希望は残りました


ただ、悲しみの中にも希望は残りました。

あれほど見下してきた領民が、彼の罪が自分たちを救うためだったと知り、彼の罰の肩代わりに名乗りをあげたのです。


「罪を犯してでも領民のために金を工面したかった」


それを知って、500人以上の領民たちが肩代わりを望んだのです。


「こんなことで今までの愚行が許されるとは思わない。何より赤ん坊を死なせた罪は我らにある。ただ、これからの苦労を一緒に乗り越えさせてもらいたい」


領民代表は貴族院へそう訴えた。

緊急措置も救済も叶わないが、貴族院は温情を与えた。



そして貴族たちも動きました。

金貨100枚の罰金を彼らが寄付しあったのです。

元々、自分たちの態度が彼を追い詰めた後悔があったのです。


私が断ったのも、『当主からの手紙ではない』からです。

領民たちの人海戦術のおかげで半年後に罰である300年分の労働を完了したベレッタの兄は、全ての事実を知って泣き崩れました。


次期当主だったという思い。

褫爵後に縋った自分を追い出さずに信用して領地経営を任せてくれたこと。

領民を救いたいと望んで私に手紙を出したこと。

未開封で返された意味を理解せずに屋敷まで押しかけてしまったこと。


「当主でもない者が、当主を差し置いて金子の工面を依頼するということが不敬罪にあたるなど気付けなかった。未開封で返されたということは不問に付すということだと気付けなかった、愚かな自分を許してほしい」


その謝罪に、彼だけでなく当主も頭を下げた。


あれから5年。

再度妊娠したことで、夫人はかすかな回復を見せ始めているらしい。




私はなにも慰謝料だけで生活しているわけではない。

ここは兄が継いだ領地の観光地。

その整備に兄が設立した団体があり、私のお金はそこで活用されている。

自然豊かな避暑地とはいえ、環境を整えないと人は来ない。

私が平穏無事に過ごせるのも、王都から近く、環境も警備も十分管理されているからだ。

早々に引退を決めた父が団体の代表になっているのも、私から出る資金を活用するためだ。

その報酬が何倍にもなって私に返ってくる。


だから、兄が治める領地はどこよりも豊かなのだ。

それのおこぼれに与ろうとした婚約だったのを、不貞をきっかけに破棄になったことで、私は自由を得た。


私はこのまま独身を謳歌し、甥や姪の成長を見守り、あくせくした人生から解放された一生を優雅に生きていく。



オレに面倒ごとを丸投げしてるだろう?」

「だから団体に投資したじゃない」

「報酬を持っていってるじゃないか」

「じゃあ、全資金を凍結しましょうか?」

「……それだけはやめてくれ」





(完)

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婚約破棄の慰謝料に集らないでください アーエル @marine_air

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