俺と彼女のリスタート
Quick-cat
第1話 約束
早朝、涼しい風が肌の熱を奪っていく感覚を感じながら河川敷近くの公園でいつもの練習メニューをこなしていく。ダブルタッチ、右足、左足、アウトサイド…様々な種類のドリブルを緩急をつけながら練習する。
一通りのメニューを終えて、木陰で休む。
今日は体育の授業があるからこのくらいで切り上げるか…。
練習のために置いたマーカーコーンを拾いに行くために立ち上がろうとしたら視界の端に人が見えたのでその方向に向く。するとそこには俺の学校の制服を着ている少女がいた。
背丈は俺の肩ほどの高さで髪型はショートヘアー、いわゆるクール系と言われる見た目の美少女で顔を見た瞬間驚いてしまった。
彼女は何も言わずに俺の顔を見つめてくるだけで、口を開く様子は見られない。少し気まずいのでこっちから話しかけることにした。
「おはようございます。朝早いのにもう登校するんですね。」
「おはよう。えっと…私、今日からこの学校に通うことになったんだ。それで、先生に早く来いって言われて向かってたらたまたま見かけて…。」
急に話しかけられて驚いた表情をしていたが、向こうも話してくれた。というか、転校生なのか…。だから彼女は話しかけてくれたのかな。
「なるほど…でもここでゆっくりしてて大丈夫?遅れないか?」
「大丈夫、むしろ早く家を出過ぎて時間が有り余っていたぐらいだから。あと、敬語は堅苦しいからタメ口でいいよ。」
目の前の少女が年上だったら…と考えていたが、向こうからタメ口でいいと言われたのは正直助かる。俺も堅苦しいのは苦手だし。
「じゃあ、そうさせてもらうね。ちなみに、俺がここで毎朝練習しているのを誰かに話さないでくれたら嬉しいんだけど…。」
特に深い意味は無いけど、一人でここまでやってきたのなら、最後まで誰にも知られずに練習をしたい。
「分かった、ちなみになんだけど…私も一緒に練習していい?」
彼女は二つ返事で受け入れてホッとしたが、次の言葉に驚いた。
「サッカー経験者なの?」
「そうだよ。それと、君ドリブラーだよね?あのマーカーコーンを避けているときのタッチの仕方がそんなふうに見えたんだけど。」
ん?マーカーコーンを避ける練習って確か、10分以上前のはず…。
「さてはお前、結構な時間見てたな?」
「いいじゃん。それよりどうなの?」
目の前の少女は興味津々といった表情でこちらを見ている。
さっきまでクール系とか思ってたが、意外とそうでもない?
「そうだよ。ドリブラーって言われる。」
「やった!私もそう言われるんだ。ドリブラー同士、何かの引力に引きつけられているのかな。」
「どうだろうね。それより、そろそろ良い時間じゃないのか?」
バックからスマホを取り出して時間を見ると、いつも俺が一度家に帰る時間より10分遅かった。
「あ、忘れてた!君との会話はこれが初めてじゃない感じがして、ついつい話しすぎちゃったね。」
「気を付けろよ。」
「じゃあ、また後でね。」
そう言って名前の知らない少女は小走り気味に学校の方向へ歩いていった。
ん?『後でね。』ってもしかして、放課後に練習するとか?いや、違うな。きっと言い間違いだろ。
それよりも、『君との会話はこれが初めてじゃない感じがする』か…。
一瞬、アイツが浮かび上がったが、昔のこと過ぎて記憶にほとんど残ってないし、それに…。
こうやってダラダラ考えてても時間の無駄だ。それに、いつもより時間が無いんだから急がないとな。
俺は残りの水を一気に煽り、空のボトルをドリンクホルダーに突っ込み自転車のペダルを漕ぎ出した。
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