不安を抱く銀の娘と銀灰色の狼

羽柴玲

第1話

───番ってなんだろう?


そんな事を思いながら、森の中を歩く。

時間は、深夜を回る少し前。鬱蒼とした木々は、空に浮かぶ月の光を遮っていた。


───うんん。わかってはいるの。番は運命の相手なんだって。でも・・・


木々が途切れ、淡い月明かりが届けば、一人の少女の姿を浮かびあがらせた。

頭には獣の耳があり、髪は月明かりに煌めく銀髪。顔は可愛いと言うよりは、綺麗と現す方が自然だろう。

しっかりと張り出した胸元に、細くくびれのある腰。程よく肉がつき丸みのある尻。そこから伸びる尾も銀色で艶めいていた。

細すぎず、太すぎない、程よく筋肉の着いた、すらりと伸びる四肢。

少女と言うよりは、女性といった雰囲気を醸し出していた。


───村に私の番は居なかった。他の子達は、成人する頃には番が居たのに・・・


彼女は狼の獣人。五年前に成人を迎え、今年二十三になる。

獣人の寿命は長い。それ故に婚期も長いのだが、彼女の村では奇跡的に成人する頃には、番が現れ結婚するものが多かった。


───母さま達には、まだ先は長いのだから気にすることないって言われたけど・・・


獣人の寿命はおよそ一五〇年。婚期も十八で成人してから八〇年近くある。

彼女の両親が言うように、彼女の年齢的に心配する程のことでもない。


───番は見ればわかるって言われても、わかんないよ・・・


まなじりに薄らと涙を浮かべ、思い詰めたように、歩みを進める彼女の前に、黒い影が横切った。


「えっ・・・なに?」


驚きに思わず声を上げれば、目の前に真っ黒な獣・・・狼がいた。


「狼・・・いえ、獣人?」


狼は少し驚いたような表情を見せたものの、彼女の足元へ近づきすり寄っている。


「ふふ。あなたは、狼さんね。みて・・・私は、狼の獣人なのよ」


真っ黒な狼に、自身の耳と尻尾を見せながら、彼女は話しかけている。

先程までの思い詰め、塞ぎ込んでいた事を忘れたような表情をしていた。


「ねぇ。何かのご縁だからお話ししましょ」


そう言って、彼女は狼を導くように、小さな切り株へと腰掛ける。


「私の名前はね、みゃるって言うのよ」


狼の背を撫でながら、彼女・・・みゃるは、ひとり言のように話している。


「私の村はね、狼の獣人の村なの。たまに、別種族の獣人もいるけれど。

人の出入りは多くて、珍し事に成人する頃には番に出会えるような所なのよ」


その言葉に、ピクリと反応するように、黒い狼はみゃるを見上げる。


「ふふ。びっくりでしょ。長い人生、なかなか番と出会えない人が沢山居るって聞くけれど、私の村では眉唾まゆつばみたいな話なの。

でもね・・・」


みゃるはそこで、言葉をきる。狼の背を撫でていた手も止まり、少しだけ思い詰めた表情をした。


「私は、まだ番と出会えていないの。両親は気にすることないって、言ってくれるけれど・・・村の皆は、奇異きいなものを見るような目で私を見るの・・・ううん。正確には、村から出たことのない人たち・・・かな」


