18、春の世界と告白とお見合いと
俺、斉藤一真は3人の家族が居た。
妹の斉藤奈々(さいとうなな)。
当時、小学生。
父親の斉藤和夫(さいとうかずお)。
当時、会社員。
母親の斉藤道子(さいとうみちこ)。
当時、和夫の妻。
そして俺だが。
交通事故で俺以外全員死んだ。
単独事故だったのかそれとも何らかの原因だったのか。
定かじゃ無いが朝の交差点で事故を起こしたのは確かだ。
目撃者が居なかった為に事故全てでどうなっているかも分からない。
俺は重傷だったが妹の血液で助かってしまった。
そんな俺は.....今まで俺を助けたこの世界を本当に憎んでいた。
妹が助かれば良かったのにと。
そしてこんな世界など無くなってしまえば良いとそう思っていたのだが。
俺はとある家族に引き取られてから。
少しずつだが変わり始めた。
名前を七色。
虹が掛かる様にと願いが込められた少女と。
名前を春。
風が心地いい様にと願いを込められた少女と。
名前が宝珠。
宝の様な心を持つ様にと願いを込められた少女と。
俺はそんな少女達と父親の冨樫さんに出会い。
少なくとも現状況では.....俺は恵まれていると。
そう思い始めれたのだ。
特に七色は。
この世界は悪だけじゃ無いと。
そう言ってくれた。
そして今に至っているのだが。
「えへへー」
「ひっく」
「.....」
まさかボンボンショコラで酔っぱらうとは.....誰が予想したものか。
七色と春。
宝珠は居ないが.....目の前にはそうした紅潮した顔をした艶めかしい女たちが居る。
花魁以上にヤバい気がする。
何が起こったか説明がほしいか?
そうだな.....所謂、お見合いだ。
それでこんな事になってしまった。
翌週の5月間近の事だが。
完全に酔っぱらった女が俺に迫る。
まるで別次元の女の子だ。
「えへへかずまーさん」
「.....七色。落ち着け。.....取り合えずは。.....水いるか?」
「そんなものはいらないですがとりあえずはそうですねぇ。おにいちゃんがほしいれす。あっはっは」
「.....参ったな.....」
冨樫さんは仕事があると席を外している。
というかこれも予想していたのか?
まさかな。
しかし本当に困ったな.....。
思いつつ見ていると今度は後ろから引き倒された。
そしてロ見下ろされる。
「かずま」
「は、春。どうした」
「きすしようか?」
「馬鹿を言うな。そんな事は許さない」
「なんれ?」
「何故と言われたら好きでもない相手にそれはしては駄目という事だ」
えー。つまんなーい。
と春は唇を尖らせて俺を艶めかしい目で見下ろしてくる。
髪の毛がゆらゆら揺れて紅潮した頬に目が.....。
何というか.....汗が噴き出してきた。
嫌な汗とは言わないが.....困った汗だ。
さてどうしたものか、と思いながら七色と春を見る。
そして俺は起き上がろうとするが。
また引き倒された。
「はるおねえちゃん。おさえたままで」
「そうだねー」
「お、お前ら。何をする気だ」
「えへへー」
「ウフフ.....」
流石の俺も青ざめてきた。
俺は足を動かすが逃げる力が無い。
いざ逃げようとしてもひ弱なものだな、と思いながらも俺は暴れてみる。
このままでは色々な事がマズい気がする。
俺は男。
それに俺のレベルでは女に耐性が無い。
このままでは絶対に駄目だ。
さてどうしたものか.....。
☆
こうなってしまった事象は2時間前に遡る。
俺、七色、春、冨樫さんの4人だけでお見合いをする事になったのだ。
それで.....先ずは先発として春がやって来た。
俺はその春と1対1で対面する。
「.....」
「.....ジッと見つめられると恥ずかしいんだけど.....」
モジモジする春。
目の前に赤い着物と赤い球の様な玉ぐしを着けた少女。
神も整えられそれ相応に可愛らしくなっているのだが.....人は変わるというがまさかここまで変わるとは.....。
俺は思いながら春を見つめる。
春は礼儀正しい座り方をして頭を下げる。
「改めて。冨樫春です」
「斉藤一真です」
「.....なんて堅苦しいのは止めたいんだけど」
「.....それは.....確かにそうではあるかもしれない」
春は膝を少しだけ和らげる。
そして腰掛けた。
此処は客間だが.....何だか2人きりはマズい気がするのだが。
年頃の男と女が、だ。
冨樫さんは、大丈夫だからね、と言って去って行った。
責任放棄だな.....。
「.....お見合いって恥ずかしくない?」
「.....それは確かにな。俺も恥ずかしい。流石の俺でも」
「だよね.....」
「.....何を話せばいいか分からないんだが」
だよね、と春は苦笑い。
俺はその姿に顎に手を添えてから、それにしてもお前はよく俺のお見合いに参加する気になったな、と言う。
春は、そうね、と笑みを浮かべる。
そうして、何でかしら、と可愛らしく人差し指を口元に添えた。
その仕草はあざと可愛いとかじゃなく。
本当に癖のせいでの可愛らしい仕草だった。
俺は見つめる。
「.....気が変わったと言えるかもね。私、一真に期待しているから」
「.....何をだ」
「世界の全てを変えてくれるって思っているから」
「.....そんな馬鹿な事は無い。.....俺にそんな力は無い」
「.....いや。あるよ。私が認定したんだもん」
春は笑顔で俺を見てくる。
俺は、そうか、と柔和な顔を浮かべながら.....春を見る。
春は頷きながら、うん、と穏やかな顔をした。
それから、私は一真に出会って良かった。私みたいなのを助けてくれた、と頬を掻きながら俺を見てくる。
「.....俺は救ったのか?お前を。当たり前の事をしただけだが」
「.....それが人にとっては助けになっているんだよ。一真」
「.....」
そうなのか.....?
俺は考えながら顎にまた手を添える。
それから俺は春を見た。
春は、実はその、と言い出す。
俺は?を浮かべながら春を観察する。
唇をひっきりなしに動かしながら、だ。
そして。
「私、一真が多分好きだと思う」
「.....!?」
「.....うん。きっとそうだなって思う。一真が好きなの」
「そんな馬鹿な事が。.....俺の様な人を好きになっても仕方が無いんだが」
「.....そんな事無い。.....貴方に寄り添っていたら.....気持ちが楽になるから」
まさかのお見合いで告白。
春はモジモジしながら俺を見てくる。
嘘だろう。
俺は目を丸くしながら.....春を見た。
信じられないんだが。
春は満面の笑顔を見せる。
「.....幸せになるなら貴方だと思った」
「.....俺にそんな力は無い。.....買いかぶり過ぎだ」
「.....でも七色にも好かれているんだよね?だったら.....買いかぶり過ぎは無いと思うなって思う」
「知っていたのか.....」
「何でもお見通しだよ。.....私は姉なんだから」
「.....だったら答えは知っているな?俺はお前とは付き合えない」
春は、だよね、と笑みを浮かべた。
俺はジッと見据える。
そして春は、ねえ。外に行かない?、と言ってきた。
俺は目を丸くしながらだが、そうだな、と頷いて息を吐く。
それから俺達は外に出る事になった。
信じられるもの、信じられないもの。でもその中でも世界は花に満ちている。 アキノリ@pokkey11.1 @tanakasaburou
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