第11話 「遠慮なく言っていい」
凛花から恵太郎に声を掛ける事自体初めてのことなのだが、リンネの正体を学内で知っているのは恵太郎だけなので、凛花も気兼ねなく話せるようにはなっていた。
凛花は恵太郎に悩みを訊いてもらう事にしたのであった。
「……あのさ、栗巻くん……いいかな……?」
「? 珍しいね、乃木さん。なにかあったの?」
「……その……さ、最近……アタシのこと、どう見える?」
「え? さ、最近?? 随分急だね。何があったの???」
凛花だけが感じている微妙な変化。
恵太郎から見てどう写っているのか、凛花は気になっていたようであった。
「あー……なんていうのかな、そのー……身体とか、なんか変化ないかなー、って。」
「うーん……僕に言われてもな……そんな、いつも通りだとは思うけど……」
……まあ、女子の微妙な変化に気づけていたらモテているのは間違い無いので、恵太郎の反応は普通である。
凛花が繊細すぎるのか、はたまた自分に厳しい
「そっかー……あんまり変わってないか、栗巻くんの中でだったら……」
「え?? 中だったら、ってどういうこと??」
「……最近さ、肌のカサつき……気になりだしてさ……それはなんとかなったんだけど、今度は疲れが取れないし、心はモヤモヤするしさ……こんなこと言えるの……栗巻じゃないと言えない……」
ため息混じりで愚痴を吐く凛花、心ではすっかり恵太郎のことは許してはいるようである。
とはいっても、こういうプライベートだけではあるのだが。
「そっかー……大変だったんだね、今日まで。」
「ホントだよ……めっちゃ焦ったんだからね、これでも……肌のコンディション悪いしメイクもイマイチだし……でもってさ、クラスの中心でいなきゃいけない、って考えたらさぁ……疲れもドッと来ちゃうし……そう考えたら栗巻くんみたいな立場が良かったなー……って。……最初からさ?」
恵太郎もダイエットを今している最中なので、凛花の苦労はあらかた理解出来たようであった。
それを以ってこう言った。
「んー……でも僕はそれでも頑張ってる乃木さんが凄いなー……って思うよ? だってさ、そういう苦労を跳ね除けてイベントにも積極的に出てるわけだし……僕じゃあ、とても真似できない。羨ましいよ、そういう悩み……持てるのって。」
「う、羨ましいって……!! そ、そりゃあ、憧れてたし、人気者って! でもいざ体験してみたらホント疲れるよ……いいよね、インキャは……逆にアタシと全然違う世界にいるから……だってホントは……そっち行きたかったし……」
ペットボトルのお茶を一つ飲み、凛花は俯く。
恵太郎は軽く笑っていなす。
「でもさ、いいんじゃない? 僕にはこうやってさ、全部包み隠さず言ってくれるんだから。……こんなこと言うのはアレだし、力になれるか解らないけど……遠慮なく言っていいよ。ちゃんと聴くから。」
「……アンタが良い人で良かったわ……じゃなきゃクラスに言いふらされて終わりだし……ありがと、栗巻くん……って……」
「うん? どうかした? 乃木さん。」
「え、ちょっ……!! ええ!? く、空気椅子!?!? なに、どうしたの急に!!」
「あー……ちょうどいいかな、って思って。今ダイエットしてるから……」
「ちょちょちょ、待って待って待って、栗巻くん! おかしいおかしい!! 待って、それはアタシ聴いてない!!」
凛花に止められ、恵太郎はベンチに座った。
「……の、乃木さん……??」
「な、何で急に!? どういうこと!?」
「アハハ……僕も頑張ろうって思ってね……今日もここまで走ってきたし……」
「ちょっと……やるのはいいけど絶対無理しないでよ!?!? いくらぽっちゃりしてるとはいえさ、急な減量は身体に悪いっていうし……!!」
凛花は完全にテンパっていた。
恵太郎の空気椅子は完全に予想外で、恵太郎がダイエットしているとの情報も得ていなかったからだ。
実のところを言ってしまうと、凛花は他人の体型に口出しするような趣味は持っていなかったし、むしろぽっちゃり系の方がどちらかといえば好きだったので、複雑な気持ちであった。
「心配してくれるの?」
「そりゃ心配だよ!!」
「それは……うん、有難いんだけどさ……でも僕が……本気でやるって決めたことだから。目標は80キロって設定してるし……とはいってもまだ1.2キロしか落ちてないけど。……僕は人に無理強いはさせたくないし、見たくないけど……僕が本気で何かやることで見える景色もあるのかなー……って思うんだ。だから続けられてる。」
恵太郎の目は穏やかではあったが、本気の目をしていた。
凛花の努力する姿を見て始めたダイエットだったので、恵太郎は凛花に刺激を貰っていたのであった。
「……じゃあアタシも……本気で頑張ってみるか! ありがと、栗巻くん! ちょっと燃えてきた!! それじゃあね!!」
元気を恵太郎にもらった凛花は、眩しい笑顔を見せて帰路に着いていった。
「よし……走って帰るか、僕も。」
恵太郎もベンチから立ち上がり、消費カロリーをスマホにメモし終えた後、走って自宅まで戻っていったのであった。
もしも、キモブタヲタクインキャが学年1の人気者美少女の秘密を知ってしまったら。 黒崎吏虎 @kuroriko5097
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