犬と猿と確かな差
そこからは私の部屋になる予定の物置部屋を片付けたり。昼飯を食べたりと。色々あって。
午後からは剣術の練習だと私たちは外に出る。どうな事を習えるのかと外へ赴いたわけなのだが。
「「アリューミア!何で剣の練習がコイツと一緒なんだよ!!」」
鏡のように互いに指差し。そいつと声がハモった。
「おお。お前ら案外息ぴったりじゃないか」
「「どこがだよ!!」」
木剣片手に感心するアリューミアに、またしてもツッコミが重なった。剣術を教わるため出向いた家の庭。なぜかそこにはレオン・エマンティットが彼女と待っていたのだ。楽しそうに話していた時に来た私の顔を見た彼の驚きようときたら本当に失礼極まりない。
まあ、そのあと睨んできたので、負けじと睨み返してやったのだが。
「まあなんだ。一人に教えるのも二人に教えるのも一緒だし。レオンも同じくらいの練習相手が増えていいだろ。ここは一つ兄としてさ」
その言葉に体は即座に鳥肌という拒否反応を示し、私はアリューミアに抗議する。
「こんな奴が兄とかそんなのごめんだ!」
「何だと!? そんなこと言ったら俺だってお前みたいなへなちょこ貧弱な人族の兄とか嫌だね!」
「お前らほんと仲悪いな……」
これはそう、犬猿の仲という奴なのだ。だから仕方ないのである。
「まあ、もう私が決めたことだ。嫌なら帰った帰った」
「そうだ!帰った!帰った!」
「いやホムラ。お前もだからな?」
なぜか同調したらツッコミを入れられ、納得がいかない。
「ぐぬぬ……」
私の悔しそうな声が虚しく響く中。剣術の練習は始まる。
ちなみに、ミーリアは何をしているかというと。庭のベンチでニコニコとちょっとの傷なら任せとけと言わんばかりに杖を片手に座っている。
この練習。相当スパルタなのか。
最初は体力作りの為ひ家の周りを軽いランニング。
「ゼェ……… ゼェ……」
とはいえ。普段走っていない子供の体に入った三十五歳の男に軽いと言われても走るのは辛く。私は息も絶え絶えに走っている。
「ふっ……」
もう何回抜かされたは覚えていないが、レオンが私とのすれ違いざま余裕の表情で私を嘲笑い、去っていく。
(あの野郎ゥ!)
「いっ!?」
「うおおおおおおお!」
最後の力を振り絞っての全力疾走に、レオンは驚き後ろから抜き去る私を眺めているだけ。この時はどうだ参ったかと思っていたが。こんな無謀な走りをしては体力が持つわけもなく。結果はご想像の通りであろう。地面に倒れ伏し、力尽きて途中棄権のノックアウト。
「ホムラちゃん。あんまり無理しちゃダメだよ」
「むぐぐ……」
こうして。私の剣術練習。初日の後半は不本意ながらミーリアの隣で見学となった。
いま庭の中央ではアリューミアとレオンが木剣を持って打ち合いを繰り広げている。
「このッ!」
「ほら。どうしたどうした」
レオンが一歩、強く前に踏み込みジャンプしての一撃を縦に横にと打ち込み。打ち込み。打ち込む。
しかしそれらをアリューミアに動くことなく軽くいなされ、彼は遊ばれている。
全くもっていい気味だ
「ウラッ!!」
地面を抉り蹴り。弾丸のようにレオンはアリューミアへと飛び、突き進む。右から横薙ぎに振われた一撃をしかし彼女は木剣を下に構え、今度はいなすことなく。木剣を縦に構えて受け止め、上へ振り払う。
木剣同士の衝突の瞬間。それにより今までで一番大きな衝突音が辺りに響き渡り。その衝突と抵抗に、踏ん張りの効かないレオンが押し戻され、元いた場所に着地してもそのまま後方に滑っていく。
止まったかからと言って焦ることはせず、右足を後ろに。右手に持った木剣を後ろ手に構え、アリューミアを鋭く見据え、決して本気を出してはくれない彼女に甘え、次の動作への体勢を整える。
「レオンくん身体強化を使ったね」
「身体強化ですか?」
私の質問に、ミーリアは完璧にレオンの動きを視線で追いながら口を開く。
「うん。まあ、読んで字の通りなんだけど。魔法を使ってのドーピング。普通では出せない力を出したり。何もしていなければ体が持たないような動きを可能にする魔法ね」
だからレオンは私の目では追いきれない速度で移動できるし。子供とは思えない一撃を放てるということか。
