その罵声、美しさ故

生來 哲学

あらあら

「なんとまぁ、憐れなこと」

 輝く黄金の髪をした美しい少女が言葉とは裏腹に嬉しそうに笑った。

「お気の毒」

 放つ言葉にはトゲしかないが、その音色には美しさだけがある。

「このような俗物を救える方はどこにもいらっしゃいませんわ」

 少女は歌うように蔑んだ。

「ああ、聖なるかな。

 天上のいかなる偉大なものであっても、あなたのような愚劣なる者を救えはしない。

 度しがたく。

 許しがたく。

 どうしようもなく。

 愚か」

 その猛毒に満ちた美声にボクはただ聞き惚れる。

「よろしくて?」

「ええ」

「ご満足を」

「いいえ! いいえ!」

 ボクは頭を振る。

「聞かせて欲しい。君の声を」

「罵声であっても?」

「むしろ、罵声で良かった。あまりにも美しい声をなんとか中和できてる。

 もし、誉められでもした時には死んでしまう」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」

 ――それが、ボクの生きている間に聴いた最後の言葉だった。


「あら、やっぱりこの子もダメだったわね」

 美しい少女が指を鳴らすとブンッ、と壁にあるランプが点灯する。

「死体よ。片付けておいて」

 少女の言葉に壁の扉が開き、円筒型のドローンが二体現れると床に倒れた死体を「ヨイショッ、ヨイショッ」と発声しながら部屋の外へ片付けていった。

 少女の声はあまりにも美しすぎるが故に聴いた者は死んでしまう。

 人呼んで【機械塔のヴァンシー】。

「本当は――誰かに私の歌を聴いて欲しいのだけれど」

 常人は彼女の話し声にすら耐えられない。

 今日もまた彼女は一人ロボットに囲まれて機械塔で眠る。

 いつか自分の美しい歌声に耐えられる観客が訊ねる来るのを待ちながら。

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その罵声、美しさ故 生來 哲学 @tetsugaku

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