テイスト・リマインダー・クリーム

刻堂元記

第1話 テイスト・リマインダー・クリーム

 いつもは、スキップボタンが表示される瞬間に、飛ばすウェブ広告。そんな広告の中にふと、面白いものを見つけた。それは、テイスト・リマインダー・クリームという少し変わった名前の商品の広告。早速、再生ボタンを押す。


「皆さん、こんにちは!昔食べたあの懐かしい味、もう一度、思い出してみませんか?」


 ここまでで約7秒。普通の人間なら、やはりスキップするかもしれない。しかし、この広告が発した最初の一言は、俺の心を揺さぶるのには充分だった。どんなに頑張って料理しても再現できなかった亡き母の手料理が、もう一度、この舌で味わえるかもしれない。一応、続きも見てみることにした。


「では、どうしたら、懐かしい味を思い出せるのか。それは、簡単です。まず、その味がどんなものだったか、できるだけ詳しく思い出してください。そして、次に、思い出したままの状態で、このクリームを舌に塗ってください。すると、どうでしょう!あなたがまた、味わいたいと思ったあの味がもう一度、味わえるんです!」


 およそ35秒にわたる広告が終了した。もっと、この商品について知りたいと思った俺は、直接、広告から、商品紹介サイトに移ることにした。そこには、テイスト・リマインダー・クリームに関する様々な情報があった。まとめるとこんな感じだから、ふーんって感じで見てくれ。



テイスト・リマインダー・クリーム


 無味無臭。味の再現は、テイスト・リマインダー・クリームを味覚センサーが多数ある舌に塗ることで、味覚を遮断。そんで、脳にある味覚神経と過去に食したことのある料理の味をうまいことリンクさせて、今、舌に塗ってあるものの味を昔懐かしい味だと脳に錯覚させる。また、食べても健康に問題ないものの、原材料が不明。



 そして、迷った末に俺は、この商品を買うのをやめた。理由は2つ。1つは、仮に、かつて食べた、まずい料理を思い出して、このクリームを舌に塗ってしまったら、クリームの味がまずい料理として脳が錯覚してしまうこと。

 

 2つ目は、この商品を買ったことにより、テイスト・リマインダー・クリーム依存症となってしまう恐れがあることだ。特に、虫歯になった故に、好きなものを食べれなくなった人がこの依存症になるケースが多いんだとか。

 

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テイスト・リマインダー・クリーム 刻堂元記 @wolfstandard

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