話をするうちに、溜まった眥の涙が、自然と頬を伝う。

狼が慰めるように、それを舐めとろうとしたところで、直ぐ側の藪から銀灰色の狼が姿を現した。


「黒。それは、お前の仕事じゃない」


銀灰色の狼は、そう言うとみゃるへと近寄り、彼女の頬を伝う涙を舐めとる。


「あなたは、獣人?」


みゃるは、少しだけ頬を染めながら、言葉を話す狼へと話しかける。

ただ、その声は少し自信なさげであった。


「ああ。俺は、獣人だな」


「うそ・・・」


その言葉にみゃるは、自身で聞いておきながらも驚きを隠せないでいる。

それもそうだろう。獣人で完全に獣化出来る者は少ない。ほんの一握りだろう。


「聞いておいてそれはないだろう・・・番殿?」


銀灰色の狼は、少しだけ可笑しそうにそう言うと、ぺろりとみゃるの唇を舐める。

それに、みゃるはびくりと身体を震わせながらも、半信半疑に言葉を紡いでいる。


「完全な獣化なんて、初めて見たもの。それに・・・番?私にはわからないわ・・・」


「なるほど。では、これではどうだ?」


銀灰色の狼は、くるりと宙返りをすれば、一人の青年の姿に変わっていた。

年の頃は、みゃるとさほど変わらぬ位だろう。

銀灰色の耳に、同色の長い髪を後ろで一つで纏めている。

目鼻立ちはスッと通り、余分な肉など着いていない。

ラフな服に包まれ、チラリと覗く胸は程よい筋肉が着いていることがわかる。


「あっ・・・え?」


みゃるは、自身の体の反応に驚くように、自身を抱きしめている。

頬は熟れた実のように赤くなり、唇は薄く開き、浅い呼吸を繰り返している。


「・・・───なるほど。過保護に育てられたのか」


青年は、みゃるへと手を伸ばし、頬へと触れる。

みゃるは、それに過剰なほどの反応を示し、肩をふるわせている。


「くそ。なんて、匂いさせてやがる」


そう吐き捨て、青年は「触れるぞ」と、一声掛けみゃるを抱き上げる。


「え・・・なに」


それに、戸惑いを見せながらも、みゃるはおとなしく青年の腕の中にいる。

青年はそれに満足そうに頷きながら、歩き始めた。


「俺の名前は、はるだ。番殿の名前は?」


「はる?えっと、私は、みゃるよ。何処どこへ行くの?」


戸惑いながらも、みゃるは何とかそう口にする。

その間、青年・・・はるは、止まることなく歩き続けている。


「みゃるか。この先の俺の家。流石さすがに初めてで、外は嫌だろう?」


「え・・・はじめ?」


はるの言葉の意味をとりかねて、戸惑いを見せれば、みゃるを見ることなく説明を始めた。


「みゃるは、番との邂逅かいこうで発情してる」


「え?!はっはつじょ・・・」


「そう。俺ら位の年であれば、ここまでになることはないはずなんだがな。みゃる、お前いくつだ?」


はるは足を止め、みゃるを見下ろしている。

彼女の顔は赤く、呼吸も浅いままだ。


「にじゅうさん」


「だよな。因みに、俺は二十二な」


はるは、止めていた足を再度進めながら、みゃるへと説明を続ける。


「番同士は出会えばわかる。それはな、人それぞれだが、容姿であったり、匂いであったりなんだが、それらが身体の芯をうずかせるんだ。

幼子の場合は、離れがたさと共に居たい。そう言う感情が刺激される。

精通や初潮後であれば、性的な感情だな。今、みゃるが戸惑いを感じている身体の変化がそれな」


「・・・だから、発情なの?」


「ああ。だが、成人後しばらくすれば、それらはそれなりに制御できる筈なんだが・・・みゃるは、全くと言っていいほどできてない。今みゃるは、男を誘惑する女の匂いを全身からさせてる」


はるの最後の言葉にみゃるは息を呑む。


───男の人を誘惑する匂いをさせているの・・・?


