第4話

 翌日はぺペンギン仕掛けと言えばいいのだろうか、

目覚まし時計のお陰?で兎に角、無事に出勤できた。

目覚まし時計の住人?適切なアドバイス?これもまた、そのお陰で今日の仕事はなんとかなった。

心配していたほどのことにも会わず、というか今日、今居る、仕事を目の前にしている自分、その自分を信用して頑張ったらなんとかなった。

勿論、上から叩いてくる奴、下から足を引っ張ろうとする奴、以前から結構な人数でいたが、今回は徹底的に無視して自分のやるべきことだけを考えて仕事をした。

それが正解なのかどうかは分からないし、次もうまくいくとは限らない。

ゆっくりと慌てずに、心配せずに、自分らしくやっていこうと思った。


 私は仕事が終わると、忘れずにスーパーマーケットに寄ってシラスの入った発泡スチロールで出来たトレイ一皿と、自分の為のワンコイン弁当を買って帰った。

部屋に戻って灯をつけ、目覚まし時計を見やると静かに時を告げていた。

早速、シラスと氷を置いた。

目覚まし時計の上にある上を向いた鐘ではなく金色のお椀の中へ。


 お弁当と一緒に買おうと思っていたお茶を忘れたので、お湯を沸かしに台所へと行った。

小さなお皿に数日前のティーパックがある。

紅茶のパックは3回使える。

一回目は3秒だけお湯につける

。其れでも紅茶の良い香りと味がする。

2回目は10秒間つける。

香りは無くなっているが紅茶の味が確かにする。

3回目は1分以上お湯につける。

殆ど苦いだけになるが、私は此の味をコクと呼んでいる。

4回目、此れは何処かの国の変な飲み物のように変わっている。

紅茶の色は出ているが香りも苦味もない。

でも白湯ではない。

今回は最後になる3回目なので1分以上お湯に浸からせなければならない。


 1分。


 待っていると結構長い。

すると、何だか煙草の匂いがしてきた。

振り返ると目覚まし時計の横でペンギンらしき生き物のぺペンギンが、翼の先っちょに火のついた楊枝らしきものを器用に掴んで嘴から煙を吐いている。


「あのー、昨日、言いそびれたんですけど此の部屋、禁煙なんです」


「あっそ、こんなちっちゃいタバコの煙でも気になるん?お前ちっちゃい奴やなぁ」


「申し訳ないんですけど、煙草を吸わない人間にとっては、ほんの少しの煙でも気になるものですよ」


「あっそ、食後の一服くらいさせてーや。今度から窓の外で吹かすし」


 ペンギンが窓の外で煙草を吸っている姿など誰にも見られたくはない。


「だからと言って其れも困ります」


 私の気持ちを察してか、


「安心し、誰にも見つからへんようにするさかい」


 決して安心などできるはずもないが、私はぺペンギンに語りかけた。


「今日は無事に仕事を終えられました」


「あっそ」


「今日の自分を信じて良かったと思います」


「あっそ」


「兎に角、周りを気にせずに目の前にあることを成し遂げることに専念しました」


「あっそ」


「兎に角、自分らしく生きていこうと思いました」


「あっそ」


「・・・・・・・・。」


「何んか?」


「・・・・・・・・。」


「何んか言いたいことでもあるん?」


「じゃ、言ってもいいですか?」


「ええよ」


「どうして、あっそ、しか言ってくれないんですか?」


「あのな、ほんなら言うで、先ずはなぁ、お礼言わなあかんのちゃうん? 頭ごなしに自信満々の顔で、自分らしく生きていきます! とか言われても、はあ? 何それ? ってな、アドバイス与えたった方は聞く気せえへんやん。お前マジ頭悪いなぁ」


「あっ、済みません。昨日はアドバイスを有り難うございました」


「せやな、話はそっからやんな」


「はい」


「ほんで、お前、自分らしく、とか言うとったな」


「はい」


「それでええと思ってるん?」


「はい!」


「お前、やっぱりアホやな」


「はい?」


「お前一人で仕事してるつもりなん? 其の若さで部下が居てるとは思わへんけどやぁ、上司は居てるやろ? お前は其の組織の人間やねんで。自分らしく生きるのは構わへんねんで、せやけど其れって出世するのはやめました、言うてんのと同じやねんで。上手いこと仕事やっていこう思たら相手は何を望んでるんか、認められたいとか出世したいとか思うんやったら上司がやって欲しいと思ってる事は何んなんか、そんなこと考えながら仕事せなあかんのちゃう?」


「はい」


「何をいっちょ前に、自分らしく! とか言うてんねん。それ全然笑われへんギャグやん」


「はい」


「ほんまに自分らしくって思うんやったら、独立できるくらいの実力つけてから言うたらんかい、この脳足りんが!」


「はい」


「何んかお前、泣きそうになってへん?」


「・・・・・・・・。」


「きついこと言うたみたいやけど、ええか、自分らしくって言うのはな、表現なんや。自分はこんな人なんです!っていう表現なんや。其れはな、個性っていう芸術なんや。見せびらかすようなもんやないねん、大切にしたらなあかんもんやねん」


「はい」


「分かったんやったら、もうええよ」


「はい」


「お弁当食べや」


「はい」


「お茶、冷えるで」


「はい」


「・・・・・・・・。」


「いただきます・・・。」

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