アヤノの逃避行計画

夜飛 音無(よるなし ねむ)

第1話

 私はたまにこんな夢を見る。

その夢の舞台は、かつて私が暮らしていた街で、私の周りにはたくさんの知人や友人、そして家族。もう現実にいなくなった彼らと楽しく会話して、楽しく暮らしている。

私は、この夢がいつか現実になればいいなと思う。けれど、彼らとの楽しい夢は、いつもどんどん人がいなくなっていった。

私は最後に孤独がたまらなく怖くて、空虚感で、目が覚める。

 今日も、そんな夢を見た。



 午前6時、朝日と共に私は起きる。背筋を伸ばして寝不足の体を起こす。

「やっぱり安宿はベットが硬くて熟睡できないなぁ。ほらーカエデ起きてー」

まだとなりで寝ている少女—カエデ—を起こす。

「んぁ…あと5分だけ…」

そう言って二度寝しようとするカエデを無理やり叩き起こす。

「ふぇ…ん…起きるから…」

「こんな安宿早く出るよ。今日は行きたいところあるんだから」

「今日はどこ行くんです?アヤノさん」

「早く準備しないと置いてくよ〜」

こんな茶番は日常茶飯事だ。カエデは私と行動を共にするようになってからなんというか、より甘えるようになったのだ。思えば、カエデに会ってから私もカエデも大きく変わったなぁとしみじみ思う今日この頃。

「今日はどこに行くんですか?」

「取り敢えずはガルシアの市場で買い物して、そのあと街のはずれの高原でピクニックしよっか。そのあとはカエデの行きたいところについて行くよ」

商人の都市、ガルシアは王国の中でもかなりの大都市だ。海に面していて港があり他の都市への行き来もしやすいため商人たちを中心に職人や私たちのような旅人も多く訪れる。中でも王都、グランザムへの道中にあるグラシア高原は旅人たちの休息の地として多くの人々が訪れる。私たちもそこでピクニックをするつもりだ。

 私たちは市場で一通りの買い物をしたあと、高原に向かった。

高原は怖いくらいに静かで私たちしかいなかった。

「こんなに人がいないのは何故なのでしょう?心地いいのに」

「なんでも、最近グランザムの治安が悪いらしいよ。」

最近、グランザムで盗賊による強盗の被害が相次いでいるとよく聞く。最近グランザムに行く機会がなかったが以前訪れた時は平和的で空気も軽かったけど。

 私たちは高台の木の下でピクニックの準備をし、ご飯の準備をした。

—なるべく自然に、かつ、最大限の警戒をしながら。—

「アヤノさん、3人、こっちに来てる。」

「カエデ、後方警戒、近づいてきてる。」

いつものように軽い会話を交わす中、そうカエデと耳打ちし合う。私たちは平然を装う。私も左右から近づいてくる謎の襲撃者に意識を向ける。私たちは平然を装う。じりじりと近づいてくる中で私たちはさも何も気づいていないと思わせる。

場の空気が煮詰まってそのピークに達した時、3人一斉に襲いかかってきた。後方の1人はカエデに任せて私は左右2人に集中する。剣をつきたてて突進する様は無駄がなく洗練された動きだった。手練だ。そう認識すると私は反射で後ろに反り刺突を回避し、あらかじめ両手の手首に仕込んでおいた投擲用の針を2人の目に投げる。そのまま腰に付けていた2本の短剣を抜きざまに2人の首を正確に切り落とした。

私は自分が今殺した2人の襲撃者には意識を向けず、後方で同じく襲撃者を殺したカエデに意識を向ける。

「カエデ、大丈夫?」

「このくらいのモブなら一瞬で殺せますから!私だって一人前ですから!」

少しムスッとしたカエデはそう返した。もとより、相手が手練だろうがカエデが負けるとは微塵も思ってはいない。

「相手が思ってたより手練だったから、心配で」

「それよりせっかくのピクニックがこれじゃ血だらけですよ!全く!台無しですよ!」

「噂をすれば…ってやつだね。まさかグラシア高原にまで盗賊が出向いてるとはね」

 私たちは盗賊とはいえ人を3人殺した。それなのに私たちはいつものように軽い会話を交わす。手練なのだ。私たちは2人とも。簡単に言えば人を殺し慣れている、とでも表そうか。

 私は『二刀短剣のアヤノ』と呼ばれている。私はこの界隈では少しばかり名の通った暗殺者なのだ。

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