第3話 雫が見ていた景色

 目覚ましが鳴る三十分前に目が覚めてしまった。別に緊張しているわけでは無い。むしろワクワクしてしまっているのだ。

 意識してゆっくりと着替えや準備をしたが、未だ時間が二十分残っている。贅沢な悩みだけど、時間を使うのってたいへんだなぁ。

 テレビを見て潰すのも考えたけど、この時間は特に興味のある内容は無いからもう家を出ることにした。

 

 この季節の朝は未だ少し寒さを感じた。しばらく歩いていると河川敷でサッカーをしている人を見かけた。その人はどうやらマーカーコーンを様々なドリブルで避ける練習をしていた。タッチが一つ一つ細かく、一歩に一回触ることを意識しているね。多分この人はドリブラーじゃないかな…。もしかしたら同じ学校にいる人かもしれないから顔が見えたら去ろうかな。

 そんな思いで観察をしていたらドリブラー(仮)の顔が見えた。気になったその顔はまさかの

 橋の上で見始めたはずなのに気がついたら、彼の直ぐ近くにいた。

 木陰で休み始めていた彼だったが流石に私の存在に気がついたてくれて話しかけてくれた。


 「おはようございます。朝早いのにもう登校するんですね。」


 彼の一言に心がキュッとした感じがした。最後にあったのは約七年前、お互い小学校は違うしサッカー以外では一緒に遊ぶ仲ではなかったから忘れている方が普通だよね。


 再会できた喜びと覚えてもらえていないことに対する悲しさが混ざってうまく言葉を返すことができなかった。


 「おはよう。えっと…私、今日からこの学校に通うことになったんだ。それで、先生に早く来いって言われて向かってたらたまたま見かけて…。」


 それからいろいろ会話した。私が今日から同じ高校に通うことや彼が人知れず一人でサッカーの練習をしていること。私からしたら彼と話していること自体が嬉しくて、楽しくてついつい話しすぎてしまった。


 「どうだろうね。それより、そろそろ良い時間じゃないのか?」


 本人は初対面の人間だと思っているが、どうしてももどかしい。自分からアクションを起こしていけば思い出してくれるかな。


 「あ、忘れてた!君との会話はこれが初めてじゃない感じがして、ついつい話しすぎちゃったね。」


 少し芝居じみた感じで言ってみたが、相手はそうかなと言った感じであまり効果がなかった。やっぱり覚えてないか…。

 覚えてもらえていなかったのは少し悲しかったけど、まだ時間はたくさんあるから大丈夫。そう心の中でつぶやいて私はこの場から去った。



 「〜という感じで、私が入ってきてくださいと言ったら教室に入ってきてください。これで大体のことは話したかな?」


 ここは職員室近くの面談室。先生とホームルームまで打ち合わせやちょっとした世間話をしている。


 「分かりました。あと、先生一つ聞いていいですか。」


 ここで聞きたかったことを先生に聞いてみる。


 「なんでしょう。」

 「先生が作ってくれたあの資料に書いていた一ノ瀬和樹君のことなのですが、皆から距離を置かれているってどうゆうことですか?」

 「あー、あのことですか…。実はこんなことがあって…。」


 どうやら彼は前の学校に所属していたサッカー部が荒れていたことで勝手にイメージが付いてしまったらしい。でも、今は友達もいるらしく一人でいることはなくなったとか。


 「という感じだな。君は転校生という立場だからクラスメイトから色々彼についての話を聞かされるかもしれないが、大体は偏見とかデマとか解釈違いとかだな。」


 大丈夫ですよ先生。彼がそんな人ではないことはずっと前から知っていますから。


 「ありがとうございます。彼の印象がいい方向に変わるようにきっかけとなるようなアクションをしてみようと思います。」

 「お、おう。ぜひそうしてもらうと嬉しい。」


 あれ、食い気味っぽかった?


 「それじゃあそろそろ教室に向かおうか。」

 「そうですね。」


 転校生としてクラスメイトになることを知った彼はどんな表情をするのだろうか。スキップしたくなる気持ちを抑えて先生の後についていった。

 

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俺と彼女のリスタート Quick-cat @Quick-cat-6

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