第12話 ピンチの時こそ勇者みたいになりたい

 子供達が幼稚園に通い初めて一週間が経った頃に、お泊りを二泊にしてみることにした。


 子供達は適応するのが早い。とくに蜘蛛三兄弟と狼兄弟は結束も適応能力も非常に高いことがわかった。兄弟がいて心強いのも大きいだろう。


 クークとチュダは非常にマイペースな性格のようだ。トゥンは俺の傍にいることが多い。人肌……いや羊肌が恋しいかもしれない。


 そして最近鬼ごっこと隠れんぼに挑戦している。子供達には大人気だ。特に隠れんぼだ。蜘蛛三兄弟とクークがマジで見つけられないので、みんなで必死に探すのだ。


 そして狼兄弟は匂いを辿る事を覚えた!


 これがすごい!どこに隠れてもすぐに見つかるのだ。


 ちなみに一番ダメダメなのは誰かと言うと、俺だ。


 鬼ごっこではすぐに捕まり、すぐにバテる。隠れんぼではなかなかみんなを見つけられない。


 みんなからはや~いや~い!と馬鹿にさるてる気がする。見かねた精霊人が今では代打で頑張ってくれている。俺は昔から運動はそんなに得意じゃないんだよ。恥ずかしい。



◆◆◆



 お泊りが二泊になってさらに一週間が経った頃に事件は起きた。


 その日はいつも通り昼間は沢山遊んで、みんなご飯を残さず食べてぐっすり眠ったはずだった。


 みんなが眠った後に反省会や明日のミーティングが行われる。


 改善点は早いうちに見直しをしないとずるずると妥協してしまうからだ。


「た、た、大変だポン!!大変だポン!!」


 幼稚園の職員室に狸精霊人のダンさんが血相変えて飛び込んできた。


「どうしたんだダンさん?」


「トゥンがどこにもいないポン!!」


 俺の頭は真っ白になった。


「ホントにちゃんと探したのかニャ?!」


「トイレも遊戯室も食堂も……幼稚園の中にはいないポン!!」


 職員室の中は一瞬にして大混乱に陥った。


「外の遊具で遊んでないかニャ?」


「誰もいないチュ!」


 どうしよう!どうすると精霊人はアタフタと挙動不審になった。俺もその一人だ。


「ちょ、みんな、ま、まず、お、お、落ち着こう!」


 お前がな!とツッコまれつつもなんとかしなくては!こんなときにヘタレていては先生じゃないのだ!


「パルは風の力で出来る限り広範囲を探して欲しい。シノさんは暗くならないうちに聖域内に篝火を頼む。火事にはならないようにな。ナナさんは他の精霊人にも声をかけてみんなで建物の中も含めて捜索だ! いつも隠れんぼで隠れてる場所も忘れるなよ! 俺も探しに行くから!」


「了解ですニャ」


「まかせるコン」


「急ぐでチュ」


 精霊人は急いで詠唱を始める。


「ニャニャーニャーニ゛ャ、ニャニャーニャー!」


「コンコーンコンゴッ……コンコーン!」


 なんか二人して詠唱を噛んでないか?……それより俺も探しに行こう!


 聖域ほど安全な場所はないって精霊人が言ってたけど大丈夫だよな?怪我したりしてないかな?


 冷静に考えるんだ。子供は、トゥンなら何をする?どこに行く?


 今は環境に慣れてきたから迷子にはならないはず。


 ホームシック


 考えが浮かんで唖然とした。なんで気が付かなかったんだろう。慣れてきたころだからこそ気をつけるべきだった。


 きっとトゥンは帰りたくなったのではないだろうか?繊細な子だからみんなに迷惑をかけないようにこっそりと……。


 俺は聖域の境界に向かって走り出した。普段は子供達には親か精霊人としか行ってはいけないと注意しているのが聖域の境界に近い場所だ。間違って聖域の外に出てしまったら、魔獣に襲われるし子供だとわかれば人間にだって狩られるかもしれない。


 最悪な場面を想像してしまう。


 嫌だイヤだ!トゥン!トゥンどこにいるんだ?!


 こんな時に勇者みたいにチートが使えればと考えて虚しくなる。


 すると俺の横にある木々がいっせいに割れるように道が開いた。


 まるでこっちにトゥンがいるぞ!と森が教えてくれているようだった。俺は藁にも縋る思いで割れた道をひたすら走った。


 木々が割れた道が終わると身体から何かが抜けたようにスッと切り換わった感じがした。


 変な違和感がした。


 森を走り抜けようとしても木々は左右に割れたりはしない。多分だが、聖域を抜けたんだ。ここから先は木々の道標がない。それでも俺は走った。ひたすら走った。


 木の枝に服が引っ張られ、枝や石に躓いて転ぶ。俺ってホントにトロくさい。自分で自分に腹が立った。早くトゥンを見つけないと何かあったら……。それだけが頭を巡っている。


 木々の間を走っていると人の声が聞こえた。


「……に……だ……。……!!」


「……ち……だ!」


 その声に胸が騒いで慌てて声のする方に走っていく。


 トゥン!トゥン!


 木々の間から弓を構えた人間が見えた。その弓が狙ってる方向にまだ小さい白い動物がいる。その子は……!


「トゥン!!!」


 見つけた安堵感よりトゥンを狙う弓に心臓が鷲掴みされたようになる。


「やめろぉぉおおおお!!!」


 ありったけの力で叫んでトゥンと人間の間に入り込んで、そして、転んだ……。


 俺は……勇者になれない……。たぶん、ずっと……。

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