第31話

こういうことが多いから、魔女疑惑を持ち出されることになったんだ。



「あ、えっと。先輩はサッカー部で有名なので」



「そんなに有名かなぁ?」



「はい、有名ですよ!」



「ははっ。そっか、ありがとう」



慌てて言い訳をして何とか難を逃れることができた。



ホッと安堵のため息を吐き出す。



「君、名前は?」



「あ、あたしは……」



途中で言葉を切って洋人君を見つめる。



洋人君は笑みを浮かべ、小首をかしげている。



「あたしの名前は浅海千奈です」



「千奈……?」



一瞬、洋人君の表情が険しくなるのがわかった。



考え込むような沈黙が流れる。



「どこかで聞いたことがあるような……」



あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。



洋人君の心の中に、あたしは残っているだろうか?



しかし、その答えが出るより先にホームルームが始まるチャイムが鳴り始めてしまった。



「行かなきゃ。じゃあまた、千奈」



洋人君があたしへ向けて手を振る。



「あ、はい」



あたしは慌ててお辞儀をする。



そして顔を上げたとき、呆然としている洋人君と視線がぶつかった。



「先輩?」



「あ、いやごめん。なんでか自然と呼び捨てにしちゃって」



そう言って自分の頭をかいている。



あたしはそんな洋人君へ向けて満面の笑みを浮かべた。



「呼び捨てにしてもらえて嬉しいです」



「そっか……なんだか千奈とは初めて会った気がしないんだよな」



「案外そうなのかもしれません」



「え?」



「ほら、先輩! 遅刻しちゃいますよ!」



あたしはそう言い、階段を駆け上がる。



洋人君の心の中にはちゃんとあたしがいる。



だからもう1度、きっと恋ができるはずだ。



そんな未来を予想して新しい2年生のクラスへと入って行ったのだった。



END

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死なないあたしの恋物語 西羽咲 花月 @katsuki03

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