第13話 夢の中
夢を見ていた。
あの日、月明かりも感じない暗闇の夜の夢。
力を暴走させ、気を失っていたが、目を覚ますと龍牙に抱きかかえられていた。
「どうして、泣いているの?」
周りの状況が見えてくる。火の粉が舞い、真っ黒に焦げたそれは人の形をしていた。
何人も。何人も。
「私がやったの…?」
「すまない。俺は、弱い。」
どうしてそんなことを言うのだろう。たぶん、私を止めてくれたのは龍牙だ。
ああ。そうか。
龍牙は軍の人間だ。誰よりも天空島の人を守りたいはずだ。
それを、私は…。
私は、龍牙の敵なんだ。
混乱しながらも、そう、結論付けた。
「いいよ、貴方になら。殺されても。」
龍牙の手を、自らの首に導く。
あーあ。久しぶりに龍牙に会ったのに。
もっと話したかったし、また力の練習に付き合って欲しかった。
少なくとも、こんな訳がわからない状況で死にたくはなかった。
…それは、私が殺してしまった人たちも同じはすで。
「俺が、おまえを殺せるわけないだろう!」
覚悟して目を瞑ったが、思いがけず唇に熱を感じた。
初めてのキスは涙の味がして。昔の泣き虫だった龍牙を思い出させた。
目を開けたとき、もう龍牙は泣いていなかった。燃えるような瞳で、私を見つめる。
「龍牙様!」
軍の人間だろうか。数名の兵士が駆けつける。
「下がれ。」
低い声で命令され、兵士たちの動きが止まる。
「大量虐殺の罪で、この者を地上送りとする。」
「しかし、牙楽(がらく)様の指示を待たずともよいのですか!」
「今またこの者が暴走したら、我が軍も全滅するかもしれん。指示を待っている時間はない。」
そう言われて、意見してきた若者は一歩後退る。
「烈火、これを肌身離さず身につけておいてくれ。」
そう囁いて、私の懐に、何かを滑り込ませた。そして、素早く、抱きしめるように、背後に回り込んだ。
「俺の腕を噛んでもいい。…折る。」
言うや否や、背中に激痛が走った。
そのまま、龍牙に抱えられながら、空を舞う。高く。
「ここから先は、俺は着いていけない領域だ。大丈夫。それがあれば地上に叩きつけられて死ぬことはない。」
お互いの身体が離れる。
私は地上へ。龍牙は天空へ。
翼があるものは天空島、ないものは地上へ誘われるという狭間の空間。
「守ってやれなくて、すまない。」
そんは懺悔の声が聞きたいわけではなかった。
しかし、繋いだ手はもうすぐ離れる。
好きだった。たぶん、ずっと。でも、もう、伝える資格すらない。
唇を噛んで、無理やり笑顔を作る。
「龍牙は今も昔も、いつも守ってくれてた。…守れなかったのは私の方。」
ごめんなさい。さよなら。
最後の声は届いたのか分からない。
身体が地上へと落ちていき、涙だけが、愛しい人を追いかけるように天に舞い上がっていった。
uranos nisi 0 @51998163
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