死体のそばに、添えられたのは


 部屋に備え付けられた鏡を見ながら

わたしは新たな装備の確認を行っていた。


 服も、靴も、身に付けるものを

何から何まで新調したわたし達は

入念な動作確認の真っ最中だった。


 自分の体に合ってないと思えば

削ったり、長さを変えたりなどして

少しづつ自分に馴染ませていく。


 膝の曲げ伸ばし、肩の回る範囲や

足回りの動きやすさを慎重に確かめて


 このくらいで良いだろう

という結論を出した。


 以前までの清潔で、華やかな姿とは変わり

荒れた土地での活動も可能な装いとなった

衣服の耐久性は中々で、刃の通りも悪い。


 通気性と伸縮性に優れていて軽く

それでいて動きやすく派手ではない

とても理にかなった設計をしている。


これは良い買い物だった。


 かつて部隊にいた頃に着用していた

専用の装備には流石に劣りはするが

それでも、質の良さは保証できる。


 ひとまず衣類に関しては良いとして

いちばんの問題はやはり、武器の方だ。


 ふと部屋の中を見回してみると

寝具の上に腰をかけたクリムウェイドが


 購入したばかりの六本の短剣の持ち手に

布を巻いたり、逆に解いたり、削ったり

自分の手に合わせた調整を行っていた。


 彼の手際はとても美しく早いもので

ああいう武器を扱い慣れているのが分かる

わたしは、あのような調整は苦手な方だ。


 獲物を自分に合わせていくよりも

自分の方を武器に合わせていく方が

わたしの能力に適切だからだ。


 座ったままで軽く刃物を降ってみて

首を少し曲げて、また何か作業に戻る

やや苦戦しているように見えたが、

ちらと見えた横顔は楽しそうだった。


 きっとああいう、細かい作業を

クリムは好きなのだろうな、と思った。


……苦手だとは言ったけれど

わたしも、挑戦してみようか。


 もし出来なければ、後で彼に

手伝ってもらって仕上げればいい

わたしは足元に並べてある武器を

さっき見たクリムのやり方を真似て


四苦八苦するのだった……。




✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱



 クリムウェイドに着けた監視の`目`

その片割れが僕の所に報告に来てから

その日のうちに我が部隊は行動を起こし

例の森へと到着していた。


 隠れ家にするには余りに最適

窓も無ければ裏口も存在しない

`要塞`のような木の小屋の床で、

僕の部下だった人間が死んでいた。


「首の骨がまっぷたつだよ、

抵抗する暇もなかったんだね」


 物言わぬ骸と化した我が部隊の`目`は

至近距離から一撃で絶命させられている

誘い込まれ、隙をつかれ、殺されたのだ。


 このやり方は、間違いない

`我らが副隊長`のやり口だ。


そして


首の後ろに深々と突き刺さる短剣は

彼の愛用していた武器で間違いない。


 万が一にも蘇生されないように

徹底的に息の根を止められている、

オマケに死体は隠されてもいないときた。

 

見付けてくれと言わんばかりだ

罠でも仕掛けられているのかと

疑いたくなる程わざとらしい。


`容赦はしない`とでも言いたいのか

それとも単純に時間を惜しんでの事か

もしくは、`隠せなかった`のか。


 小屋の中には問題の`録音機械`が

破壊された状態で打ち捨てられている

小屋で見つけたモノは以上だった。


 あとは、行き先のわかる痕跡を

部下達が森の中で見つけられれば

今後がいっきに楽になるのだが……


「――何か見つけられたかい?」


 解き放った影達が戻ってきたのを

僕は気配で察して彼らに話しかける

すると、そのうちの一人が答えた。


「いっさい何も見つかりません」

「君たちを持ってしてもか」


「折れた木の枝や、踏み倒された草に足跡

なにひとつとして見つけられませんでした」


 人は透明になって宙を飛べはしない

必ずどこかに痕跡は残っているはずだが

それを探すのには少々手こずりそうだ。


 時間さえかければ必ず見つけられる

しかし今はその`時間`が惜しいのも事実

既に相当距離を稼がれてしまっている

これ以上遅れをとる訳には行かない。


王は僕に命じた。


`まだ国内に奴らがいるうちに仕留めよ

外の国に刺客を送るような事態は避けたい`


僕はそれに従うべく、決断した。

 

「この森の捜索はこれにて打ち切る

これ以上は時間の無駄と判断する

今からは僕の推測で動いていく」


「了解です」


「彼らはこの森から出来るだけ早く

なるべく遠くに逃げたがったはずだ


が、トゥラの体は急ぐことを許さない

とくれば乗り物の利用をまず考える


この辺で長距離の馬車が出る街は

結構多く存在しているが、中でも

夜の便が特に多い街があるんだ


表街道をまっすぐ進んだ先の街

彼らはそこを利用したはずだ


我々は次にそこへ向かう」



 そうと決まった時すでに

そこにいたはずの男達は


初めから何も無かったかのように

影も形も残さず、消え去っていた。


 後に残されたのは無惨な死体と

その傍に添えられた花だけだった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る