第6話『天帝』ギルドマスター:アルテミス
とある有名なダンジョンメーカーは言った『ダンジョンは生き物である』と。
それはダンジョンが作成者の意図とは別に常に変化していくからである。
ダンジョンは作成者によってモンスターが逃げ出さないよう洞窟に結界が貼られていたり、逆に出現しやすいように階層全てが沼地や火山地帯になったりと色々だ。
その結果、新たなモンスターや階層が誕生した時、作成者の意図とは別にレアな『ネームド』モンスターが生まれたり、新たな地形が誕生したり様々な現象が出てくる。
その予測し得ない現象こそがダンジョンの醍醐味であり楽しみだ。
パルテノンの地下ダンジョンは低層階地下1〜10階、中層階地下11〜30階、深層階地下31〜50階で構成されている。
まだまだ日本支社のダンジョンは出来たばかりで深いとは言えないがパルテノンの知名度がそれを凌駕しオープン当時から結構な賑わいを見せていた。
ダンジョンはだいたい10回ごとにボス部屋を置くことによって、モンスターが階層を移動しないようにしている。
そのため階層ごとにだいたい強さがわかるようになっているのだ。
深ければ深いほどボスが強くなっていく。そして魔石のランクも高くなっていくのだ。
一攫千金を夢見て深層に潜る冒険者は未だ後を絶えない。
あれから程なくして、目を覚ました。モミジちゃんとアートリナさんとの間に一悶着あったが、部長の一喝で僕たちは、みんなでダンジョンに潜ることになった。
「初めてのダンジョンアタックがおにぃと一緒なんてラッキーだったね」
とはモミジちゃんの談。
モミジちゃんの中ではあの忌々しいデルフィストとの契約関連のことはなかったかことになっているらしい。
「とりあえず今日はならしも兼ねて20階まで潜りましょう。日帰りのことも考えるとそこが限界でしょう」
「は、はい」
「……」
おっかなびっくりの僕。
その間アートリナさんは無言である。
モミジちゃんに言われたことを気にしているのだろうか。
後で謝らないとなぁ。
そんな気持ちを胸に僕たちはダンジョンに潜った。
ダンジョンの中はかなり神秘的だった。
人工的に作られたとは思えない光水晶や大空洞のある洞窟はまさに幼い頃に潜ったダンジョンを思いうかべる。
『次は右ですね』
僕は無線に向かって各員に指示を飛ばす。
ダンジョンにはいてからは基本みんな無言だった。
こういうのは声かけも大切だが、中にいるモンスターを刺激しないようにするために、基本的にはハンドサインと最低限の指示を無線で行う。
みんなプロのライセンス資格を持っているので、共通のハンドサインを駆使して先に進む。
その姿は冒険者というより、訓練さくれた軍隊のようだ。
でも僕はその試験を落ちたので、一人だけ無線で話をして先頭で索敵している瀬戸内さんに主に指示を飛ばす。
ダンジョンでは情報が全てと言っても過言ではない。
どんなモンスターが出るのか、道はどのようになっているのか、取れるレアドロップアイテムは何か。
それらはパーティの財産であり、命懸けでとってきた超秘密事項だ。
しかしここは僕たちのホームダンジョン。
部長がどんなルートを使ったかは不明だが深層50階までマッピング情報を僕によこしてきた。
そのため、あとは最短ルートを突き抜けていけばいいだけとなって、かなりというか超拍子抜けだ。
モンスター関しても問題ない。
正直、特級冒険者二人に高冒険者の二人相手だと、深層階まで過剰精力であり、中層まではもはやピクニックといっても過言ではない。
それでも念のため右手には低級モンスターを寄せ付けない雑魚よけの匂い袋を持っている。
これさえあれば安全に進むことができるのだか。
『それひどい匂いだねー。この匂いはなんとかなんないの? 頭がクラクラするし』
『こら! モミジちゃん。無線を勝手に……』
『いいじゃん別にこんな階層の敵なんて雑魚しかいないし』
『いやいやそういう問題じゃ』
『『『……』』』
モミジちゃんの唐突な無線にも他の人は無言を貫いている。
おそらく問題ないと感じたのだろう。
プロの冒険者たちは、素人二人がじゃれているようでは動じないみたいだ。
しかしこの匂い袋は人間には害がないように作られており無味無臭だ。
だから基本的に大丈夫なはずなんだけど。
『私は他の人と違って感覚が鋭い方なんよ。だから少しの違和感でも拾ってしまうかも』
『はぁー。それはいいからもう少し集中してくれ』
対モンスター用アイテムでこんなことになってしまうなんて不便だなぁ。
っと思いつつも妹を注意した。
携帯端末を確認すると、もう10階につながる通路が見えてきたところだった。
僕らがいる洞窟〜森林地帯は低層界でも安全地帯と言われている。
ここいらで一旦休憩して次のボス戦に備えたいところである。
『一時はどうなることかともいましたけど、なんとかなりそうですね。一旦休憩しましょうか』
