第30話

☆☆☆


4月5日。



今日は渡中学校の始業式だ。



グラウンドに張り出されたクラス表を確認すると、あたしは2年B組だった。



今回も2人の親友が同じクラスにいる。



1人は真夏みたいにパッと明るい性格をした子で、もう1人は綾みたいに読書家な子だった。



あたしははやる気持ちを抑えながら昇降口で靴を履き替え、階段へ向かう。



3年生は1階に教室があるから、そちらへ流れていく生徒たちへ思わず視線を向けた。



見知った顔がちらほらと見えて、その中に綾と真夏の姿を見つけた。



「あっ」



思わず声を上げて立ち止まる。



2人もあたしの声が聞こえたようで振り向いた。



一瞬視線がぶつかる。



もしかして……?



そう思ったが、2人は互いに目を見交わせて首をかしげ、歩き出した。



……そうだよね。



一瞬記憶が残っているのかと思って期待したけれど、そんなことはない。



だって、あたしが2人の記憶を消してしまったのだから。



あたしは2年生のクラスへ向かって歩き出した。



階段を沢山の生徒たちに混ざって歩いていく。



1年前の始業式の日、あたしはここでこけそうになり、洋人君に助けてくれたのだ。



だけど、もうそういうことは起こらないのだ。



1年学年が違えば出会うことも難しくなるだろう。



それでもあたしたちはまだであって、恋をすると約束した。



だからあたしはもう1度2年生をするためにこの中学校に入学したのだ。



今年の2年生たちは元気な子が多いようで、みんなが階段を駆け上がっていく。



ひとり歩いて階段を上がっていたあたしに男子生徒が後ろからぶつかってきた。



「キャッ!?」



体のバランスが崩れて、足が段を踏み外す。



今度こそ、落ちる……!



何度も繰り返す自分のドジさに呆れる暇もなく、視界がグラリと揺れる。



地面が見えた瞬間ギュッと目を閉じて衝撃に備えたが、いつまで待っても痛みは襲ってこなかった。



そっと目を開けてみると、あたしの体を抱きとめるようにして倒れている男子生徒がいた。



「大丈夫?」



その人は顔をしかめてあたしを見る。



「あ、え……」



驚きのあまり返事ができずに硬直してしまう。



落下したあたしを抱きとめてくれたのは、洋人君だったのだから。



「君2年生だろ? 今年の2年生はやけに乱暴なやつが多いなぁ」



「ご、ごめんなさい!」



あたしは慌てて横へよけた。



洋人君は制服のほこりを払いながら立ち上がり、苦笑いを浮かべる。



「君の事じゃないよ。階段を駆け上がって行った男子たちのことだ」



「あ……」



「怪我はない?」



「は、はい」



「どうしてそんなに緊張してるの? なんか頬も赤いけど?」



洋人君が心配そうにあたしの顔を覗き込む。



あたしの心臓はドクンッとはねて、思わず後ずさりをしてしまった。



まさかこんなに早く洋人君と再会できるなんて思っていなかった。



それも前回と同じシチュエーションで。



「だ、大丈夫です。ありがとうございます洋人君」



「え? 俺名前名乗ったっけ?」



洋人君が自分を指差して小首をかしげる。



しまった、つい口をついて出てしまった。

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