第3話 ダンジョン出現

「良二、ご両親があんなことになってしまったけど、大丈夫」


「佳代子、俺は大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」


「ご両親の葬儀に来た親戚の人たち。なんか感じよくなかったわね」


「両親がつき合わなかった人たちだから。そこは社交辞令に徹したさ」





 新学期。

 中学三年生になった俺は、幼馴染である佳代子と共に通学路を歩いていた。

 この頃は、まだ彼女は優しかったのを今でも覚えている。

 感じの悪い親戚たちは、今頃どうして俺に多額の香典を渡してしまったのか、理解に苦しんでいるはずだ。

 貯金をすべてなくしただけでなく、限度額まで借金もしてしまった。

 文句を言おうにも、お金を借りたのは自分たちなのだ。

 両親を亡くしたばかりの俺にあんなことしなければ、俺だってあんな仕返しはしなかった。

 もし両親の遺産を奪われたとして、どうせ警察に訴えても、『親族間の問題は親族同士で解決してください』と言われるのは目に見えている。

 俺が泣き寝入りになる可能性は高かったので、強行手段を取らせてもらったわけだ。

 それにしても、由緒正しい棚橋本家とやらは親戚一同揃ってお金がないんだな。

 由緒正しい貧乏人ってことなのか?

 俺の祖先がどのぐらいの名門なのかは知らないけど、正しい努力をしないで没落してしまったんだろうな、という事実が簡単にわかってしまったというか……。

 きっちりと魔王退治の報酬を貰った俺だが、これは絶対に隠しておかないと。

 ただその報酬は金貨や宝石なので、換金の方法をあとで考えるか。


「残念だけど、今年はクラスが違っちゃったね」


「本当だ」


 中学の一年、二年と、佳代子とはクラスが一緒だったのだけど、今年は別になってしまった。

 残念だけど、放課後に近所で会えるから問題ないだろう。

 そんな風に思いながら始まった中学最後の一年間だけど、まさかあのようなことが世界中で発生してしまうとは、今の時点で俺は予想だにしていなかった。





『ニュースです! 東京上野公園に謎のダンジョンが出現しました!』


 中学三年生生活の二日目。

 朝起きてテレビをつけると、突然とんでもないニュースが流れてきた。

 突然世界中のあちこちに、ダンジョンが出現したというのだ。


「ダンジョンねぇ……」


 俺は向こうの世界で、数百、数千もの巨大なダンジョンをクリアーしてきた。

 最後は、戦況が不利になった魔王が地下千階を誇るダンジョンに籠ってしまい、俺は一年もかけてそのダンジョンをクリアーし、最深部にいた魔王を倒している。

 慣れているという言い方も変だけど、他の誰よりも驚いてはいないはずだ。


「ダンジョンねぇ……どんなダンジョンなのかな?」


『現在日本国内で確認されたダンジョンの数は百を超えました。田中総理は緊急閣議を開き、このダンジョンの探索を自衛隊の部隊に任せられるかどうか検討中とのことです。次に……ダンジョンが出現するのと同時に、世界中の鉱山と油田が枯れてしまったそうです! ただ今、日本政府の発表がありました。国民のみなさまは、エネルギーの節約にご協力をお願いしますとのことです』


「もしやこれは……」


 この状況に見覚えがあるというか、俺が魔王を倒した向こうの世界では、実は鉱山や油田、炭田、ガス田の類が一つもなかった。

 エネルギーが必要なら、すべてダンジョンから奪取する必要があったのだ。

 特にエネルギー源は魔石オンリーだったため、向こうの世界の国々は、魔石の確保に全力を傾けていた。

 もしかして地球も?


「もしかしたら、地球ってかなり大変なことになっているのでは?」


 こうなれば……学校はサボってしまおう。

 どうせ今日から大騒ぎになるだろうからな。

 テレビとスマホしかないけど、情報を集めておくか。

 その前に念のため、近所のスーパーで色々と買い占めておこう。





『アメリカ軍の特殊部隊、自衛隊の精鋭部隊を始めとして、世界中の軍隊がダンジョンの探索を開始しましたが、すべて失敗に終わりました。現在国会で野党が、自衛隊で戦後初の戦死者を出した田中総理への批判を強めており、さらにダンジョンに自衛隊を送ったことが憲法違反ではないかという批判と合わせ、抗議活動のため、現在国会での審議がストップしている状態です。次のニュースは……』


「それどころじゃないだろうに……あんな貴族、向こうの世界にもいたな。文句だけ言うんだよな」




 ダンジョン出現と同時に、世界中から金属や宝石の鉱山、油田、炭田、ガス田などが枯れ果ててしまった。

 完全になくなったわけではないそうだが、含有量や埋蔵量があまりに微小のため、採掘しても採算が取れないとニュースで言っていたな。

 そして、ダンジョンに突入した自衛隊員たちの戦死……殉職は、その手の方々を大いに刺激してしまったようだ。

 化石燃料がなくなってしまったあとのエネルギー政策をどうするのか、という議論を置き去りにして、現在野党が国会内で抗議活動をしているそうだ。


「また対策会議を立ち上げるのかな? どうでもいいや」


 俺は俺のやりたいことをやる。

 せっかく中学三年生になったのだけど、向こうの世界での十年のせいで、学校が退屈で仕方がないんだ。

 そこで……。


「『身代わり人形』君に任せた!」


 本来は、敵との戦闘時に自分の身代わりとして攻撃を受けさせるアイテムだが、当然本物そっくりでなければ見破られてしまうので、日常生活でも身代わりとして使えた。

 一日しか使えない消耗品なので、俺でないとこの中学三年生の一年分は用意できない。

 向こうの世界の技術で作られているから当然だけど。


「学校は身代わり人形に任せて、俺は……一番近い上野公園のダンジョンでいいか」


 早速現地へと向うが、やはり入口は多くの警察官たちが見張っているな。

 自衛隊の中でも精鋭中の精鋭で編成された探索隊が全滅したから、一般人を入れないようにしているのだろう。


「俺には無駄だけど」


 魔法で姿を消せば、もうこの世界の人間は気がつかない。

 俺は誰にも気がつかれず、『上野公園ダンジョン』に侵入することに成功したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る