第2話「私、女が好きだ」
「ああ、彼女欲しい」
私は白川マミは百合である。女の子が好き。それは物心ついた時からそうだった。それが世のタブーであり、誰にも知られてはならない事なんだということを幼い頃から感じていて、誰にも打ち明けたことはない。
しかし誰かと一緒になりたい、あわよくば恋人的な事をしたいという欲求は日増しになっていく。それは思春期真っ只中、高校生の自分には耐え難い事だった。
昼休憩、普段いる面子との食事を早めに切り上げて中庭のベンチへ腰掛ける。曰く付き…というわけでもないのだが、なぜだかいつもこの時間の中庭は人気がない
ガサッ。音がして、反射的に振り返る。背後の植え込みから男子生徒が現れた。しかも知ってる顔じゃないか
「…」
「…」
沈黙が流れる。
私は内心焦っていた。聞かれたか?私の呟きが、この男には聞こえていただろうか?やばいかもしれない。レズである事がバレたかも。バレたらなにがやばい?そりゃ学校で噂が広まって居づらくなるだろう、いやそれ以上に、今ある交友関係が崩れ去ってしまうかもしれない。いや、今ならまだ彼氏と彼女を言い間違えたと言い訳が出来るかもしれない。あるいは、脅すなりなんなりして回避できるかもしれない
身構えているとそいつ、槙島キミヒトは、にっと笑って言う。
「俺と付き合ってくれ」
「…は?」
「あ、勘違いするなよ、お前の事は好きでもなんでもない。だが、共同戦線を張る価値を見出したのだ!」
「えーっと」
「概説する!聞いてくれ!」
うんともすんとも言う前にキミヒトはガサゴソと茂みから出てきて落ち葉は払う
「人間は学生のうちの交友関係でその後結婚出来るかどうかが決まる」
「しかし学生時代に異性との交流が無かった奴は一生独身でいる可能性は極めて高い!」
「ここでおまえと友達になる事で俺はおまえという協力者を得ることになる、それはつまり、気になる異性と近づくチャンスが格段に増えると言う事だ!」
「ちょっと待って」
一方的な捲し立てに、思わず口を出す。
「それあんたにしかメリットなくない?」
私は恋人探しのダシにされるのか、そんなのごめんだ。
「ところがどっこい」
キミヒトは芝居がかった動作でにじり寄ると小声で囁く。
「俺の友人にはユウセイがいる」
「…ああ、あの有名な」
女の子達の間でイケメンだと専ら噂のユウセイ君。だが、それがどうした。
「俺とユウセイ、おまえが仲良くつるんでみろ?ユウセイに気がある女は確実におまえを窓口に関係を持とうとしてくるだろう」
「まぁ、想像は出来るけど」
「そこで快く紹介した上で、俺とおまえで恋愛相談なんかして、ユウセイへのアプローチのために計画を練っちゃったり、プレゼントを買うのに付き添ってあげちゃったりして…振られたら傷心のその子を口説き落とすってわけだ」
「最低だな」
「完璧な作戦だろ?」
いっそ清々しい笑顔だが嫌悪感がいや増した。元より男は嫌いだがこの男は並の3倍は嫌いだ。殴った手が汚れるから殴らないだけで脳内でこいつの顔面はボコボコに凹んでいる。
「大丈夫、絶対に幸せにするから!」
「しんでもごめんだね」
突き出された手を乱暴に振り払い踵を返す。折角の昼休憩の時間を無駄にした。ため息をついて教室に戻る。そして、なにを見るともなしに窓の方を見る
謳歌サクラと目が合うーー
パッと視線を外し、何気なさを装って次の授業の準備をするふりをする。
目があった。あっちゃった。今日も黒髪ロングの髪が最高に美しい。華奢な身体と綺麗な声。ああ、目は合わせられないけれど、耳はずっとその声を捉え続けているよ
「えー?サクラってば、ユウセイ君の事が好きなのー?」
「ばかっ、声が大きいってば!別に好きとかじゃなくて、気になってるだけで…」
「ふーん?」
クラスメイトとの談笑が聞こえて来る。ほう、そうか、サクラはユウセイが好きなのか
放課後、別クラスへ赴く。キミヒトのクラスだ。見ると、当の男は机に突っ伏して鞄を枕に寝ていた。
「おい」
「おわぁっ!?」
ガン、と椅子を蹴飛ばす。飛び起きたキミヒトは、私の存在を認めるとやや顔を顰めた。
「なんだよ」
「昼の話、協力するわ」
「…マジ?」
「ええ、マジよ。だから」
うまくいくかもわからない作戦、昼の話だけでは無謀と思えた最低な作戦。でも、サクラと仲良くなるには、1番可能性があるような作戦。
「私を、幸せにしてね」
半分脅すように笑ってみせた。手を差し出す。私の渾身の笑顔にやや顔を引き攣らせながら、キミヒトは私の手を取った。
「おう、任せろ」
こうして私たちは共犯者になった
ガシッと手を組んで 柊ハク @Yuukiyukiyuki892
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