17、一真の涙
「宝珠お姉ちゃんは笑顔が絶えない女の子でした」
「.....」
もし宜しければ飲み物を飲みながら話しませんか、と言う事で俺の部屋に飲み物やらお菓子やらを持ってきて話を始めた。
話はかなり長くなるという。
俺は真剣な顔で七色を見つめながら水を飲む。
それからジッとする。
「.....でもあの日、信号無視の車が.....忘れ物をした宝珠お姉ちゃんを追い掛けたママ。.....つまり.....優を轢いたんです」
「.....お前達の母親は優というんだな。.....優しい名前だな」
「.....そうですか?えへへ。有難う御座います。.....あの日はピアノの発表会だったんです。宝珠お姉ちゃんはピアノが大好きでした。昔はですが。今は.....嫌いだと思います。.....自分自身が嫌で」
「.....」
七色は歯を食いしばる様にして震える。
そんな七色を見つめる。
七色は涙を堪えながら話を続けてくれた。
俺に対して、である。
真っ直ぐに向きながら。
まるで.....何かを決意したかの様に。
「あの日。ピアノの発表会で私と春お姉ちゃんと宝珠お姉ちゃんが出席していました。.....パパは仕事があると出席出来なかったんです。.....それで.....宝珠お姉ちゃんは最後まで選ばれたんです。.....だけどそこで音のミスをしてしまって.....お姉ちゃんは敗退してしまいました。.....それから帰宅しようと横断歩道を渡ってから.....帰ろうとしたんです。みんなで、です。.....そしたら大切なポシェットを宝珠お姉ちゃんは忘れたんですよね。そして踵を返してから横断歩道を渡って行ったんです」
「.....」
「.....それを心配したママが.....追い掛けて行って.....轢かれました。信号無視の車に、です。.....そして.....出血多量だったんです」
「.....車の主は」
「.....逃げました」
俺は見開いてからショックを受けた様に.....七色を見る。
七色は溜息を吐きながら.....俺を見てくる。
まだ捕まってないんですよね、と言いながら、だ。
俺は眉を顰めながら.....唇を噛む。
それから七色を見る。
「.....七色。.....大変な人生を歩んで来たんだな。お前達は」
「.....私は良いです。.....でもママを殺したと。.....だから宝珠お姉ちゃんは引き篭もりましたから.....」
「.....宝珠はありとあらゆる事を背負っている。.....それの肩の荷を多少は俺達に任せられたら良いんだがな」
「.....そうですね。.....一真さん。有難う御座います」
「.....宝珠は恐らくだが自分自身が嫌になっているんだろうな」
「そうですね。.....宝珠お姉ちゃんが最も傷付いているから病院に行った方が良いと思うんですけど.....行かないんですよね。.....はい」
七色はまた涙を浮かべる。
それから.....涙をゆっくりと流し始めた。
俺はその姿を見つめて.....顎に手を添える。
だから宝珠は、私が殺した、と言っていたのか。
そんなに荷を背負う必要は無いだろうに。
そもそもひき逃げだったら.....相手が悪いだろう。
自分が.....そんなに抱える必要は無い筈だ。
だが.....宝珠は.....。
「.....!.....一真さん!?」
「.....?.....あれ.....」
気が付けば。
俺は涙を流していた。
それは.....数ヶ月.....いや。
2年.....ぐらいの。
久々の涙だった。
溢れる涙は.....俺の頬を伝う。
「.....す、すまない。.....泣くとは思わなかった」
「.....そんなに私達の事を.....思ってくれているんですね。.....やっぱり一真さんは.....私の恋人候補ですね」
「.....冗談はさておき涙を流すとは思わなかった。.....俺と似た様な部分があったんだろうな.....」
「.....ですか」
あの日。
俺が無理矢理に.....遊園地に行こうと。
誘わなければ。
死ななかったのだ。
家族が、だ。
だから俺が悪いのだ全て。
遊園地はそのせいで嫌いなのだが.....。
しかし泣くとは思わなかった。
宝珠の事が.....自分の事に思えて.....涙が止まらなくなった。
視界が歪まずには居られなかったのだ。
そういう事だろう。
思いつつ俺はハンカチを優しげに差し出してきた七色の配慮に甘えて俺は涙を拭う。
まさに久々の涙だ。
俺にもまだ人間の感情が残っていたんだな.....。
考えながら七色を見る。
「.....すまない。変なものを見せたな」
「.....一真さん。この話は泣いて良いんですよ。.....泣く部分です」
「男が泣く様な事はあってはならないと思う。.....だから恥ずかしい」
「.....私はそうは思いません。.....何故なら一真さんは私達の為に泣いてくれたんだと。.....そう思えますから。一真さんだから思える事です」
「.....」
七色は涙を浮かべて涙を流した。
そしてグスグスいう。
こんな小さな子に。
そして.....宝珠に春に。
俺は何を思うべきなのか。
考えなくてはいけない。
「七色」
「.....何でしょうか」
「.....有難うな。.....俺はきっとお前達に出逢えて良かったと。そう思えている」
「.....一真さん.....」
「.....」
前田さん。
貴方がこの家を指定したのは.....きっとこういう意味だったんですね。
きっと貴方は.....これも全部予想していたんでしょう。
考えながら俺は目を閉じて開いた。
さて.....そうなると、だ。
「宝珠を支えよう。.....それから.....七色。お前もだ。春もだが支える」
「.....一真さん。その荷物は私も背負います。私は大丈夫ですから」
「.....何を言っている」
「.....え?」
お前だけじゃない。
春もきっと背負ってくれる。
と言いながら俺は七色を見る。
七色はハッとした様にして柔和になった。
それから、ですね、と笑顔を見せる。
「.....春もきっと協力してくれる」
「.....ですね。はい。忘れていました」
「.....春にも話しみるんだ。.....これからはそれから考えれば良い」
「.....有難う御座います。一真さん。.....やっぱり大好きです」
それから俺達は暫く他愛無い会話をしてから将来を考えた。
この3姉妹をどう守っていくのか。
それも考えながら、だ。
俺は1人でやるつもりだが。
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