「・・・そんなに怯えるな。酷いことはしないから」


はるがそう言うと同時に、ぎぃと扉が開く音がする。

いつの間にか、はるの家に着いていたのだろう。

みゃるは、それに気づき身体を強ばらせる。

それに気づきながらも、はるは足を止めることなく、ある部屋へと向かい、ベッドへとみゃるを下ろす。


「俺に触られるのは嫌か?」


そう言いながら、はるがみゃるの頬へと手を伸ばし、指先を這わせ、そして包み込む。


「・・・嫌ではないと思うわ」


「そうか。嫌だと・・・怖いと思えば言え。怖がらせたくはない」


みゃるが、小さく頷くのを確認し、はるはみゃるへと身を寄せる。

そして、自身の唇を彼女のそれへと触れさせる。

みゃるの身体がはねるが、表情に嫌悪けんおを感じていないことを見て取ると、再度唇を重ねる。

先程よりも長い口づけをし、唇を啄むようなものへと換えていく。


ちゅっ・・・ちゅ・・・


彼女のおとがいへと指を這わせ、少し上向かせれば自然と唇が少し開く。

そこへ舌を潜り込ませ、深い口づけを与えていく。


くちゅ・・・ちゅっ・・・くちゅ・・・


みゃるが、少しだけ苦しそうな素振りを見せれば、はるは唇を離す。

お互いを継ぐように、糸がはり、直ぐに切れた。


「みゃる。息は鼻でしろ。それから、舌を出してみ?」


はるは、みゃるの髪を撫で、耳の後をさわさわと触りながらそんなこと言う。

そして、彼女は戸惑いを見せながらも、おずおずと舌を出してきた。


「いいこだ」


はるはそう言いながら、みゃるの舌へ自身の舌をすりあわせるようにし、再度口づけをする。

その触れ合いに、戸惑い一度は舌を引っ込めたものの、おずおずとはるのそれへと触れ、拙いながらも絡ませようとする。


くちゅ・・・ちゅぅ・・・くちゅ・・・


そんな水音に紛れ、みゃるの口から吐息に混じるように小さな甘さを含んだ声が漏れはじめる。


「ふぁ・・・はぁ・・・ぁ・・・」


その声に、はるは耳をぴくぴくとさせながら、頭を支えていた手を離し、腰に添えていた手できつく腰を抱く。

そして、片手を胸へと伸ばし、大きく張り出した胸を触る。

みゃるは、口づけに気をとられているのか、気づいてはいないようだ。

それをいいことに、はるの手は彼女の胸を優しくもみしだく。

ふにふにと指を動かし、手のひらで包むように円を描いたりと、その柔らかな胸の感触を楽しむ。

次第に、服の上からでは物足りなくなり、そろりと手を離し彼女のぼたんへと手をかける。

片手で器用に、腹の辺りまで釦を外し、そろりと服の中へと手を滑り込ます。

肩へと手を這わせ、服を落とせば、形の良い大きな胸が露わになる。

頂は熟れた実のように、赤く主張をはじめていた。


はるは、口づけをやめ、露わとなった彼女の肌へと視線をすべらせる。そして、熟れた実へと視線を留め、小さな吐息をはき出した。

みゃるは、とろけた表情で、はるを見つめていた。


「ああ。匂いが濃くなったな」


みゃるの肩を軽く推し、ベッドへと押し倒し、首筋へと唇を這わす。

両手は、胸へと伸び、やわやわと感触を楽しむように刺激を与えている。


「ふぁ・・・んっ」


擦るように時より、頂へ刺激が与えられれば、みゃるは小さく甘いと息をこぼす。

その声に反応するように、はるは一度首筋をきつく吸い、もみしだいている胸元まで舌を這わす。

彼女の反応を確認するように、時より頂を指先ではじき、つまんで刺激を与える。

それに合わすように、胸元の白い肌へと吸いつき、赤い花弁を残していく。


「はぁ・・・ん・・・ふぁ・・・」


耳朶を擽る甘い声に推されるように、頂を口に含む。

舌で舐め上げ、突くように刺激をすれば、先程よりも明確な甘い声を発するようになる。


「あっ・・・んっ・・・あぁ・・・」


もう一方の頂へと同時に、指先で捏ねるように刺激を与えていけば、甘い声と共にむせ返るような匂いが香るようになる。

胸への刺激をそのままに、空いた手をそろそろと彼女の下着へと伸ばせば、ぐっしょりと濡れそぼっていた。


───これなら、いかせてやれるか?


