「親済」

低迷アクション

第1話

友人“L”の幼少時代の体験だ。


誰もが経験すると思うが、親と入浴や寝所を別にする時期があると思う。


家庭によって、程度の差はあるにしろ、最近はどんどん早くなっていると聞く。


Lの場合は、同居している祖母が亡くなり、家に空き部屋が出来た事がキッカケだった。

小学3年生で一人っ子である彼は、突然与えられた広いスペースに自身のモノを満たす事に夢中になり、そのおかげで、


可愛がってくれた祖母の死を忘れる事が出来たと言う。加えて、友人の中には、

既に部屋を持っている子もいたので、自分も早く部屋を持ちたい気持ちがあった。


初めて1人で眠る日の事だ。学校が終わった後、自分の部屋を持つ友人宅に上がり込んだ

Lは、先に部屋を持った先輩でもある友人に1人部屋についてのアドバイスを聞いていた。


クーラーや暖房はタイマーで切らないと、調子を崩す。お菓子類を持ち込んだ時はキチンと

掃除をしないと、ゴキブリや虫が湧くなど…


言われてみれば、納得の行くモノが多く、しきりに頷くLに気をよくした友人は、

いつもより多めにお菓子やジュースを振舞ってくれた。


これ以上食べては、夕食に差し支えると思った彼は、早々に辞去する事に決め、腰を上げる。

思い出したように、友人が口を開いたのは、そんな時だった。


「そうだ、L、1人で寝る時に一番、大事な事を忘れていた」


振り返る彼に、友人は


「噂話だけどな」


と言い、説明を始めた。だが、内容は、しごく当たり前の事であり、わざわざ注意をする

必要でもなかった。要は、その言葉を言わなければいいのだ。


露骨に表情が変わったLに、友人はバツが悪そうに“まぁ、噂だけどな”と言う言葉を

繰り返した後、負け惜しみのように、もし、言ってしまった時は、すぐに両親に助けを求めろと締めくくる。


「いいか、お前、さっきの言葉は“親済”とも読める。つまり、俺達は親の庇護を

眠る時には、離れる事を意味しているんだ。多分、もっと大きくなったら平気だろう。

だけど、今はまだ小さい。だから、気をつけろ」


再びの恐怖演出を再開した友人の言葉を背に、彼は外に出た。



 夜になり、布団に潜ったLは、つい、いつもの習慣で


「おやすみ」


と、自分だけの空間に呟いてしまった。“ハッ”と気づいた時はもう遅い。

友人の話が脳裏に蘇る。彼は、言ってはいけない言葉を口にしてしまったのだ。


数秒間、布団の上で同じ体制のまま固まったが、何も起こらない。


(やっぱり只の噂か)


安心して、布団に寝っ転がった。


「オヤスミ」


耳のすぐ側で聞こえた声に、はね起きた彼が両親の部屋へ駆け込んだのは言うまでもない…(終)

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「親済」 低迷アクション @0516001a

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