死神が舞う


クリムはとても理性的だ

それは私には無い部分だ。


そうあろうとしなければ

そのように行動する事は出来ない

だから、彼が居れば私は


無理に自分を抑えて

動く必要が無いということ

適した役目をこなすのだ。


故に私は


子供のくせに肝が据わりすぎた

使命だの責任感だのに囚われて

明日を生きる自分の姿を

見ようとしない王子に


死にゆくものである私が

その道を閉ざしてやろうと


そう思ったのだった。


※※※※ ※※※※ ※※※※


「このトゥラを退けてみろ」


さもなくば願いは叶わず

連れ去られるのみ……だ。


避けられない戦いに直面した王子と

彼の騎士ユニ=シャンドラは

一片の迷いもなく武器を構えた。


そこには


子供も、王子も、女もなく

どうしても譲れない物を持つ

ただ2人の人間がいた。


……もう、言葉は要らない


腰を落として

槍の穂先を静かに

こちらに向けるユニ


先程まで会話を交わした

少女の姿はどこにもおらず


今の彼女はただ

人殺しの目をしている。


その背後には

彼女が護るべき

若き王子がいる



もう……後戻りはできない


私は、靴のつま先で地面を

数度叩きながら考えを巡らせる


あの子は兵士だ

訓練を受けた強者で

地獄を生き延びる事ができる


現に、女性の身でありながら

彼女は今もこうして生きている


それは学習能力の高さであり

順応する速度の速さであり

危険を避ける才能があるという事


つまりこうして


腰に括っている

短剣に手を伸ばせば


私がまず投げ物で間合いを潰す

戦い方をするのを見ていたユニは


「……!」


反射的に投げ物を警戒し

意識が守りの方に寄った。


その瞬間を見逃さず


私は


つま先を地面に突き刺し

蹴りあげ、ユニの顔目掛け

勢いよく土の塊を飛ばした。


土質は戦う前につま先で

叩いて確かめているので


こういう飛び方をする事は

既に計算に入れている。


私の行動を読み違えたユニは

高速で襲来する土の塊に

ぎょっとしたが


すぐに冷静さを取り戻し

最小の動きで回避行動を


……取ろうとして


そして思い至ったのだろう

自らの背後に誰が居るのかを


——もし自分が今避けたら

王子に当たるかもしれない


ユニ=シャンドラは既に

相対する敵の行動を1度

読み違えたばかりだ


故に


このトゥラがもしかしたら

自分の撃破ではなく、王子を先に

戦闘不能にしようとしていたら?


という可能性を恐れた!


そして——


ガンッ



それは、左腕の手甲によって

つぶてが防がれる音だった。


ユニ=シャンドラは一瞬

人殺しである事を忘れ

護衛を優先してしまった



今だ!


私は、先の戦闘でも見せた

瞬間的に距離を詰める技を使い

一気に目標へと迫った。


ゴウッと


景色が加速し、風が

頬を強く強く打ち付けた


あまりにも早い動作のせいで

ふわふわと浮くような

感覚が頭の中を覆う。


互いに間合いの外だった

距離感は急激に縮まった!


ここはトゥラの距離だ

今更体勢を立て直そうが


苦し紛れに振るわれた

足元への薙ぎ払いなども

最早なんの意味も無い。


なぜなら彼女が


「うわぁ!?」


という情けない叫び声と共に

宙を舞うことは確定しているのだから。


「は……っ……」


背中から


勢いよく地面に叩き付けられ

ユニは呼吸が出来なくなり

動きが完全に止まった。


それでもなお、槍はその手に

握られているのだから恐ろしい


……さて


私はこの槍の騎士が再び

戦意を取り戻すよりも前に

素早く決着を付けるべく


1本の刃物を取り出し

敵の喉笛を掻き切ろうと

腕を振り上げて……


「おっと、危ない」


大袈裟に声を上げてみせた

まるで戦いは終わったのだと


もう安心して良いのだと

そう、見えるように。


「つい、癖でトドメを

刺そうとしてしまった」


ユニ=シャンドラとの戦いは

彼女を地面に叩きつけた時点で

終わっている。


もちろん、トドメを刺そうと

したなんてのもタダの作り話だ


全ては演技


では何のために

そんな事をするのか?


それは`聞いた`からだ

私は既に`聞いて`いたのだ


まるで忍び寄る影のように

音を立てないようにゆっくり


獲物を狙う刺客のように

歩み寄ってくる`音`を


もう一度言うがコレは演技だ

戦いが終わったというのは


あくまでユニ=シャンドラとの

戦いにのみ、限る話なのだ。


それはつまり


戦いが終わったものだと

思い込み、油断した王子が


「うわぁっ!」


主従共々

情けない声をあげながら


容赦なく投げ飛ばされる

という、結末を指していた。


倒れ伏した彼を

踏み付けながら


私はこう言った


「そんなザマでよくも

国に帰る等と言えたものだ


お前たちはこのトゥラが

責任をもって誘拐させてもらう」


戦いは


私の勝ちだ。

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