔石とアイテムが手に入らなくなったらどうするんだろう?

 魔王が率いていた地上のモンスターたちって、ダンジョンから湧き出たものだったからだ。

 モンスターはすべてダンジョンで生まれ、決して地上では繁殖しないんだよなぁ……。

 つまり、ダンジョンというモンスター供給源が消滅してしまったら、向こうの世界は……。

 ……俺にできることはないな。


「二階層目はゴブリン。これは、魔王のダンジョンで間違いないな」


 一度クリアーしたことがあるダンジョンだから、前回より時間をかけずにクリアーできるだろう。

 魔王が逃げ込んだダンジョンだったので、慎重に慎重を重ねて攻略したせいで時間がかかったという事情もあったのだけど。

 魔王は……またいるのかな?

 一度倒した相手なので『察知』は容易だから、警戒しながら進めば問題ないだろう。


「ゴブリンも、魔石、鉱石、使っていた武器や防具などが手に入るのは同じだな」


 このダンジョンのゴブリンたちは、決して小人などではなかった。

 人間とそう変わらない大きさか、さらに下層にいる『ゴブリンキング』などはオークに匹敵する大きさだ。


「力は人間以上だしな。しかし、自衛隊員たちは一般人よりも強いはず。ゴブリンに負けるとは思わないのだけど……」


 残念ながら、一階層にも、二階層にも、自衛隊員たちの残滓すら残っていなかった。

 向こうの世界でも生物がダンジョンで死ぬと、所持品や装備品ごとダンジョンに取り込まれてしまうから、彼らも同じ結末を歩んだのであろう。


「武器だってなぁ……銃を装備していたはずで……もしかして!」


 このダンジョンは、元々別の世界のダンジョンだ。

 地球とは違う理(ことわり)で存在しているから、なにかの創作物のように、現代科学の産物である銃が効かなかったのかもしれない。

 それならば、自衛隊員たちが非業の最期を迎えたのも納得できた。


「となると、これから色々と大変だろうなぁ」


 俺は問題なくダンジョンを攻略できるが、はたしてこの世界の人たちは、無事にダンジョン内でモンスターを倒し、魔石、鉱石、アイテムなどを得られるのだろうか?

 ただ、お上が考えるべきことを中学生が心配してもろくなことにならないのがこの世の中であり、俺は自分のためだけにダンジョンの攻略を始めることを決意するのであった。


「うん? 手の平に……レベル1って書かれているな」


 ふと気がつくと、手に平に『レベル1』と表示されていた。

 魔王を倒した俺が、レベル1ってことはないはず。

 魔王退治した直後に比べて、自分の力が落ちたという実感もないのだから。


「これはどういうことなんだろう? もっとモンスターを倒せば、レベルが上がるのかな?」


 それを確認すべく、俺はダンジョンのクリアーを目指し、さらに下の階へと足を進めるのであった。







『すべての原子力発電所の再開が閣議で決定されました。ですが、世界中のウラン鉱脈が枯れており、現在原子炉内に残っている燃料棒と、日本政府備蓄分のウランを使いきれば廃炉となる予定です。同時に、太陽光、風力、水力、地熱、潮流発電などの再生エネルギーの比率を上げていくことも、合わせて閣議で了承され……』


「原発反対派って、いなくなったわね」


「背に腹は代えられないからじゃない?」




 世界中の国が、電力の確保に躍起になっていた。

 石炭、石油、天然ガスを用いた火力発電がもうすぐできなくなるので、他の発電方法を増やそうとするのは、まともな国家指導者なら当然のことだ。

 少し前までは原子力発電に反対する人たちが多かったのだけど、火力発電ができなくなると知ると、世論は一日でも早く原子炉を動かせと言い始めた。

 火力発電を続ければ続けるほど、日本から備蓄化石燃料がなくなっていくからだ。

 以前は原子力発電に反対する人が多かったはずだけど、人間というのは結構いい加減なものである。


『日本の自衛隊と同じく、アメリカ軍特殊部隊が全滅したアメリカでは、民間有志の探索者たちが、ロッキー山脈ダンジョンの三階層まで到着しました。しかしながら、すでに五名もの犠牲者を出しており、まさに命がけの探索となっています。それでも『アメリカ人である我らは、チャレンジスピリットを忘れない。ダンジョンとは、第二の開拓時代の幕開けなのだ!』と、リーダーであるジョゼフ氏はCNNのインタビューで語っており、志願者も増え続けています』


