第4話

 山川たちが帰国してから一週間後、村上と一条、細江会長及び国会議員の竹山、拉致被害者の帰国者で大学講師である荷田、北朝鮮帰還者家族会会長その他在日脱北者等々、特定失踪者問題研究会の主要スタッフが都内の某会議室に集まった。

「では、今回の計画すなわち“プロジェクトⅮ”の総括を始めましょう。計画は取り敢えず、成功したと言っていいでしょう」

 細江会長が口を開いた。

「そうですね。意外だったのは帰還者二世が混じったことですね」

 中国へ出迎えに行った一条が発言をした。

「秋川辰夫のことですか。北で生まれ育ったのに日本語が堪能でしたね。母親が日本語を教え続けていたそうです。それゆえ、“さざなみ”のメッセージが伝わったのでしょう。幸い叔父さんと連絡が取れて迎えに来てくれました」

 帰還者家族会会長が応えた。

 脱北が成功した夜、村上はすぐに研究会に連絡し、その後の措置を取って貰った。

 山川たちは、現在、家族や身元引受人のもとへ身をよせている。

「北は現金万能主義の社会だと聞いていましたが、まさか、これほどとは思いませんでした」

 竹山議員が感想を述べた。

「北内部のコーディネートをしてくれた李永さんのアドバイスが的確でしたね。これまで多くの人々を脱北させ、韓国のNPOの間ではとても信頼されています。そんな李永さんなので北内部の状況を十分に理解していたのです」

 在日脱北者の青年が応じた。

「平壌から延辺まで山川さんたちを運んだトラックは咸鏡北道の第一協同農場のものだそうです。農業が振るわないので現在は所有しているトラックを使って運送業をしているそうです」

 村上が言うと

「李さんは全ての手段を“現地調達”しているそうです。平壌の市場での“営業”も許可を得てしたと言っていました。金さえ払えば全てOKとか。だから、今回の脱北は合法的に行われたといっても過言ではないでしょう」

と一条が応じた。

「だから危険はほとんどなかったと」

「そうですね」

 その場にいた人々は感心した。

「今回の方法は武力を行使して被害者を奪還出来ない現在の日本が取れる最良の手段だと思います」

竹山議員が発言すると

「でも、この方法ではごく一部の被害者しか救出出来ないでしょう。実際、今回帰国した被害者は特定失踪者のみで政府認定の人々はいませんでした。彼らの監視は厳しいのでしょう。また、被害者全てが“さざなみ”を聴取しているとは限らないし……」

と細江会長が応えた。

「政府が金を出すしかないのでしょうね」

家族会会長が発言する。

「今の北ならば金プラス医薬品、食糧、インフラ等々を提案すれば乗って来るのではないのでしょうか」

 村上が付け加える。

「一人につき幾らと設定し、それ相応の現金、物品を払うという形ですね。最初の10人くらいでしたら、それもいいでしょうが、900人近くの被害者全員をこの方法で取り戻すとしたら相当な金額となるので果たして世論が納得するでしょうか」

 一条が応えた。

「今でさえ、拉致被害帰国者に公的支援をすることに批判的な人々がいるのですから」

 荷田講師が言うと

「景気が悪いので不寛容になるのでしょう」

と細江会長がため息交じりに応じた。


 総括終了後、竹山議員は“プロジェクトⅮ”に関するレポートをまとめた。今回の計画に密かに協力してくれた元拉致問題担当大臣・外川サトミと国会内の拉致問題部会に提出するためだ。

 外川元大臣は読んでくれるだろうが部会の人々はどうだろうか。この問題に熱心な人ともかくリベラルを称する人々は部会に席を置いているもののこの問題には関心があるとは言い難かった。

 今回のプロジェクトは成功したが、奪還はやはり日本国としてすべきであろう。そのために自分は議員になったのだから。

 竹山は思いを新たにするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

プロジェクトD~D計画 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