弾丸みたいな素早い動き。私にもできるだろうか。そんなことを考えていると、ミーリアは声を上げ。そこでようやく二人から目を離し、私の顔を見て補足する。
「でもレオンくんの場合。私たち半獣人としての筋力とかアドバンテージを活かしてやってることだから。まだ筋力が付いていないうちに真似しようとしちゃダメなんだからね」
たぶん、いや、今の私では真似しようと思っても完璧にはできないなだろう。よくてマネごと。魔法の失敗はどういう結果をもたらすかは説明されし、身体強化は今後の課題として最初の目標にしようと心に決めて。ただ、今は二人の動きを見て少しでも吸収できるものは吸収する。
「よし。そこまで」
「はぁ、はぁ……。ありがとうございました……」
結局レオンはアリューミアを一歩たりとも動かすことができずに息が上がり、傷だらけ。膝に手をつき前屈みになって。悔しそうに奥歯を噛み締めている。
「ホムラちゃん。どうしたの?」
「ちょっとあいつを揶揄いに」
私はベンチから勢いよく立ち上がると。ベンチの隅に置いてあったそれを持って庭の中央に駆けていく。
「おつかれ」
「……なんだよ。笑いに来たのか?」
ほんの気まぐれだった。汗がきもち悪いだろうなと気遣いでタオルを手渡そうとした私をレオンが鋭く睨む。
人の親切を素直に受け取れないのかこのガキは。
「お前を笑えるほどまだ練習してないし。素直に受け取れ、バカ!」
「今バカって言ったな!」
「煽り耐性なさすぎかよ!そんなだからバカにされるんだよバカ!」
そっからはバカバカバカと面と向かっての罵り合い。
「グルル……」
「ウウゥ……」
「やめろ」
「「痛っ!?」」
鉄拳制裁。喧嘩両成敗とばかりに振り下ろされたアリューミアの拳の一撃に、唸りあっていた私たち二人は頭を押さえて、先程とはまた違った意味で悶え苦しみ。唸り声を上げる。
「ほらほら。二人とも頑張れー。痛いの痛いの飛んでけーの『ヒール』」
ミーリアが杖を振るうと、私とレオンは光に包まれ痛みが消えた。別に治療魔法を使うほどではない気もするのだが、彼女は「おまじない。おまじない」と笑っている。
素振りに筋トレと基礎トレーニング等々、中心に行い。
「はっ!!」
アリューミアが家から持ち出した真剣を無駄のない動きで上段に構え、切っ尖で弧を描くように縦に振われ抵抗なく岩を真っ二つに両断して見せる。何をどうやったら剣で岩を切れるのか。
「ああ。身体中が痛い」
運動した当日に筋肉痛に襲われたのは何年ぶりだろうか。剣術の練習はレオンが午後の畑仕事を手伝うということでお開きとなり、そこからは物置部屋、もとい私の部屋になる予定の部屋を掃除して、家具は全くないけれど、ベッドだけ設置した。
空も暗くなり、寝ていた私はトイレに行きたくなって部屋を出る。家には月明かり以外の光はなく。静まり返っていて、もう二人も寝てしまったのだろう。
「あれ?」
そう思ってアリューミアたちの寝室の前を通りかかると、扉が完全には閉まっておらず、中から光が漏れている。まだ起きていたのだろう。
「……が起きちゃうよ」
「……丈夫だ。……は確認……た」
部屋から声が漏れ聞こえてくる。
正直、その時に思いとどまっていればよかったのだ。好奇心は猫をも殺すというし、死にはしなくてもやめておけば良かったのだ。
音を立てぬようにそっと近づいて、取っ手を掴み片目で覗く。
「んっ……。はぁ……。アリューミアぁ……」
「はぁ……。覚えてろって言ったろ」
二人が服も着ずに絡み合っている。布団はグチャグチャに置かれ、服や下着は無造作に辺りに散らばっていた。
ミーリアにアリューミアが覆い被さって、荒い息をしながら見つめ合っている。
空いた隙間から見るその光景から目を離すことができず、息を呑む。
しばらくして我に帰った時は子供の体良かったと『そういうご関係だったんですね』と心底思った瞬間だった。
咎血と焔はきょうも笑う〜空の使いと異世界幻想〜 猫乃おこげ @Neko_pepper
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