after

「――やあ少年、何年ぶりだろうね」


面会室を開けてもらい中に入ると今でも脳裏に焼き付いている顔が目に入った。


「さぁ、そんなの数えてないよ」


あの黒いスーツの女性。

誰もが目を引くブロンドの髪。

間違いない、あの夏見た女性だ。


「怒ってる?」


「何がですか?」


俺は何も分からない、と言った口調で相手を見る。


「私があの公園で君に目をつけてなければ、今でも野放しだったんじゃないのか?」


そう言ってこの女性は一枚の新聞記事を俺に見してくる。


『――あの悲惨な事件から10年。瀬浪女児誘拐殺人事件』


この女児の名は夕凪花恋──。


「別にあんたが見つけなくても誰かが見つけただろうよ」


目の前にいる女性はニヤッと笑う。


「どうだろうな。臭いも全くしなかった、そしてまだ小学生だった君の部屋を探そうなんて思う警察、あの場所にはいなかった」


淡々とあの頃、あの場所で見つけた光景を思い出すように目をつぶりながら…


「クローゼットの奥に穴を開けて、ベッドから見れるように。見つけた時は流石の私もニヤつきが止まらなかったよ」


俺はそれを聞いているうちにだんだん口許が緩んでいくのが分かった。この女性の目元をジット見つめて。


「ヒュー…やっぱり君はキモイね」そう笑い

「その笑み、サイコパスだよサイコパス」


感心を見せるその女性を見てあの頃輝いていた自分を思い出したような気がした。

花恋ちゃんの事が大好きで自分のものにしたい。自分のものにするために殺したあの夏の事を…。


「俺はあんたが好きだ。今すぐ自分のものにしたい」


気づいたらそんなことを口走っていた。


笑いが止まらなかった。

久しぶりのこの感情がたまらなく嬉しい。

目の前のこの女性の色んな顔が見てみたい。


口から溢れ出てくるヨダレ。目から出てくる涙。全身から吹き出す汗。そしてどこからともなく出てくる真っ赤な血。俺の喜びは全身をもって表現している。


「ふふっ…」


目の前にいる女性は少し笑ったあと「楽しみに待っておくよ、


そう言ってまた俺の目の前から姿を消した――。




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あの夏、いなくなった君へ。 七山 @itooushyra

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