第40話 14 踵落とし



 マルセリーノは悩んでいる。

この方、宇宙理論物理学以外で悩んだ事がないペンギンが悩んでいる。

それも、彩香の布団の中で、一発の肘打ちと二発の裏拳を入れられながら。

膝蹴りは今のところ無い。


(これって宇宙心理学か宇宙超心理学やろ、他に適任者おるんとちゃうん。)

などと悩んでいる。


(このままやったら、あやちゃん、可哀想やん。変な能力持ってるだけに、めっちゃ可哀想やん)


今のところ、彩香の膝蹴りが炸裂しそうな雰囲気は無い。


(ワイに、どうせえ言うの?)

その時、彩香が寝返りをうった。

ぺペンギンは思わずファイティングポーズを取ったが、彩香は、そのままスヤスヤと寝入ってしまった。


(てか、ワイ、そもそも、あやちゃんの為に此処に来たんちゃうよな?)

寝返りをうって、ぺペンギンの方に向いている彩香の寝顔から寝息が聞こえる。


(そうか! モリコーネのやつが言うとったな。その子を最優先にしたいと考えてるって。ワイは、あやちゃんの為に来たんやないんや! 何を勘違いしとったんやワイは! 答えは其処にあるんやんか。よし、そうと決まったら、タッタリアや、あいつに手伝わそう。明日、普通回線で連絡や。そうや、それに決まりや。)


 その時、彩香の寝顔が微かに笑ったように見えた。

そして、ピクリと彩香の膝が動いたように見えた。ぺペンギンは、すかさずボディーへと両方の翼を下げて身構えたが、膝はぺペンギンを通り過ぎて上方へ向かった。

ぺペンギンが安心して両方の翼のガードを解こうとしたところへ、彩香の踵がぺペンギンの後頭部に炸裂した。


「ぶっ」


 一瞬、ぺペンギンの目玉が3センチほど飛び出たかのように見えた。


「うっ、うう、か、か、踵落としやったのね。あやちゃん、上級の技、使ってくれるね」


 そう言うとぺペンギンは彩香以上に熟睡した。


 いや、気絶した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る