「凄いね、アメリカ」


「そうだな」


 佳代子は、ニュースで流れるアメリカ人たちの偉業に感動していた。

 アメリカは軍隊によるダンジョン探索が失敗したあと、ユニコーン企業の創業者たちが優秀なダンジョン探索希望者たちに資金と装備を与え、積極的にダンジョンに挑ませていた。

 当然犠牲者も多かったが、現在世界で一番成果を出している。

 彼らはすでに大量の魔石を入手し、これを新たなエネルギー源にしようと研究所に持ち込んで、早速分析を開始した。

 鉱物もすでに金属の精錬を始めていると、ニュースで見たのを思い出す。

 『これからは、金属資源とエネルギーはダンジョンから手に入れなければならない』という答えに到達し、早速アメリカ政府も全米各地にあるダンジョンに潜る志願者たちを集めていた。

 他の国でも同様の動きがあり、日本もようやく重い腰をあげた感じだが……。


『アメリカなどと比べたら、政府の初動が遅すぎます!』


 国会の審議を止めていた野党の議員たちが、日本政府の初動の遅さを批判した。

 まさしくマッチポンプである。

 日本人の中にも痺れを切らせ、警察の警備が薄いダンジョンに入り込んだ人たちがいた。

 そこで成果を得た者も、失敗して命を落とした者もいたが、それに対し『ダンジョンで犠牲者が出た件に関する日本政府の責任を追求する対策会議』というのを、野党が作って我が道を進んでいた。

 犠牲者と遺族と表に出し、ワイドショーで政府の無策を批判する。

 彼らはある意味、最強の存在かもしれないな。

 他人にケチだけつけて国会議員様なのだから。


「ダンジョンに潜った人たちの中の一定数、手の平にレベルの数値が見えるようになるって本当なのかな?」


「どうかな?」


 佳代子の質問に対し、俺はよくわからないという態度を見せた。

 実は俺の手の平にも、レベル1が記載されていたからだ。

 彼女に見えないということは、ダンジョンに潜って手の平に数字が浮き出た本人でなければ見えない仕組みなのであろう。

 向こうの世界では、手の平にレベルなんて出なかったからなぁ。

 アメリカだと、レベル8まで上がった人が大人気だそうだ。

 とはいえ、やっとダンジョンの三階層に到着ってことは、向こうの世界の基準だと初心者に近いはず。

 しかもパーティでの到達なので、先は長いはずだ。

 他のパーティメンバーはどうなのかな?

 多分、レベル表示が出ない人は、ダンジョン探索自体が厳しい可能性があった。


「他にも、戦士とか、盗賊とか、魔法使いとか、僧侶とか。ジョブが出て、なぜか日本語表記らしいけど]


 実は俺が魔王を倒した世界って、世界中で日本語が使われていたからぁ。

 どうして日本語なのかと聞かれても、俺は言語学者じゃないからよくわからなかった。

 ダンジョンの下の階層に行くと、多くの書籍や、特別な魔法のスクロールなどが出ることがある。

 だがすべて日本語表記なので、日本語覚えないと辛いものがあるだろう。

 俺は日本人でよかった。


「魔石がエネルギーって凄いね」


「凄いけど、エネルギー採取が命がけになるな」


 身代わり人形に通学させながら、上野公園のダンジョンを繰り返し繰り返し、ただひたすらクリアーし続ける。

 多くの成果と、魔王を倒した時よりもさらに強くなった感覚はあるのだけど、なぜか手の平のレベル表示は1のままだった。

 次第に、手の平にレベルが表示される人は、ジョブも表示されることがわかってきたのだけど、なぜか俺にはジョブの表示がなかった。

 それでなにか困ることがあるのかと聞かれると逆に困ってしまうが、これはひょっとすると、俺が二つの世界でダンジョンに潜ったため、表示バグのような状態になっているのかもしれない。

