第10話 無才能の自覚

俺は勇者の家系、グランス家に産まれた十六人兄弟の末っ子だった。

兄達は皆、幼少期から余計な事を思考せず、そして何か強かった動きばかりしていた。

目で追い掛ける事も出来なければ、身体なんて追い付くはずもなく、ただ呆然と何か凄いと、眺める事しか出来ないまま歳を重ねて行ってしまったのだ。

家族は皆才能の無かった自分に優しく、それが負い目となっていった。

それからも兄達を観察しては記録しようと努力をしたが、俺には『何か凄い』という抽象的な事しか分からなくて、自分がどんどん嫌になっていった。

そうして俺は、勇者としての引け目を足に引摺りながら、黙って家を出てしまったのだった。




そこからの俺は滑稽極まり無かったと、自分でも理解している。

安全な歩道に放置されているような魔物にですら、取り敢えず勝つ事も叶わない日々が続いていた。

一人で延々スライムを殴ろうとして、その途端に1000文字を超えて教会に戻される、そんな日々を怠惰に続けていたのだ。

だが、そこで、声を掛けられたのだ。


『あなた誰?随分ここでスライムに苦戦してるみたい』


面白がるような顔で、呆れたような声で、俺の顔を下から覗いて来た小さな魔法使いに。

腰まで伸ばされた深紅の髪は、太陽に反射してとても綺麗な色をしていて、俺は何だか一目で見惚れてしまっていたのを今でも覚えている。


『ふふっ、弱そっ』


だが、この言葉で恋の気持ちが一瞬で凍え去り、怒りが込み上げたのも良く覚えていた。

初対面の男に失礼な女だなと、俺は弱いながらに説教を垂れ始め、そしてその間に二人で教会に戻されたのもしっかりと覚えている。

それが、才能という重荷に耐えきれずに家出をしたナーナとの出会いだった。




それからナーナとは、ほぼ全てのクエストを共にクリアしていった。

ゴブリンやミミック、ゴーレム、それから幼竜に至るまで、実は意外とクリアしているのである。

試行回数にして大体百回、しかしそれに毎回しょうがないと言いながら付き合ってくれるナーナには、しっかりと感謝をしなければならない。

そう思いながら隣で水を飲むナーナを見やると、ナーナもこちらを見詰めていた。


「ん?どうしたナーナ」

「ん、私って偉いなって。水で済ませる女、中々いないでしょ」


俺はナーナを見詰めながら申し訳ない気持ちになって、頬を掻くしかなかった。


「……ありがとな、ナーナ」

「っ!?」


何故か慌ててそっぽを向いたナーナの耳先は、赤くなっていた。

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そうだ、魔物討伐に行こう【制約:1000文字以内】 福葉内 @hukuhauthi

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