第39話 13 覚醒者
マルセリーノは、目覚まし時計型タイムマシーンのシェルターの中で解凍したシラスを食べ終わったところである。
暫く氷に抱きついていたが、
「そろそろ出ていかなな、あやちゃんが暇してるやろうしな」
そう言うと、ぺぺは目覚まし時計から外へ出た。
彩香は、時計の針をクルクルと回して遊んでいた。
「あやちゃん、ごめんな、待った?」
「ううん、あやか、時計で遊んでたよ」
(せやな、この子に、シラスや氷、頼まれへんしな、暫く時計は休業やな)
「あやちゃん? 僕がお家の中に入ってる間に誰か来た?」
「だれも来ないよ、ぺぺちゃんが居るもん」
(そうかぁ、ワイも霊媒師かなんかの能力あるんかな?)
この時点で、マルセリーノは大きな勘違いをしている。
マルセリーノという現実の友人ができたからであり、それは彩香の精神が現実世界に戻ろうとしているからであり、このペンギンそっくりのぬいぐるみのような容姿はうってつけであったと言える。
「なぁ、あやちゃん。パパやママの胸の中が分かったみたいに僕の胸の中も分かる?」
「あやか、わからない時もあるよ。でも、いまは分かるよ」
「それ、教えてくれる?」
「うん、ぺぺちゃん、凍ってるお魚さんより、大きなお魚を生で食べたい って思ってた」
「うっ、それ時計の中で僕が思てた事やんな?」
「うん、ぺぺちゃん、胸の中で涎が出てたよ。きたなーい」
「あ、いや、ごめんなさい。で、今は分かる?」
「いまは、わからないよ。だって、おしゃべりしてるもん」
彩香は先程まで回していた時計遊びを終えて、ぺぺを膝の上に乗せてお話をしている。
時々ぺぺの羽をばたつかせてみたり、ふくよかなお腹を指で押してみたり。
ぺペンギンは、彩香のなすがままである。
「あ、いや、あの、あやちゃん? この時計、今何時か分かる?」
「うん、3じ20ぷん、だよ」
「分かるん?」
「だって、ぺぺちゃんが教えてくれたよ」
(そうかぁ、これもワイの考えを読んだ、いうことか。そらぁ両親の胸の声、聞こえてきたら傷つくわな)
この時点で、マルセリーノは大きな勘違いをしている。
両親の心の声が聞こえてきたから傷ついているのではなく、二人が醸し出している違和感そのものに傷ついているのであり、両親の心の声が聞こえてくるのは、あくまでも其の結果である。
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