最終話

 愛沢広は、空を飛べない。飛ぶといっても、それは落下という意味での飛ぶだった。


 それに対して彩芽小は、空を飛べる。マッハの速度で悠々と飛行することが出来る。


 しかし、彼は飛行することをしなかった。では何をしたのか。


 彩芽小は、落下という意味で空を飛んだのだった。


 耳元で大気を裂く音を聞きながら、二人はビルの屋上から落下する。


 「やぁ元完全無欠のヒーロー。空でも会うなんて、これは運命だろうか」


 「やぁ僕だけを救ったヒーロー。君はどうして今、空を飛んでいるんだ?」


 「ヒーローは空を飛んでこそだろ。君こそどうして空を飛んでいるだい?」


 「自殺をしているんだ」


 「ハハハッ、それはそれは良いことだ!自分の命と向き合うというのは、最高に価値あることだ。よければ手伝ってあげようか?一人では寂しいだろう」


 「自殺幇助は犯罪だが、いいのかい?」


 「構わないよ。ヒーローに法律なんて関係ない。助けたいと思えば助ける、それだけだ」


 「そうか、ありがとう」


  怪獣は街を蹂躙し、駆け付けたヒーロー達は勇敢にも悪の組織に立ち向かっている。しかし、その戦闘音など聞こえない。彼らはもう、二人だけの世界へと入り込んでいた。


 もし、彩芽と愛沢が落ちていたビルの高さが、天涯の向こう側まであったなら、彼らは落下の間、ずっと話しあっていただろう。


 しかし、救ったことしかなかった少年ヒーローと、誰も救えなかったヒーロー未満の少女。


 否。


 誰かを救うことを辞めた少年ヒーローと、そんな彼の心を救ったヒーロー少女は、もうすぐ世界から消えることとなる。


 「いや、礼なんて結構さ。それより、遅れてすまなかった」


 「謝罪なんて結構だよ――


 ――ヒーローは、遅れてやってくるものだ」

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やぁヒーロー。 ナガイエイト @eight__1210

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