第15話  幼少期⑤

 瑠美子は帰り道で颯斗に

「颯斗、蛙さんに棒が刺さってたけど、颯斗が刺したの?」

「違うよ、僕が見た時はもう刺さってた。僕じゃないよ。誰がやったのかな?。」と慌てて弁解する様子もなく淡々と話していたと言う。颯斗の公園での異常行動はその時だけだったと瑠美子は言った。

 俺は蛙の事と幼稚園の魚の事は颯斗に直接、聞くべきだと思い、夕食後のリビングで颯斗と優斗とテレビを見ている時に話しかけた。

「颯斗、幼稚園のお魚さんに餌を上げる係してるんだって?」

「うん。」颯斗はテレビのアニメに夢中で俺の方を見ずに返事をしていた。

「颯斗はお魚さんが水槽にいるのをみて、どう思う?」

「えっ?なに?」振り返って聞いてきた。

「颯斗はさ、幼稚園のお魚さんをどう思うのかな?」

「可哀そう。」

「それは何でそう思うの?」

「だって、あんなに小さい所にいっぱいいたら苦しくなるでしょ?」そう言ってリビングにある本棚に行き、海のお魚図鑑を持ってきて俺の前に置いた。

「お父さん、見て。お魚さんは本当はもっと広い所に住むんだよ。ほら。」と本の中の海に泳ぐ魚の様子が描かれている所を開いて見せた。俺は颯斗のその言葉を聞いて少し安堵した。この子は優しい思いを持った子なんだろうと。だが、蛙の件はまだ聞いてない。

「そうだよな。お魚さんは広い所がいいよな。」

「うん。」

「でもトイレに流したら良くないんじゃないか?」俺の言葉に颯斗がの身体がピクリと微かに反応した。

「えっ、なに?」颯斗は知らないような振りで聞いてきた。

「実は幼稚園の先生が颯斗がお魚さんをトイレに持って行って流すのを見たんだって。お魚さんが可哀そうなのは分かるけど、トイレに流すのはどうかと思うけどな。」と優しく伝えたつもりだったが、颯斗の顔が段々と変わり、俺を睨みつけるような表情に変わった。その表情に我が子ながら狂気を感じた。ただ、それは一瞬だった。俺は見間違えだったのではと思ったくらいだ。

「…ごめんなさい。」狂気の表情は見られない程に悲しい顔をして俺に謝罪した。

急な謝罪に俺の脳が付いて行かず、

「いや、いいんだ。今度はトイレに流したりしないにしような。」それしか言えなかった。本当はもっと追及しても良かったと思うが、颯斗の狂気に満ちた一瞬の顔がちらついて問いただすことが出来なかった。

 その後は特に問題を起こすような行動は見られず、幼稚園を卒園した。

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