「お目覚めですか?」


「う」


「覚えてるか?」


「みず」


 口元に水を、ほんのすこしだけ。


「あへえ。いきかえる」


 まるで、長い眠りから覚めたみたいに。いや実際そうか。


「夢を見てた」


「覚えてるか?」


「何を?」


「交差点」


「おぼえてない」


「そうか」


 それはそれで、いいのかもしれない。


「夢を見てた」


「なんの夢だ?」


「仕事に向かうあなたと、歩く夢」


 夢じゃないよと言いかけて、やめた。


「いい夢じゃん」


「そうかな」


「まあ、俺最仕事が在宅側だから仕事場行ってないけどね」


 なんとなくの嘘。


「なんだ。正夢じゃないのか」


「退院したら一緒に歩いてやるよ」


「交差点まで?」


 なんだ。記憶あるじゃないか。


「本部への出戻り、おめでとうございます」


「ありがとうございます。もともとそういう予定だっただけですけどね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後までの距離 (短文詩作) 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る