魔法と失敗がもたらす結果


 そんなこんなで、無事?朝食を作れ終えた私たちは三人そろって食卓を囲んでいる。


「えー。ホムラちゃんアリューミアの事は普通に読んでだの!?いいなぁ」


 千切ったパンを口に運び。きちっと飲み込んでから、彼女は言う。


「ねえ、ホムラちゃん!私は?ほら、ミーリアって!」


「うっ。ミーリア……さん」


「惜しい!でもほとんど言ったようなものだっからオッケーよ」


 ミーリアが右腕を右上から左下へと振り下ろし、悔しそうにしたのは一瞬で「ホムラちゃんが私の名前を普通に呼んでくれた!やったー」とすぐに、パンを持っているのもお構いなし。両手を上げ喜んでくれる。


「ミーリア。行儀が悪いぞ……」


「あっ。ごめんアリューミア。うれしくてつい」


 アリューミアは礼儀にちょっとうるさい。苦笑いする彼女の細めた視線に射抜かれたミーリアは獣の耳をペタリと伏せて、身を縮こめ彼女に謝る。

 こうして、家族の食事は進む。


「そう言えば。ホムラ、その服どこから見つけた?」


「え?ああ。すみません。昨日夕食の時にアリューミア……。とミーリア……。が話してるのを聞いて、勝手に探して着替えてしまいました」


 ニコニコ笑顔のミーリア。尻尾フリフリミーリア。そんな彼女をよそに、アリューミアは頷いた。


「なるほどな。でもよくそれだけでわかったな」


「はい。あちこち探しました」


「別にわからなかったら私たちを起こしても良かったんだぞ?」


 確かに聞くのが一番早いのはわかっていた。ただ起こすのが申し訳なくて、それは最後の手段としていただけ。


「ただまあ。そのショートパンツ。気に入ったようで何よりだ。ホムラは女の子だし、スカートがいいとは思ったんだけどな。私みたいに苦手だった時の為に一枚ぐらいは、と思って買っておいて正解だった」


 まさしく正解。アリューミア自身、スカートは履いておらずズボンを履いており。男勝りな性格からかスカートは苦手な彼女。その判断私は感謝するばかりだ。


「ええー。ホムラは絶対スカートの方がいいって」


「いえ。スカートは恥ずかしいので、私はズボンでお願いします」


「だよな。あんなフリフリでスースーするもんの何処がいいのか私もいまだに分からん」


 意気投合する私とアリューミアを見て、ミーリアはハリセンボンみたく膨れっ面となり、半目の鋭い目つきでアリューミアを射抜く。


「コホンッ……」


 これはまずいと思ったのか。アリューミアは握り拳を口元に近づけ目を閉じ、咳払いを一つ。どうやら話題を切り替えるつもりらしい。


「あー、うん。そう言えばホムラ。魔法とか剣術の練習。してみる気はあるか?」


「ッ!?魔法!!」


 魔法。その言葉に私はテーブルに両手をつき、身を乗り出し立ち上がる。

 漫画やアニメ。小説などに登場する炎を生み出し、風を操りと何でもできる神秘の力。それがこの世界にはある事は、二人と最初に出会い。傷を治してもらった時からわかっていたし。興味がないわけがない。

 そして剣術。剣と言えば男が一度は憧れる武器の一つ。魔物という脅威がいる以上、習って損はないしそれを使って戦えるのならと、私には憧れない理由がない。


「ふふーん。ホムラちゃんは剣術より魔法の方が興味あるみたいだよ」


 確かに、魔法か剣術かと言われれば魔法の方が興味があった。


「ミーリア……。覚えてろよ」


「うぇっ!?」


 両手を腰に当て、えっへんと目を閉じ踏ん反り返るミーリアは、アリューミアが頬杖付きながら発した言葉になぜか急に立ち上がり。狼狽し、アリューミアからなぜか一歩遠ざかる。

 その顔はどこかほんのりと赤いようで。焦っているようで。


「まあ、魔法はミーリアのが得意なのは事実だし。魔法と剣術の鍛錬をするのは決まりだな」


「ありがとうございます!」


 これで私も小さな頃に憧れた漫画で見た魔術師。アニメで見た魔法使いになれる。小さい頃といっても体が縮んでましまったので今でも子供なのだが、その感情はとても言葉には言い表せない物。


