第3話

音が少しだけ大きくなった。

しゃきしゃきしゃき。

また大きくなった。

しゃきしゃきしゃき。

更に大きくなった。

――!

俺は気づいた。

近づいてきている。

音が俺のほうに向かってきているのだ。

その時、テントの布越しに明かりが見えた。

そして河原を踏みしめる足音。

誰かが俺のテント向かって歩いてきている。

そしてその足音は俺のテントの前で止まった。

すぐ前に明かりが見える。

気づけばしゃきしゃきしゃきという音は、もう聞こえなくなっていた。

テントの入り口が開けられた。

顔を出したのは昼間の男だった。

「気になってきてみたんだが、間に合ってよかった。あんた、危なかったぜ」

「そう……ですか」

「ここはいけないなあ。よくないものがいる。だから俺がいてやるよ」

男は俺のテントの隣に慣れた手つきでテントを建てた。

「これでいいだろう。おやすみ」

「おやすみなさい」

ランタンの灯が消された。

俺はしばらく寝付けなかったが、やがて眠りに落ちた。


朝起きると、男はもう起きていた。

「おはよう」

「おはよう」

それから夕べの残りを食べた。

もちろんカレーだ。

男もカレーだった。

「あんたもカレーかい」

「そうですね」

男が豪快に笑った。

俺も笑った。


男と連絡先を交換した。

男の登録名はAにした。

それからもキャンプにはよく行ったが、一人で行く時もあれば、男と二人で行く時もあった。

一人で行っても男と行ってもキャンプは楽しかった。

楽しければ一人だろうと二人だろうと関係ない。

そして今は男と知り合って三年ほど経つが、俺はいまだに男の名前を知らない。

しかしそんなことはどうでもいいことだ。


       終

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小豆洗い ツヨシ @kunkunkonkon

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