第16話  幼少期⑥

 満開の桜の下を潜り、小学校の正門を通る。今日は颯斗の入学式だ。親父が買ってくれた真新しいランドセルを小さな背中に背負った我が子が愛おしく見えた。

「颯斗、写真撮るよ。」そう言って正門の入学式の看板の前に颯斗と瑠美子を立たせ記念写真を撮った。

「パパも撮りましょ。」と瑠美子がカメラを交換しようとすると、同じ入学式に参加されるであろう親子が

「撮りましょうか。」と言ってくれたので三人で並んで写して頂いた。

「ありがとうございます。もし良ければ撮りますけど。」と言うと

「ありがとうございます。では折角なのでお願いします。」とカメラを受け取り写真を撮る。その後、同じクラスだと良いですねなどと話しながら会場に向かった。

 無事に入学式を終えてそれぞれのクラスに行くと、先ほどの親子と一緒になった。

「どうも、同じクラスで良かったです。」

「ほんとですね。畠岡と言います。子どもは畠岡颯斗です。宜しくお願いします。」

「佐藤です。佐藤仁です。ほら、仁、挨拶は。」

「…佐藤仁です。よろしく。」そう言って颯斗に手を差し伸べた。

「畠岡颯斗です。よろしくね。」颯斗も手を出して握手をする。

「颯斗、友達が出来て良かったな。」

「うん。」

「颯斗君。仁と仲良くしてやってね。」と佐藤さんが言うと

「はい。」颯斗は真っ直ぐに佐藤さんに向かって返事をしていた。我が子ながら出来た息子だと感心していた。瑠美子と仁君ママは家が近くなのかとか、兄弟は居るのかとか、お互いの話をして盛り上がり、連絡先まで交換していた。そうこうしていると担任の先生が来て、学校生活の話や勉強の話をし教科書を配り、下校となった。正門前で佐藤さん家族に別れを告げ、俺達も家路に向かった。三人で手を繋ぎながら歩いた。

「颯斗、これから勉強するけど、大丈夫か?」俺が勉強嫌いだったから心配になって聞いてみた。

「うん。」本当に分かってるのかと思う程、あっさりと答えた。

「颯斗はもう平仮名は書けるもんね。」瑠美子が言う。

「うん。」

「えっ、そうなのか?」俺は驚いて歩きながら前かがみになり颯斗の顔を覗き込んだ。

「うん、書けるよ。」今度は余裕の笑みを浮かべながら答えていた。

「すごいじゃん。トンビが鷹を産むって事になるかもな。」と瑠美子に言うと

「親バカね。そんな訳ないでしょ。」と鼻で笑われた。

「いやいや、分からんぞ。これは鷹になる素質あるかもな。期待するわ。颯斗が働くようになったら俺、仕事しなくても食わせてくれるかもな。」

「馬鹿ね、そんなこと言ってないで明日から頑張ってよね。」瑠美子に言われ、はいはいと心では思っていたが、

「颯斗、大きくなったらパパを食わせてくれよな。」と冗談を言うと

「うん、いいよ。」とこれまた、あっさりと答えたので、俺たちは拍子抜けして大笑いしていた。幸せだ。この時の俺は瑠美子と颯斗、両親の家で待つ優斗とこのまま平凡でも楽しく幸せな生活が続くものだと思っていた。


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

奇人 tonko @tonko1970

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る