03 沈黙と会話

部屋を割り振られて、西田幸次と同じ部屋になった。こちらを見ることもなく、この人と3泊も一緒の部屋で寝たいといけないと思うと憂鬱になりそうだ。


 2階建てのコテージで、2階に2つの部屋に、女3人と男2人で分けられて、明日実の母親と西田の父親は1階の部屋で過ごすことになった。

 時刻は12時半を過ぎていた。荷物を置いて、すぐに、お昼ご飯にすると言われて、荷物を置きに、2階に上がることになるが、誰も話そうとしない。

 先に、来ていた明日実が部屋を案内してくれた。先に上がった西田が部屋に入って、「仲良くね」と明日実に言われて、「ああ」と少しイラっとしてしまった。

 部屋は手間にクローゼットあって、奥にベットが左右に分かれて、設置されている。その先は窓がある。

 机のらしきものはなく、荷物はクローゼットに荷物を置くようになっていた。

「西田くんって、どこから来たの?」

「それって、答える必要あるんですか?」

「別に、答える必要はないけど。3泊4日、一緒なんだから、会話くらいしてもよくない」

「必要ないです。」

「あっ、そう」

 何なんだろう。つれない奴だなと思った。それから、作業している音しか流れてこない。このまま、3泊とも黙って過ごすことになるとしたら、滅入りそうな気もしてきた。1人で、部屋で過ごすわけではなく、人がいて、会話しないのはやっぱり、頭がおかしくなりそうになる。