戦闘の瀬戸内さんから無線が入る。
やっと半分手前か。
そんなことを思いつつも無線に手を取った。
『了解。全員……『警戒! モンスター! 前方 数15』へ?』
瀬戸内さんの突然の無線に僕は慌てて探知機で周りを確認する。
するとそこには、真っ黒な体毛に山犬のような頭。黒豹を思わせるしなやかな体躯にモンスターの証拠である赤い瞳を爛々に輝かせたモンスターがいた。
2メートル以上ある体躯はここからでもかなりの威圧感がある。
なんでださっきまでこいつらは、確かにいなかったはずなのに
「へ、ヘルハウンドー!!」
「ガアアァァァァァッ!」
僕が叫ぶとヘルハウンドが咆哮を上げる。
それを聞くと同時に瀬戸内さんは腰から二丁の大型魔銃を取り出し弾丸の束をセットする。
「全員戦闘態勢! アートリナさん!」
「はい!」
瀬戸内さんが素早く後方へ下がり代わりにアートリナさんが前衛に上がってくる。
「ッシ!!」
綺麗な剣戦が一体のヘルハウンドの首を切り落とす。
彼女はそのまま横にステップをしながら、別のヘルハウンドに切りつける。
剣線を追っているとまるでまるで踊っているかのようだ。
「こっちは任せてください」
後方まで下がった瀬戸内さんはこっちまできたヘルハウンドの一体に狙いを定めると、大型魔銃の引き金を引く。
ヘルハウンドは動きの素早いモンスターだ。そのため弱点の頭部ではなく四肢か胴体を攻撃するのが普通だ。
しかし、瀬戸内さんの弾丸は正確にヘルハウンドの頭部を捉えた。
「グアアアアアァァァァァァァァッ!!」
あまりの激痛にヘルハウンドの顔が仰け反る。
しかし、これで瀬戸内さんの攻撃は止まらなかった。
瀬戸内さんは銃をフルオートに変えるとヘルハウンドめがけて連射する。
ダダダダダダダダダダダダダダダ!!
空気が破裂したような音が周りに響く。
これだけの発砲音がすごい銃を取り扱うと反動がすごいはずだが、瀬戸内さんがフルオートで撃った銃弾は正確に全て弱点である頭部に命中している。
驚きの反動抑制性能だ。
「こっちもおるよ!」
モミジちゃんは光り輝く球体と黒い球を二個づつ召喚した。
そして光の球から光魔法をバシバシと打っている。
黒い球体からは周りの魔素から精神力を吸収している。これが彼女が『無限』と言われる理由だ。無限に魔法を使える魔法使いそれが『無限』のモミジ。
「ワカバくんは私のそばにいてねー」
杏先輩はその他にこちらまできたヘルハウンドを前線まで蹴り飛ばしている。
普段の自由奔放が嘘のように、サポーターの僕や魔術師のモミジちゃんまできた敵を確実に排除し、寄せ付けていない。
戦闘が終わると、ヘルハウンドの体は塵のように消え、残ったのは拳くらいの魔石だった。かなり大きい2級クラスはあるのではないだろうか。
『戦闘終了確認。各自集合してください』
瀬戸内さんが無線でいうと、みんなが無駄のない動きで集まってきた。
さ、さすが日本が誇る高ランクP Tだ。
「異常事態ですね」
瀬戸内さんはヘッドギアを外して僕に話しかけてくる。
「あ、やっぱりですか?」
ヘルハウンドはB級モンスター。最低でも中層に住むモンスターだ。
こんな浅い階層で出てくるモンスターではない。
「ヘルハウンドはB級モンスターにして火山地帯に生息するモンスターです。こんな密林に住み着くようなモンスターではありません」
アートリナさんもギアを外し会話に参加してきた。
「それに突然出てきたのにも気になります」
確かに、あいつらは僕のマッピングを通り越していきなり現れた。
僕は常にマッピングマップを開いていたし、見落としはしていないと断言できる。
「そもそもここには、私の初期P Tが入る予定でした。あれだけの数のヘルハウンドがいた場合、対処できたかどうか……」
「あーみんなこれ見てくださいっす!」
アートリナさんの会話を遮り、杏先輩の元気のいい声がこちらまで聞こえてくる。
杏先輩の手には赤い紐のようなものが握られていた。
「なんかこれ首輪っぽくないでっすか?」
「首輪ですか」
確かにそう言われ得てみれば、そうも見えてくる。
「誰かに飼われていたということですか?」
「その可能性あるくないっすか? 明らかに統率された動きしてましたし」
そ、そうだったのか……全然気づかなった。
杏先輩は真剣な目をして言葉を続ける。
「知能のあるモンスター『ネームド』が低層階で生まれた可能性があるってことっす。これは、緊急事態っすよ」
本来ここにきていたのはアートリナさんのP Tだ。彼女の入るはずだったP Tの時間にこんな偶然があるのだろか?
僕たちはとりあえず報告のために一旦ダンジョンから引き返し、報告に向かうことにした。
命の等価交換にレア資格と人生ではわりに合わなくないですか!? 玄翁 @ganou
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