第6話 約束

 あの同窓会から一週間。


 僕は茫然ぼうぜん自失じしつとしていた。何もかもやる気が出なかった。

 大学の講義に出るくらいはしていた。けれども、サークルには行かなかったし、バイトも休んだ。ゲームをする気も、漫画を読む気も起きず、家ではずっと寝ていた。


 ああ、つらい。だるい。なんにもしたくない。でも、何か食べなければ死んでしまう。外行って、ラーメンでも食べるか。ラーメン、ラーメン……。ああ、ここにしよう。


 僕は昔ながらのラーメン屋に入った。店内はお世辞せじにも綺麗ではない。常連じょうれん客で賑わっている雰囲気ふんいきはあるけれども、そんな一見さんお断りのような所が逆にこの店の居心地を悪くしていた。どうしよう、引き返そうかな。そう思っていた矢先、テレビから聞き覚えのある地名が聞こえた。僕の地元だ。僕は条件反射的にテレビに目をやる。


(妻にDVで柔道指導者の男を逮捕……物騒ぶっそうだな)


 そう思ったのも束の間、テレビから次々と聞き慣れた名と、見慣れた顔が流れていく。


「妻に日常的に暴行を加え死亡させた疑いで、県警けんけいは柔道指導者の柊冬也容疑者ようぎしゃ、二十歳を逮捕しました。調べによりますと柊容疑者は、半年ほど前より妻の真優梨さんに日常的に暴行を加え…………真優梨さんは病院に搬送はんそうされましたが、間もなく死亡が確認されました」


 …………………………。


 そのニュースを見て、僕は呆気にとられ、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「真優梨に何かあったら僕が君のもとに駆け付ける! それで、僕が君を守る!」


 あの日の約束が、胸の中にむなしく響いていた。

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僕の味方 加藤ともか @tomokato

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