 ただ、向こうの世界ではレベルとジョブの表示は出ないんだけどね。

 自分がどのくらいの強さか、どういうことができるのかは、自分で把握しなければいけないのだ。

 もっとも、強くなった影響で知力が大幅に上がっているのであろう。

 一度覚えたことは忘れないし、表示がなくて困るということもなかった。

 学校の勉強なんて、一度教科書をペラペラめくって見たらすぐに覚えてしまう。

 今年は高校受験があるのだけど、元の俺は頭の出来が普通だったので、近所の公立高校に入る予定だった。

 そこなら、頑張って受験勉強する必要なんてなかったのだ。

 ところが、ダンジョンのせいで世の中が加速度的に変化してきた。


「良二、一緒にレベル測定を受けに行かない?」


「レベル測定? いいけど」


 夏休みに入ると、さらに社会は大きく変化した。

 アメリカで、魔石をエネルギー源にする研究が進んでいたからだ。

 とはいえ、その方法はとても簡単だ。

 ただ魔石を微細にまで粉砕して、水と混ぜるだけ。

 こうやって作った『魔液』は既存のガソリン、ディーゼル車でも動き、火力発電所でも使えることが判明した。

 燃費は数十分の一にまで落ちてしまったが、魔液は燃やしても二酸化炭素をまったく排出しない。

 どういう仕組みなのかわからないが、水蒸気しか排出しないのだ。

 そのおかげで環境団体にもウケがよく、世界中で普及しつつあった。

 ダンジョンに潜ってスライムを倒せば魔石が手に入るのだから、利用しない手はないというわけだ。

 魔石をなるべく細かく粉砕し、混ぜる水は、純水に近ければ近いほど燃費が良くなっていくとテレビでやっていた。

 スライムの魔石よりも、オークの魔石の方が圧倒的に燃費のいい魔液が作れるなどの事実も判明し、人々は武器を持ち、鎧を装備して、ダンジョンに潜るようになった。

 それで思わぬ大金を稼ぐようになった人や、戦闘力がなくてスライムに殺されてしまう人など。

 色々とニュースになっていたが、以前のように、危ないからダンジョンに潜らないでください、とは日本政府も言えない。

 ダンジョンが発生した当初に発生した混乱の影響で、現在世界は大幅な景気の後退に見舞われていた。

 エネルギー源である化石燃料が輸入できない国々は、失業対策の一つとして人々をダンジョンに送り込んだのだ。

 最初に犠牲者を出した自衛隊は、さすがに次は剣や鎧で武装してダンジョンの探索を始めていた。

 ダンジョンでは、火薬を用いた火器や、化石燃料や電気を用いた車両、通信機、その他機具が使用できないからだ。

 当然、ダンジョン中の様子を撮影しようにも、電気で動くカメラ、ビデオ、スマホも使えず、外と連絡が取れないのが辛いところであった。

 一度ダンジョンに潜ると、あとは自分たちだけでなんとかしないといけないので、基本的に命令を受けて動く自衛隊は結構辛いものがあるはず。

 自衛隊のみならず、警察、消防なども同じことを始めていた。

 どこが一番成果を出すか争っているのは、これは組織の業なのだと思う。

 そしてこの頃から、各メディアでダンジョンに潜って生計を立てる人たちのことを『冒険者』と呼び始めた。

 そんな中で、とある冒険者が不思議なアイテムをモンスターからドロップした。

 一見ただの眼鏡だそうだが、それで人を見ると手の平にレベルとジョブが表示されている人がわかるのだと言う。

