ぬるい夏の夜、ホログラムの影

デッドコピーたこはち

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 通りを歩く。頭上、雑居ビルの間隙からこぼれてくるアド・ホロの光。清涼飲料水とセクサロイド、二つの広告が、ほとんど人の居ない通りに、青とピンクの陰影を作り出す。どこからか、真夜中のぬるい風が吹いてくる。捨てられたポリ袋がガサガサと音を立てて飛ぶ。昼間の殺人的日射の熱が、まだ都市に残っている。風に運ばれて、人の話し声が聞こえる。聞き取れない。

 履き古して薄くなった靴底から、荒れたアスファルトの凹凸が伝わる。ビルの高い壁に挟まれたこの通りは、足音が良く響く。前から、酔っぱらったサラリーマンの一団が近づいてくる。壁際に寄って避ける。バーコード頭のサラリーマンが何かを言ってくる。聞き取れない。

 サラリーマンの一団が遠くに去ったあとも、足音はひとつにならない。追いかけてくる何者かがいる。腰のベルトと腹の間、インサイドホルスターに収めた拳銃の重みを意識する。スフェリコン・アームズの9ミリ。

 汗が手のひらににじむ。意を決して、路地裏に飛び込む。

 室外機の熱風。湿気。空気がよどんでいる。薄汚れた白い壁に張り付く枯れたツタ。段ボールの影に座っていた黒猫が、走って逃げ出す。室外機の駆動音に交じって、走る足音が聞こえる。9ミリを抜き、安全装置を外す。スライドをすこし引く。弾は入っている。振り返って、室外機を盾にし、路地の入り口に銃を向ける。

 大男が路地の入り口に現れた。目が合った瞬間、迷わず銃を向けてくる。だが、待ち構えていた分、こちらの方が速い。

 破裂音。男の額に穴が開く。血しぶきが白い壁に飛び散る。男の身体が力を失って、後ろに倒れこむ。肉がアスファルトにぶつかる鈍い音。男の頭だけが路地裏から通りへと飛び出す。ホログラムの光が、死顔を青とピンクに彩る。

 もう、他に足音は聞こえない。心臓が早鐘のように打っている。深呼吸する。すこし、マシになる。清廉潔白とは言えないこの身。命を狙われる心当たりは山ほどある。今日の幸運に感謝する。

 一旦銃をしまう。また、歩き出す。街を出るために。

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