「先に、下に降りえてるわ」と言って、1階に降りることにした。滅入りそうな気持ちを抑えながら、下に降りた。

「早かったわね」

明日実の母親が、エプロン姿でこちらに話しかけてきた。

「まあ、会話がなくて、息が詰まりそうになったので」

「そうなんだ。仲良くしてね」

明日実と同じことを口ずさんできた。

「ママ~」

明日実も2回から降りてきた。

「ああ、竜也も来てたんだ。大丈夫そう?」

「無理そう」

「そうなんだ」と爆笑している。

「何だろうね。人って、うまく会話できないよね」

明日実の母親がしんみりと言う。

「ママ、何でこんな企画したの?」

「何となくよ」

親子の会話をして、竜也は入る隙がなさそうだった。さすがに、お腹がすいてきた。

「お昼って何ですか?」

「かつ丼とお味噌汁」

「もう食べることできないんですか?」

「みんな、そろってからね」

怪訝な顔になっていく。15分経っても、他の3人は降りてこない。

「幸次たちは?」

「まだ見たいよ。ねえ、そこの2人、呼んできて」

「なんで、ママが呼んできてよ。人を待たせてるのに」

「お願い。」

明日実も竜也もお腹が空き過ぎてイライラしていた。

「わかった。竜也、行くよ」

「えっ」というと、明日実に睨まれて、行くことになった。

明日実と目の合図をして、部屋に入ると、西田がベッドに寝そべっていた。

「なあ、お昼だから、下に降りないと」

「要らない」

腹立ってきた。「何が?」ときつめに言った。

「食べないって、言ってんの」

「じゃあ、下に降りて、それを言いに来たら。俺には関係ないから」

と部屋を出て、1階に降りた。

「食べないって言ってる」と明日実の母親に言う。

「そうなの?」

明日実も怪訝そうに降りてきた。

「2人に無視された。もう、お腹空いて、限界なの。私、子守りしに、ここに来てないから」と明日実は怒鳴る。

「わかった。2人は先に食べて」

明日実の母親と西田の父親は、それぞれ2階に上がっていった。


明日実と、向き合って、かつ丼を食べることになった。

「ママって、なんで、こんなことするんだろう...」

「どういうこと?」

「なんか、ここ最近、急に、引きこもりとか、社会的に積極性がないっていうか、そいう若者を支援したいって言いだしてるの。」

「そうんなんだ。明日実のママも大変だね。で、なんで俺を誘ったの?」

「ママに、男1人誘って来って、言われて、竜也、暇そうだったし、何となく竜也が良かったの。」

「なんか、微妙だわ」

「そう、でもいいや。来てくれて、ありがとう。かつ丼、おいしいね」

そんな、会話をしている間も、誰も降りてくる様子はなかった。

2人とも、食べ終わったのに、2階からは音沙汰がない。

「どうなるんだろうね?」

「俺に聞かれてもね。」

「そうだよね。」と明日実は2階を睨んでいる。


誰かが降りてきた。西田の父親だ。

「ごめんね、息子とは遠縁になっていて、あまり仲は良くないんだよ」

さっきまでの元気はなくなっている。

「達郎さんって、幸次君のことどう思ってるんですか?」

明日実が、怪訝そうに聞く。

「そうだね。向き合えないと思ってるかな」

なんか、詰まった言い方で、言いたいことが分かりにくかった。

「無理そうね」

明日実の母親も降りてきた。

その時、ドンという音が響いた。誰かが、2階から落ちたようにも思える。

「君たちは、ここに居なさい。僕が見てくる」

西田の父が、言うが、その前にすでに明日実が動いていた。2階に駆け上がっていく。竜也も明日実の母親も追いかけて、女子部屋に入ると、中野亜美が、窓の前に突っ立ていた

「亜美ちゃん、麻帆ちゃんは?」

明日実の母親が、聞くが、微動だにしない。

「僕が、下の様子を見ます」と竜也が言って、バルコニーを出て、下を見ると人がうつ伏せになってる姿が見えた。明日実の母親もそれを見て、「麻帆ちゃん~」と叫んで、1階に降りて行った。

「明日実、警察に電話?」

「わかった。とりあえず、1階に行こう」

明日実と竜也は、微動だにしない中野亜美を放置して、1階に向かった。そういえば、西田の父親の姿が見当たらない。どこに行ったのだろうか。明日実は警察に電話して、警察が来ることにはなった。

「ねえ、達郎さんは?」

明日実の母親が泣きそうな顔で、部屋に入ってきた。

「そういえば、見てないけど」明日実が答えた。

「じゃあ、竜也の泊まる部屋を見に行こうよ。幸次くんもいると思うし」

と言って、3人で、部屋に向かった。そこには誰の姿もなかった。

 竜也の泊まる部屋にはバルコニーはないが、窓はある。その窓が開いていた。

「ねえ、何もないよね」

「さすがに、無いだろう」

下を見たら、2人の人物が倒れている。それも男女。たぶん、服装からして、西田の父親の達郎と、中野亜美の姿だろう。西田幸次の姿だけが、確認できなかった。

 サイレンの音が、響いて、警察がコテージにやってきた。2階から落ちていた3人の姿を確認しに行った。明日実の母親は、石川麻帆のところに行った際、触ってしまって、冷たかったので、怖くて、部屋に戻ってきたと言って泣いている。

 竜也と明日実も警察に聞かれるが、2階から様子は、見たが、3人の近くに行っていないこと伝えて、西田幸次の姿が見たらないことも伝えた。

 そして、警察の用意した車に乗って、山の下に降りることになった。その間、警察はあらゆることを聞いてきたが、2階から落ちた3人が亡くなっていること、山中で、西田幸次が木に縄で首を吊って、亡くなっていることを知ることになった。なんていう日を過ごしてしまったのだろう。

 この夏、明日実と一緒に、警察に何度が呼び出されて、その日、どんな様子だったか、何度か聞かれた。竜也と明日実は、ほとんどのことを知らなかったので、警察も困っていた。明日実の母親も、幸次の父親の達郎を手伝っていて、ネットで、参加してくれる人を募集して、来たのが、あの女子2人だったらしい。幸次は、達郎が直接誘っていたらしい。

 夏休みが終わって、明日実と久しぶりに会ったら、ファーストフード店のマイルドを奢ってと言われて、仕方なく、付き合うことになった。

 そこで、何度か、明日実は警察に連絡をしていたみたいで、あの日のキャンプでの出来事を話し始めた。

 元々、西田幸次がSNSで知り合った中野亜美、石川麻帆の集団自殺を仄めかして、キャンプに誘って、どこかで、練炭自殺する予定が、中野が石川を刺してバルコニーから突き落として、更に、西田幸次も殺そうとして、中野はナイフをもって、部屋に侵入したところ、父親の達郎が鉢合わせたみたいで、達郎を刺して、それを見ていた幸次が窓から中野を突き落とした。それを見た達郎が刺してきた中野を助けよとして、一緒に落ちて亡くなってしまった。そのあと、元々、亡くなるつもりだった幸次が、山に逃げ込んで、自殺を図ったとされている。

 警察が中野亜美の家を捜査した際、誰かを殺してみたかったというノートが見つかっていたらしい。そして今回、殺害を実行させたとみられる。もしかしたら、明日実も竜也も殺されていたのかもしれなかった。


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