 俗称は『スカウター』となり、その後別の冒険者たちもいくつか発見して、これからすべて日本政府によって大金で買い取られた。

 そして、手の平にレベルとジョブが表示される人は、モンスターを倒して経験を積めばレベルが上がって強くなる。

 手の平にレベルの表示がない人はまったく強くならないので、いくら高性能な武器を装備しても二階層のゴブリンまでが限界。

 この現象を、世界中で『冒険者特性』と呼ぶようになった。

 世界各国は、冒険者特性がある人たちを見つけ出し、ダンジョンに送り込もうとした。

 日本も政府や各省庁が色々と知恵を絞り、まずは中学三年生の希望者全員にスカウターを用いて、明日の優れた冒険者を見つけることを文部科学省が実行したわけだ。


「別にいいけど。レベル表示は出るかな?」


「出るといいわね」


 もう出てるけど。

 さすがに、異世界で魔王を倒した俺に冒険者特性がでないってことはないようだ。

 その代わりか、手の平の表示がバグってずっとレベル1のままだけど。

 レベルが表示されれば一緒に出るはずのジョブも出ない。


「急遽新しく冒険者高校が都心部にできるって。才能ある冒険者候補は、そこに通えるみたい。入ることができたらいいわね」


 なんでも決めるのが遅いと、よく揶揄される日本にしては動きが早かった。

 実は私立らしいけど、都心部に冒険者高校が新しく開校し、そこに冒険者特性を持つ生徒たちが編入、入学する予定だというニュースをやっていた。

 今日の検査も、実は冒険者高校の入学試験の一環でもあった。

 冒険者高校は、冒険者特性がなければ入学できないからだ。


「同じ学校の人たちがいっぱい。みんな冒険者になりたいんだね」


「稼げるからな」


 命がけだけど、冒険者特性がない人がスライムを倒してドロップ品を持ち帰るだけで普通のサラリーマンより稼げるようになった。

 化石燃料と天然鉱物資源消滅の余波で世界中が大不況に見舞われており、ダンジョンに潜って稼ぐ人が増えていたのだ。

 俺も毎日潜っているけど、ダンジョンに出入りする時は魔法で姿を消すから、誰にも気がつかれていない。


「次の方、三橋佳代子さん」


「はい」


「スカウターで見た結果は、『レベル1、戦士』の表示がありました。冒険者特性アリですね」


「やったぁーーー!」


「すげえ! あれって、同じ学校の三橋じゃねえか」


「冒険者特性って、そう頻繁に出るんじゃないかな」


 最初、佳代子が検査を受けた。

 とはいっても、文部科学省の人がスカウターで手の平を見るだけだ。

 すると、彼女には冒険者特性があることが判明し、会場に来ていた冒険者特性のない人たちから注目を集めていた。


「冒険者高校の受験をお勧めします」


「やったぁーーー!」


 佳代子は冒険者高校に行ってみたいと言っていたから大喜びしているな。

 次は俺か……。

 まあ、結果はわかっているけど。


「古谷良二さんですね。ええと……レベル1……あれ?」


「どうかしましたか?」


 やはりジョブは出なかったか。

 わかってはいたけど、諸々誤魔化すためにわざと聞いてみる。


「ジョブが出ないんですけど、冒険者特性があることは確かです。きっと、ダンジョンに潜ってレベルが上がればジョブが表示されるようになると思います。冒険者高校への受験をお勧めします」


