茶色いガマとみたらし団子
また一ヶ月が経ちました。
お日様の力が強くなってきました。暑い夏がやってきたのです。
だらんとお腹を見せてベンチに寝ころがるみけを、池に揺れる茶色いガマの穂が涼しげに笑っていました。みけは張り切って時間よりもだいぶ前に来ていたので、疲れてしまっていました。しろに逢う前に念のためにもう一度と、三毛模様を丁寧に舐めたあとだったので、なおさらです。けれどその甲斐があって毛皮はぴかぴかでした。
ぐるんと逆さまに見える世界の向こうから、しろの影が見えました。
待ち望んだ姿に、みけはぴょこんと飛び起きて、今までのだらけた姿からは想像できないくらいに尻尾をぴんと立てました。
そして、みけは気づきました。
しろの様子が、いつもと違います。
少し、痩せました。夏毛に変わったからでしょうか。
「みけ!」
嬉しそうにしろが走ってきます。けれど、どこか辛そうです。
みけはお菓子の包みを置いて、ベンチから飛び出しました。
「しろ!」
みけは、ぎゅっと、しろを抱きしめました。
ふわふわの毛皮の中身は想像以上に小さくて、みけはびっくりしました。
柔らかくて儚くて、今にも壊れてしまいそうで、みけは怖くなりました。
みけの腕の中で、しろは、ひげをぴんとさせましたが、すぐにお日様のような笑顔になりました。その顔を見て、みけはやっと安心しました。
そして二人は、お菓子の待つベンチに向かいました。
今日は、みたらし団子です。なんだか池の茶色いガマと似ています。
たれをこぼさないように、二人とも注意深く串を口に運びました。
音もなく、頬っぺただけがもごもごと動きます。
喉に串を刺さないよう、緊張しながら団子を歯でしごきます。
二人はずっと黙って食べていたのですが、真剣に食べるお互いの顔がおかしくて、どちらからともなく、くすりと笑いが漏れました。
その途端、みけの毛皮にたれがぽとん。しろの毛皮にたれがぽとり。
「しろ、たれがついたよ」
「みけもよ」
そう言っている間にも、たれは垂れてきます。
ぽとん。
ぽとり。
ぽとん。
ぽとり……。
二人はお互いの姿を見て大笑いです。
それから、やっぱり楽しくお喋りしながら食べることにしました。そのほうが、ずっとおいしいのです。
食べ終わった後、二人はお互いの毛皮を舐めっこして綺麗にしました。しろの毛皮はとても柔らかく、そして、たれの味と薬の匂いがしました。
「本当に美しい三毛模様ね」
みけの毛皮を舐めながら、しろが言いました。
「そして素敵なお日様の匂い」
うっとりと、しろがみけの毛皮に鼻を寄せます。
「今、しろの病気が早く治るように一生懸命お願いしているんだ」
みけは焦っていました。
「だから、もう少しだけ待っていて」
毎日、毎日、丁寧に三毛模様を舐めているのに、しろの病気はちっとも良くならないのです。みけは一生懸命、しろに謝りました。
しろは「みけは何も悪くないわ」と、ぶんぶんと首を横に振ります。
「いつもありがとう。この次は私がお菓子を持ってくるわ」
しろは何故か少しだけ恥ずかしそうに言いました。
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