「そんなに喜んでもらえるとその感情のほとんどが魔法へ向けられたものだとしても私も教え甲斐があるってもんだ」


 アリューミアは口角を上げて、私を見ながらニコリと笑う。


「ただな。ホムラ」


「?下?」


 笑顔のまま。無言のまま。アリューミアは下を指差し、我に返った私も、それにつられて視線が下に動く。己がどのような体勢であるのかを自覚し、ハッと彼女を見る。

 彼女はやはり笑っていた。そして何が言いたいかを理解した。


「椅子の上に立つんじゃない」


「はい。すみません!!」


 その場の空気と、アリューミアの表情が噛み合っていない。これはやばいと、私はすぐさま椅子に両足を揃え背筋を伸ばし座り直す。


「そ、それじゃあ。私は作るの手伝えなかった分。片付けやっとくね〜……」


「ああ。よろしく」


 食器を持ってキッチンへ歩くミーリアに、アリューミアは手を振り頭のスイッチを切り替える。


「さっき言った通り。魔法に関しちゃミーリアのが得意なんだが。私も使えないわけじゃないから、基礎の基礎は教えられる」


 腕を組み。言う。


「さて、ホムラ。魔法って何だと思う?」


 魔法とは何か。

 その問いに、私は若干悩み言葉をまとめて声にする。


「何かと言われれば難しいですが。人にはできない事を可能にする不思議な力……でしょうか?」


「ほほう。例えば?」


「例えば私が初めてアリューミアとミーリアに出会った時。ミーリアは私の傷を治してくれた。あんな事は人の身では不可能ですし。指先から炎を。羽根のない身で空を飛んだといった不可能を可能にする不思議な力かと」


「まあ、大体は合っている。対価さえ払えば不可能が可能になる火をつけ事も--」


 そう言ってアリューミアが腕を崩し、右腕の肘を上げ人差し指を軽く宙に立てる。その指先に小さなライターを使用した程度の火が灯り。


「水だって操れる」


 輝く灯火はたちまち水の玉に覆われて、綺麗さっぱり消えてしまう。


「そしてこの、いま実演した火をつけるという行為にも方法は二つ存在する。一つは十の炎を生み出す為に十の魔力を対価とするもの。二つ目は十の炎を生み出す為に複合的な要素を足して結果を出す方法」


「例えば燃料。火種。風を合わせて十の炎になるよう調整すれば、一つ目と遜色ない結果が生まれる」


 たしか小学生の時に理科や教科書で見たような火の燃焼。可燃物。酸素。熱を魔力を使って行っているという事だろうか。


「この二つは同じ結果を生むとは言ったが、一つ。大きな違いとして“世界の承認”または“妖精の許諾”とも言われる魔法の暴走現象がある。自然の摂理に従って行使する魔法と違って一つ目の工程をすっ飛ばして火を直接生み出す魔法は、魔力の消費量も多い上に世界や精霊に拒否される場合がある」


 その場合に起きるのは魔法の失敗。魔法の不発であるとアリューミアは言った。しかし彼女は続けて失敗しただけならまだいい方だと言うのだ。

 それは“そこまでいうのなら叶えてやろう”と言う世界の答え。精霊の嘲笑。悪戯。

 寒さに凍え、ただただ火を欲した者はしかし魔力が足りず。自身ねんりょうは近くにあったので、世界は火種と風を生み出し燃料じしんを燃やして魔法けっかを示し。

 何もない砂漠で喉が渇き。水を欲した者には、妖精たちが近くにあった水分を保有するものから素材みずを取り出し。それによってより多くの水を生み出し、しかし水と素材は地に帰る。


「本来はほぼ起こり得ない。知識のない者が実力以上の物を欲した事による末路。魔法の暴走は術者のイメージや知識の欠如によって起こると言われている」


 火ならば、何を可燃物とするか。何を着火の熱とするか。酸素をどうするかなどをある程度設定し。初めて魔法として行使できるということか。


「ちょっとアリューミア。あんまりホムラちゃんを怖がらせちゃダメだよ」


 洗い物が終わったのか、タオルを片手にリビングへとやってきたミーリアに注意されて、アリューミアまずいと我に帰ったのだろう。「あ、いや。そんなつもりじゃ」と隣に立つ彼女と前に座る私を交互に見るて慌てだす。


「ともかく。何が言いたいかというと、魔法を練習する上でまず必要なのは知識。つまりは勉強だ」


 それを聞いた私の表情は、嫌そうな、苦虫を噛み締めた顔になっていることだろう。

 座学は大抵な人は嫌いなものだと思うのである。


「ふふーん。任せてよホムラちゃん。私の部屋にはいっぱい魔導書があるから。教材には困らないよ!」


 慎ましやかな胸にドンと腕を当て。ミーリアは自信満々に胸を張る。


「わー。タノモシイナー」


「あんまり嬉しそうじゃない!?」


 私の驚くミーリア。張り切る彼女には申し訳ないが。苦手なものは苦手なので、どうか許してもらいたい。

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