「そうですね。受験してみようと思います」


 検査自体はすぐに終わるので俺と佳代子は帰宅の途についたが、彼女はよほど冒険者特性が出たことが嬉しいらしい。

 ずっとご機嫌なまま、俺に話しかけていた。


「良二も冒険者高校を受験するよね? ジョブは、レベルが上がったらきっと表示されるようになるよ」


「だよね」


 本当にジョブが表示されるようになるかわからないけど、別に表示されなくても困らないからなぁ。

 ただ、その理由を佳代子に話せない……信じてくれないだろうからな。

 俺が、別の世界で魔王を倒したなんて話は。

 少なくとも、俺なら信じない。


「冒険者高校。合格するといいけど」


「そうだね」


「ようし! 頑張るぞ!」


 俺も頑張ってはいるけど。

 このところ毎日、上野公園のダンジョンの最速クリアー更新を目指したり、マップやモンスター図鑑の作成に勤しんでいた。

 どうしてそんなことはできるのかといえば、向こうの世界でもそれやっていたからだ。

 最初自衛隊が全滅したように、ダンジョン内では科学技術の産物が使用できない。

 今では多くの人たちがダンジョンに潜っていたが、スマホ、通信機、ノートパソコンなどの他にも、電気で動く品が作動せず、ダンジョン内の様子を動画配信してひと稼ぎしようと思っていた人たちは出鼻をくじかれる結果となった。

 撮影だけだからと言って軽装でダンジョンに入り、スライムに殺された人がニュースになったほどだ。

 そのためみんな、アナログ的な手法で情報を集めるしかなかったのだ。

 俺だけは、既製品のスマホ、デジタルビデオカメラ、ノートバソコンなどを魔力で動くように改良して、ダンジョン内でも使用できるようにしていたけど。

 それでダンジョンの様子を撮影し、開いてる時間に動画編集も行なった。

 機会を見て、動画配信サイトに投稿する予定である。


「でも、今の俺たちはダンジョンに入れないからね」


「そこが問題なのよね」


 泥縄的にダンジョン関連の法律が作られ、中学校を卒業しないとダンジョンに潜れないことが決まってしまった。

 世の中には中学校卒業してからすぐ働き始める人もいるわけで、最初は二十歳にならないとダンジョンに入れないようにした方がいいと、主に人権派と言われる政治家たちが騒いだのだけど、エネルギー問題のことを考えれば背に腹は代えられない。

 そういう反対意見は、なかったことにされたみたいだ。


「冒険者特性があっても、どうせ中高年やお年寄りはダンジョンに入らないんだから、そんな綺麗事言っていられないのに」


「中高年の人たちは、意外と多くの人たちがダンジョンに潜っているよ」


 これが意外と人気なのだそうだ。

 元々不景気のせいで会社を解雇されたり、希望退職に応募せざるを得なかったような人たちが多かったが、冒険者特性があるとレベルが上がる。

 身体能力も上がって体も若返り、稼ぎも以前とは比べ物にならないので、雇用主に媚を売る必要がないから最高だと、喜んで冒険者家業をやっている人たちがいるらしい。

 冒険者特性がないので、体を労わりながら懸命にスライムを倒している、くたびれた中高年も多いそうだけど。


「お年寄りはほとんどいないかな」


 人間、年を取ると保守的になるという。

 お年寄りは資産を持っている人が多いし、年金だけで十分に暮らせる人も多い。

 そのため、冒険者特性があってもダンジョンに潜らない人が圧倒的に多かった。

 政府は『生涯現役社会』などと老人に向けて宣伝しているけど、それに乗せられてダンジョンに潜る老人は滅多にいない。

 冒険者特性がないお年寄りがダンジョンに潜るなんてただの自殺行為なので、やはりダンジョンにあまり年寄りはいなかった。

 数はとても少ないけど、レベルアップの影響で若い冒険者に負けないぐらい大活躍しているお年寄りも、極少数存在はしているけど。


「詳しいんだね、良二は」


「ニュースでやってたからね」


「ふうん。冒険者高校の受験に向けて、体でも鍛えようかな?」


 俺は毎日ダンジョンに潜っているけど、他人に話せるようなことではないからなぁ。

 下手に権力者に目をつけられると危険なのは、向こうの世界で何度も体験していた。

 だからこそ俺は、個で生きて行くと決めたのだから。

 問題は、いつ佳代子に打ち明けるかだな。

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