濡れそぼる下着の上から、そろそろと指を動かせば、主張を始めた小さな突起へと行き当たる。


「あっ!」


───ここか。


彼女の身体がはね、大きく甘い声をあげる。

それを逃さぬよう、胸と小さな突起へと刺激を与えていく。

突起を少し押し込むように、円を絵描き震えるように指先で刺激を与えていく。


「あぁ・・・やぁ・・・ふぁ・・・」


逃げだそうとする彼女の身体を、逃がすまいと押さえつけ、絶えず刺激を与えていれば、切なく切羽詰まったような甘い声を上げている。


「あっあっやぁ・・・あっ・・・」


それに合わせるように、小さな水音が『くちゅくちゅ』としている。


「あぁぁっ!」


一際大きな甘い声と共に、彼女の身体は弓なりになり弛緩しかんする。

それを確認し、はるは一度身体を起こし、突起を刺激していた手を眺める。

匂いを嗅ぎ、口に含め舐めとる。その表情は、目を細め満足そうであった。


「みゃる。もう少し頑張れるか?」


そんな言葉を投げかけながらも、はるは彼女の下着をはぎとり、花弁へと指を這わせている。


「ひゃ・・・」


みゃるは、小さな悲鳴を上げながらも、不安そうに頷いている。


「大丈夫だ」


はるは、様子見とばかりに彼女へと指を一本埋め込む。


「嫌か?」


「だ・・・だいじょう・・・ぶ。違和感は・・・ある・・・けど、いやじゃ・・・ないよ」


みゃるへと優しく口づけを降らしながら、はるの指は蜜壷を広げるようにくるくると円を描くように動いている。


「ふぁ・・・はぁ・・・あぁ・・・」


彼女の声から甘さを感じられるのを確認し、埋め込む指を増やす。

時折、指先を曲げ擦るように動かしてやれば、ある場所で彼女が反応していることに気づく。


「ああ。ここか?」


「まっ!やぁ・・・!!」


執拗にそこを攻めてやれば、彼女から甘い声が絶えず聞こえ切羽詰まったような声を上げている。


「やぁっ・・・まっ・・・はるっ・・・」


「もう一度いっておけ」


一際大きな甘い声と共に、彼女の身体は弓なりになり、蜜壷は指先を話すまいとくわえ込んでいる。

暫くし、弛緩したのを確認し、指を引き抜く。

それにも彼女は「あぁ・・・」と、甘い声を発している。

はるは、その隙とばかりに、自身の衣服を脱ぎ捨て一糸まとわぬ姿となる。

そして、自身のそれをみゃるの花弁へと擦り付けながら、声を掛ける。


「いいか?」


「・・・───うん」


戸惑いながらも小さく頷くみゃるに、はるは小さく笑う。

そして、彼女へと自身のそれを埋め込み始める。


「うっ・・・」


「ごめんな。少し頑張ってくれ」


そう言いながら、少しずつはるは腰を進めていく。

時より、円を描くように動き、そして突き進んでいく。


「はっ・・・」


時より、眉間みけんにしわ寄せ、苦しそうに吐息を吐くはるをみゃるは、痛さと苦しさに苛まれながらも、見つめていた。

そして、その姿にほわほわと心が満たされる感覚を味わっていた。


「大丈夫か?」


全てを埋め込み、みゃるを気遣えば、眥に涙をためながらも、はるを見つめているのに気づく。


「どうした?」


「んっ・・・よく、よくわからないけど・・・なんだか、心が満たされた気がしているの」


みゃるのその言葉に、はるは目を見張り、そして幸せそうな笑顔を見せる。


「そうか」


そう言って、みゃるへと口づけを降らせ、深い口づけを与える。

腰は小さく揺さぶるように動かし、みゃるの蜜壷に自身のそれを馴染ませているようだ。


「ふぁ・・・んっ」


みゃるの声に苦しさだけではなく、甘さを感じはるは声を掛ける。


「そろそろいいか?」


「ん・・・」


みゃるの小さな肯定とともに、はるは大きく腰を動かしだす。

自身のそれが、みゃるの蜜壷から抜けそうなほど腰を引き、強く打ちつける。

その際に、みゃるが反応を示す個所も忘れずに刺激する。


「はっ・・・あっ・・・あぁ・・・ん・・・やぁ・・・」


はるの動きに合わせ、みゃるは甘い声を上げる。

それは、次第に切羽詰まったものになり、はるの動きも加速していく。


「はる・・・あっ・・・はるっ」


「はっ・・・みゃる・・・」


みゃるの一際大きな甘い声を合図とするかのように、はるも大きく腰を打ち付ける。

そして、自身の欲望を蜜壷へと吐き出す。

全てを吐き出し終わったのか、はるは自身を蜜壷をから引き抜き、力なくみゃるの傍へと倒れ込む。


「はぁ・・・」


「はる?」


はるのそんな姿に、不安になったのか、みゃるが小さく声を掛ける。

その声は、情事の影響か若干掠れているようだ。


「ん?どうした」


「えっと・・・」


はるの少しだけ気だるそうなその姿に、みゃるはどきどきと胸が高鳴るのを感じる。


「・・・はるは、私の番・・・なのよね」


「そうだな。みゃるは、俺の番だな」


高鳴る鼓動のままに、そう問えば、肯定の返事が返される。

そのやり取りに、少しだけくすぐったさを感じ、みゃるは小さく笑う。


「ふふ」


「ん?」


その姿に、目を細めながら優しく問えば、みゃるははるへとすり寄っていく。


「なんかね。好きだなって思ったの。はるは、大切な人なんだなって」


「っ!」


みゃるのその言葉に、自身の欲望が首をもたげかけているのを自覚しつつ、はるは彼女を抱きしめる。


「無理はさせたくないんだ。今日は大人しく寝ろ」


「うん」


はるの言葉にみゃるは素直に頷き、大人しく抱きしめられている。


「みゃる。俺も好きだから。おやすみ」


はるは小さくそう告げ、触れるだけの口づけを落とし再度みゃるを抱きしめる。


「うん。おやすみなさい」


みゃるは、心が満たされ、ぽかぽかとした気持が胸を満たし、幸せに包まれていた。


───番は運命の相手で、大切な人。確かに、そうだった。それに、とても幸せな事なんだね


そんな想いを胸に、みゃるは意識を手放していった。

隣で暫くの間、もんもんとした気持ちと戦っているはるの心情を知るよしもなく。


はるも次第に落ち着き、大切な人を胸に眠りに落ちていった。

夜明けまでの時はさほど長くはない。

けれど、次に目覚めれば、最愛の番が傍に居る。

昨日までとは違う。そんな朝を迎えるため、番達は一時の眠りへと誘われていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不安を抱く銀の娘と銀灰色の狼 羽柴玲 @_kitten622

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