scene23: 堕天
たこ焼きの素がなくなった頃、テーブルで向き合っていた二人は同じ側へ並ぶように座り直していた。既にゴールへ到達したコマには追加でピンが二本差さり、手元にはゲーム内で力を合わせて稼ぎ尽くした札束が残されている。
口数は少ない。
目の焦点が合ってない様子の二人は、お互いに寄り添って支え合うようにしてひとかたまりになっていた。
「澪」
「ん……」
「これから、どうするの?」
夕食はとった。あとは――澪は、そこから先を考えないようにしている。
今更離れようにも、このままでは立ち上がれない程に頭が茹だっていた。朱里は優しく抱きとめる姿勢のまま、澪の首筋に顔を伏せた。息を一つ吸う度、澪はくすぐったそうに甘い声をあげる。
「ねえ」
「朱里、ちゃん……?」
「……ごめんね」
口を開いた朱里はそっと舌を伸ばし、きめの細かい首筋に触れる。そのまま時間をかけて焦れったくさせるように舐め上げた。
「ひゃぁ、あぁ……」
力の抜けた声で澪が鳴く。その後、獰猛な息遣いに危険を感じて一瞬だけもがくも、朱里がそのまま逃すはずがなかった。彼女は開いた口から熱い湿り気を漏らすと、唾液に濡れてぬらぬら誘惑する首へそっとかぶりついた。
「んんっ……! はぁ、ん……」
「ぁぁ、美味しい……」
尖った歯がゆるく食い込んでいく。それだけでは物足りないのか、次は肩にも襲いかかる。澪の姿勢が崩れた。
「じゅりちゃん……」
「喋らないで」
「なんでっ」
「澪の声聞いてたら、変になっちゃう」
曖昧な高さの声で朱里が告白する。長く抱き合っていた部分から汗が滲むとほんのりと甘酸っぱい匂いが混ざった。朱里の腕の中、澪は目を閉じたまま心地よい震えに身を任せている。
華奢な肩に幾重もの歯跡が刻まれたあと、二人は額を合わせて本当に近いところで見つめ合う。澪が蕩けた表情で口を開くと、朱里は両肩を抑えて形ばかりの制止をした。
「澪、ダメだって。私たち、"親友"じゃ、なくなっちゃう……」
「もう、我慢、できないよ……」
「澪っ」
魂を抜かれたような澪の視線は、朱里ただ一人に注がれていた。そして、彼女もまた……
「澪、かわいいよ」
「朱里ちゃんも、きれい」
「……こんなこと、勢いでしちゃ、いけないのに」
朱里の腕から力が抜けていく。
「……あのね、朱里ちゃん」
一瞬だけの沈黙。
そして、澪は、目の端に涙を浮かべ――
「大好き……」
――カーペットに押し倒された澪の上で、朱里はその小さな唇を奪っていた。
夢中だった。そっと触れ合うような初々しい時間は僅かと保たず、朱里の舌が白く揃った前歯をなぞり始める。澪はされるがままに顎を開き、口内の柔らかい場所を蹂躙されながら、だらしない涎を接口部から垂れ流しにしていた。
背中に回った腕がきつく締まる。脚が絡まり震える。一時の衝動のまま、がっと熱くなった肢体を強くゆっくり擦り合わせる。
「はぁっ……しちゃった、ね」
「澪のバカ。あんなこと、言われたら……」
「朱里ちゃんのこと、好きすぎて、言っちゃった」
「あーもう……もう一回するよ。足りない」
「うん。私のこと、好きにして」
湯たんぽのように温まった二人はもう一度舌を伸ばす。色恋の快楽に嵌ったいけない顔を見せ合いながら、お互いのことをもっと深くまで知るために身をよじらせた。
未知の感覚に目を閉じる澪。本能の虜となった朱里は、全て任せてくれた彼女の優しさを裏切るように攻めたてる。忠実だったはずの利き手が目の前の少女をひとりでに撫で回す。
「ん……だめ、朱里ちゃん……」
「好きにしてって、言ってたでしょ」
「でも、ちょっと怖いよ。汗もいっぱいかいちゃったし」
身体中から吹き出した汗で二人の背中にはシャツが張り付いていた。しばらくものを考えていた朱里は頭の中で一枚絵を上げると、俯くようにして澪から視線をそらす。
「朱里ちゃん?」
「……澪は、無用心すぎるよ」
目をぱちくりさせる澪。
朱里は、澪の着る青シャツの裾から手をおもむろに滑り込ませ、お腹よりも更に上へとめくってしまった。
「へ……」
「お風呂のこと……忘れようと、してたのに……」
素っ頓狂な声を上げる澪。
一方の朱里の声色には、澪への憎々しさとこれからへの期待がこれでもかと言うほどに込められていた。
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