第2話 ずいぶんと早い再会
あの後一度家に帰り、サッとシャワーで汗を流して学校に向かった。
いつもの時間より遅い時間に学校に着いたから、借りた本を読む時間がないな…。
そう思いながら教室のドアを開けると、前を塞ぐような形で女子が会話していた。本人たちは会話に夢中だったようだが、しばらくすると俺の存在に気づき…
「ヒッ!ごめんなさい!」
と言い、すぐさまそこから逃げ出した。
嫌われてると思った?いや、怖がられているんだよ。
今、俺が通っている学校は中等部と高等部と2つあり、大体の生徒は繰り上げと言った形で高等部に入る。勿論、入試に合格すれば高等部から通うことも可能で、俺はその高等部から入学してきた一人だ。
クラス発表がされた日にどうやらクラスのグループチャットが出来上がり、外から来る俺についての情報を色々調べたそうだ。そしたら、何処から出てきたのか俺が荒れているヤバい奴だという情報が出てきたそうだ。まあ実際、俺がいたサッカー部は荒れていたしそんな噂が広がっても仕方がない。
結果、俺の高校生活は周りから距離を置かれてスタートした。
クラス内の話し声が一瞬で無くなり、俺の方に視線が注がられるが無視して自分の席に着いて準備をする。
ちなみにだが机の位置は一年生の一回目の席替えからずっと窓側の一番後ろの一人席だ。(最初は出席番号順に座ることが決まっていた。)この位置はくじ引きを連続で当てたわけではなく、クラスで話し合って決まったからだそうだ。
一通りの準備を終え、視線を上げると
「おはよう、和樹。」「おはよー、カズ。」
「ああ、おはよう優太、美波。」
俺の数少ない友達(といえば他にもいるように聞こえるが、実際はこの二人だけしかいない。)の優太と美波が話しかけてきた。
この二人と話すようになったのは一年生の夏休み前ぐらいからだった気がする。
どうやら、優太はヤンキーというか、荒れている人に一時期憧れのようなものを持っていたらしく、殴られることを覚悟して俺にコミュニケーションを取ってきたとか。まあ、俺のイメージはただの偏見で、そのことを知ってからは一人の友人として接してくれるようになった。
美波は優太の彼女で、俺が荒れている奴ではないことをあいつから聞いて接してくるようになった。
その結果、俺たち三人で話すことが多くなり、二人は周りの連中から俺が暴れないようにストッパーとなってもらいたいと言われたとか。
ちなみにそのストッパーとしての仕事の一つに、周りを怯えさせないように俺の近くの席に座ってもらうというものがあり、前の席に優太、その右に美波というポジションが約半年以上続いている。
本人たちからしたら願ってもなかったことで、めちゃくちゃ感謝された。
「今日はいつもより遅いな。何かあったのか?」
「実はさ…」
二人に今朝あったことをお説明すると
「へえ、このタイミングに転校生ねぇ。まあ、話を聞いている限りだと和樹のことを知らないようだね。」
「だね、でも知っちゃったら態度変わったりするかもしれないね。」
「その時はその時だな。」
ちょうどチャイムが鳴り、ホームルームが始まった。
先生から、進路案内や地域のイベントなどの連絡があった後
「最後に、転校生がこのクラスに来きます。じゃあ、入って来てください。」
先生がそう言うと、女の子が入ってきた。
転校生ってワードでだいたい予想していたが、今朝の少女だった。
「七瀬雫です。趣味は体を動かすことです。よろしくおねがいします。」
名前と一言言って彼女はクラスメイトたち見渡してから一礼した。
「じゃあ、七瀬の席は…和樹の隣が空いているな。」
と爆弾発言をする先生。まあ、俺は一人席だからそうなるよな。
皆は唖然としているが先生は気にする様子もなく教室から出ていってしまった。
軽く見渡してみるとクラスメイトたちは新しく来た雫に話しかけたいが、俺の近くだから行きづらいという2つの感情が混ざって複雑な表情となっていた。
隣を見てみるともう荷物を机に入れ終わったのか、ほんの少しきょろきょろしていた。すると、視線に気づきこちらの方に向いた。
「よう、また会ったな。」
「よっ、この学校に転校する三日前にクラスメイトの顔、名前、出身中学校、所属している部活、先生から見たその人の雰囲気をまとめたリストみたいなものをもらったから、皆のことは一方的に少しだけ知ってるよ。」
片手を軽く挙げて話しかけてみたら同じポーズをして返してきてくえた。
雫の奥にいるクラスの奴らが驚いた表情を浮かべている姿が見えた。俺と普通に会話しているのがそんな不思議に見えるのか。
それは置いておいて、そのリスト少し気になるな…。やはり先生から見ても俺はそんなふうに見えているのだろうか。
「お前が出した情報少なすぎるだろ。もっと無いのか?」
「じゃあ、好きな食べ物はオムライス、好きなスポーツはサッカー、料理は一応できる、音楽はBGMしか最近は聞いてないから流行りの曲はあまり聞かないかな。これでどう?」
「だってよ、優太」
「いや、急に振られても困る。あと、俺には美波がいるんだから他のそういう奴らと一緒にしないでくれ。」
なんで俺なんだよって返してくるが、優太の目を見ると『お人好しめ』といった感じだ。皆が勝手に勘違いしているわけで俺は何も悪くないが、俺のせいでみんなが話しかけづらくなってるからな。俺がきっかけを作るべきだと思っただけだ。
それにお前も人のこと言えないだろ。後半の言葉は雫のことを狙っている人間に対して釘を差しているし。
「雫、知ってると思うが紹介しとく。こいつが氷室優太。んで、その隣が錦美波。この二人は付き合ってる」
「よろしく」「よろしくね!」
「うん、よろしく。ちなみに付き合ってる情報も書いていたよ。」
「まじかよ、先生やるなぁ」「うそぉ」
なにぃ!っと驚く二人。
「いや、学校にいる人全員が知ってる有名カップルだろ。」
「「バレた?」」
「本人たちがバレたっていうのも何か変な気がするけど」
「なんで有名なの?」
おっと、それは書いていなかったのか。先生甘いですねぇ。いや、誰目線だよ。
「こいつら去年の文化祭の前夜祭にあったランウェイでペアルックで参戦して付き合っている発言をインタビューでかましたからな。」
「やるねぇ。それは皆からそんなふうに言われるね。」
いやぁ、あのときは凄かったな。ふたりとも凄くモテる人間だったから男女ともに驚く人は多かったな。俺は二人が両片思いのときから相談相手になっているので特に驚きも何も無かったけど。(当時、それぞれに何で俺に相談したのか聞いたら『言いふらす相手がいないから』と言われた。まあ、そうなんだけど…さあ…。)
「だって俺と付き合っていることを知らない奴らが美波に告白しているのがかわいそうだったから仕方ないな。」
「そこで相手に怒るんじゃなくて相手を心配するあたりがお前らしいな。」
と、話し合っているうちに一時間目の予鈴が鳴った。
話の続きは休み時間だな。
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