特別な刑務官の話
穂麦むぎ
廊下にて
天井灯の明かりによって照らされた廊下は設計ミスといえるほどに薄暗い。
静寂の中にカツーン、カツーン、と私たちの足音だけが寂しげに響く。
ただ真っ直ぐと前を向いて歩く先輩は前に私にこう言った。
「お前みたいに巡回できょろきょろしてる奴ってすぐに壊れて辞めちゃうから、やめたくなかったらその癖、直した方がいいよ」
私は、この職場があまり気に入っていないのでこのアドバイスを思い出しても特に思うことはない。
しかし、この職場は謎に給料がいいとか、絶対に囚人が暴れないとか、巡回以外には仕事がないとか。
楽にお金は稼げる。
ただ、お金を楽に稼ぎたい輩にはこの職場は向かないのだが。
ここに来たときは、ひたすらにここが不気味だった。刑務官以外に人はいないし、コンクリートによって外光が完全にふさがれているからだ。
数か月経ってその不気味さには慣れたが、その時には別の不気味さがやってきた。
この薄暗い廊下を私を呼び止める声が聞こえたり、うめく声が聞こえてきたりするようになった。
それに反応して房の中をのぞいてもどの房も空っぽだから不思議である。
いまもその声たちは聞こえ続けているが、無感情に無視できるようになった。空っぽの独房にも人影を感じることができるようになっている。
この職場にも精神科医がついていて、月に1度の問診が全員に課せられている。この問診で私は医師と雑談ばかりしていて楽しくあるが、本当に私は大丈夫なんだろうかと不安になる。
しかし、医師たちも何人もの刑務官を退職させているから私もきっと壊れる前に自由にさせてもらえるだろう。
さて、ぼんやりとしていたらエレベーター前についていた。
「13番の様子はどうだった」
「畳の上で座禅を組んでいるようでした」
「よし」
先輩がいつも行う謎の確認を終えて私たちはエレベーターに乗り込んだ。
特別な刑務官の話 穂麦むぎ @neoti_2020
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